チル・ウェイヴのオリジネーターの一人でもあるアーネスト・グリーンによるプロジェクト、ウォッシュト・アウト。その最新作となる「PARACOSM」がリリースされた。
比較的シンプルなロックアルバムであった前作「Within And Without」に比べると、今作はメロトロンの導入、そしてハープやヴィブラフォンのサンプリングなど、かなり作り込まれた密度の高いアルバムとなっているのが特徴だ。
メロトロンを導入した牧歌的かつファンタジックなサウンドは、ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のようであり、マッド・チェスター全盛期の90年代初頭に、その「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」をカバーしたキャンディ・フリップを思い出させるのだが、今にして思えばチル・ウェイヴのドリーミーな甘酸っぱさの源流はキャンディ・フリップあたりにあったのかも知れない。ウォッシュト・アウトに比べるとキャンディフリップの方が段違いにポップではあるのだが‥‥。
チル・ウェイヴは社会と向かい合うことを拒否した現実逃避型のベッドルームミュージックともいわれているが、6曲目のタイトルが、そのまんま「Great Escape」ときた。しかし、この曲がまた、デビューミニアルバム収録の名曲「Feel It All Around」を超える名曲で、この夏のマイ・ヘビロテ曲となること間違いなしのキラートラックだ。また、2曲目「It All Feels Right」、5曲目「All I Know」、8曲目の「Falling Back」もいい。耳を凝らせばしたたかなセンスとスキルが随所に透けて見えるアルバムとなっており、チル・ウェイヴの看板を下ろしても十分に通用する実力派であることを証明している。
全編を通して感じられるのはコンセプトアルバム的な統一性であり、多重録音による厚みを持たせたサウンドも含めてウォッシュト・アウト版の「ペットサウンズ」と表現することも可能だ。先述したようにチル・ウェイヴを現実逃避の音楽として蔑む動きも一部にはあるようだが、ポップミュージックの多くは昔から現実逃避ためのツールであり、そのことが音楽としての価値を下げる理由にはならないだろう。
ジーザス&メリーチェインの「サイコ・キャンディ」(キャンディ・フリップといい、どうやらキャンディはチルにつながるキーワードのひとつといえそうだ)を筆頭に、マイ・ブラディ・ヴァレンタインに代表されるクリエイションレーベルの面々など、現代のシューゲイザーにつながるアーチストはいずれも現実逃避型だった。いわば、白日夢系。もっとも、それはLSD時代のビートルズから連なる系譜であり、そもそも「ペットサウンズ」を生み出したビーチボーイズの音楽でさえ、金槌のブライアンウィルソンが見た夢、つまり現実逃避であったといえないこともないのだ。チル・ウェイヴにつきものの宅録のイメージがひきこもりのオタクという印象につながっているのだろうが、「PARACOSM」はファンタジーであり、むしろディズニーランドなどの世界観に近い。
靄のようなリバーブがかかっているから、いまひとつ分かりづらいかも知れないが、Washed Outは相当のメロディメイカーであり、捨て曲が少ない。そのムラのなさこそが、数多いフォロアーとは一線を画しているところであるといっても過言ではないだろう。
