Ananda Project〜時空を超えた楽園ハウス | Future Cafe

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BEAUTIFUL SEARCHING/Ananda Project

 アナンダ・プロジェクトによる5年ぶりの新作というのが本作のふれ込みである。ところが、アナンダ・プロジェクトは、「truth」というアルバムを昨年秋に出したばかりである。おかしいなと思って、よくよく帯を見てみると、どうやら〈Nite Grooves/King Street Sounds〉からのリリースが5年ぶりという話なのだ。確かに前作は〈Octave-lab/Ultra-Vybe〉からのリリースであり、アナンダ・プロジェクトが〈Nite Grooves/King Street Sounds〉以外からアルバムを発表するのは初である。しかし、沖野修也によるライナーノーツでは、そのような断りは一切なく完全に5年ぶりの新作ということになっている。これは一体どういうことなのか?久しぶりの作品ということにして、話題性を持たせたいのかも知れないが、何とも誤解を招きやすい表現だ。
 2000年「Release」、2003年「morning Light」、2007年「Fire Flower」、2011年「truth」といった具合に3~4年間隔でアルバムを発表してきたアナンダ・プロジェクトのペースからすれば、前作から1年を経ずしてのリリースは異例の早さといってもいいだろう。「1年を置かずして」と「5年ぶり」では受ける印象が真逆だ。アナンダ・プロジェクトことクリス・ブランは、昨年、アナンダ・プロジェクトとは別に、P'TAAH名義での8年ぶりの新作もリリースしており、5年ぶりどころか、むしろ旺盛な創作意欲の高まりを感じずにはいられない。上げ足取りのようだが、リスナーを混乱させるようなプロモーション表現はやめてもらいたいものだ。
 それはさておき、アナンダ・プロジェクトの新作「BEAUTIFUL SEARCHING」であるが、もはや信頼のブランドというべきか、ジョー・クラウゼルがスピリチュアルの人となってしまった今、これほどまでにハウスの王道を体現するサウンドも他に期待できないのではないだろうか。Terrance Downsがヴォーカルを取る5曲目の「Hanging On」などは、すでに古典の風格すらたたえてている。つまり、新しくないのだが、古さも感じさせない普遍的なサウンドというわけだ。 その他にも、
アナンダ・プロジェクトファンにはたまらないナンバーが揃っている。ヴォーカルにKai Martinをフィーチャリングした7曲目「Truth Comes Shining」は、クールネスの中に灼熱の高揚感を感じさせてくれる名曲だし、AKを起用した8曲目「Heaven is Right Here」でもギターの音色が特徴的な、実にアナンダ・プロジェクトらしい楽園サウンドを聴かせてくれる。
 あえて冒険はせず、ひたすら心地よいサウンドのみを追求する
アナンダ・プロジェクトの音楽は、いくつもの顔を持ち、P'TAAHなどの別名義で実験的なサウンドを展開しているクリス・ブランだからこそできる新しさを封印した王道ハウスといっても過言ではないだろう。
 とはいえ、10曲目「Awareness」や11曲目「Menage a Trois」には、リンドストロームを思わせるバレアリックディスコへの傾倒も見受けられるなど、そこに新しい展開を見て取ることも不可能ではない。変わらないことが、イコール退屈を意味するわけではない。アナンダ・プロジェクトのサウンドは、陳腐な表現かも知れないが、私たちに音楽を聴くことの本質的/普遍的な歓びを教えてくれる。


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