JAMES BLAKE〜夢遊病者のためのサウンドトラック | Future Cafe

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ENOUGH THUNDER/JAMES BLAKE

JAMES BLAKEのEP「ENOUGH THUNDER」は、ファーストアルバム「JAMES BLAKE」の延長上に位置する続編的な作品だ。あの澁谷陽一をして普遍性と現代性を併せ持つポップミュージシャンといわしめたJAMES BLAKEだけに、今作でも非の打ち所がないサウンドを聴かせてくれる。しかし、完全過ぎて逆に物足りなさを覚えてしまうといったら贅沢だろうか。
寡黙なダブステップサウンドの上にANTONY AND THE JOHNSONSにも似た悲しいR&Bボーカルが乗るという構成は、現時点ですでに古典芸能のように完成されてしまっている。5曲目「NOT LONG NOW」の後半など、かなり実験的な展開だとは思うのだが、前衛的なアレンジさえも予定調和に聞こえてしまうほど、そのスタイルには隙がない。
たとえば、オーガニックな人の声と実験的なエレクトリックサウンドの融合という意味では、かつてBjorkがマトモス等と組んで発表したエレクトロニカ作品「Vespertine」などに近い感触を持つアルバムといえなくもない。しかし、本作には「Vespertine」にはかろうじて存在していた齟齬みたいなものが一切見当たらない。人の声と実験的なエレクトリックサウンドが、あまりにも破綻なくスムーズに競演してしまっているのだ。まるで、夢遊病者のためのサウンドトラックといった趣だ。
もちろん、そのことで本作の価値が下がるわけでもないし、その破綻のなさこそがエレクトリックミュージック以外の音楽ファンにも広く門戸を開く結果につながったのだとも思う。しかし、正直、JAMES BLAKEの作品はもういいかなという気もしてしまうのも確かだ。JONI MICHELLのカバー曲「A CASE OF YOU」とタイトル曲の「ENOUGH THUNDER」はピアノの弾き語りによって歌われるのだが、どちらも素晴らしい。素晴らしいのだが、結局のところ、JAMES BLAKEの歌があればそれでいいのではないかと思ってしまうのだ。メランコリックな歌声とダブステップの奇跡のような邂逅、そしてたまゆらの蜜月を愉しむには前作と本作で十分だ。

追記
それにしても、先の見えない時代における希望を象徴したかのような「ENOUGH THUNDER」のジャケットは美しく、泣ける。



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