Rod Modellはデトロイトを拠点に活動するミニマルダブのテクノサウンドクリエイターであり、ベーシック・チャンネルフォロアーの最右翼に位置する人物である。80年代から創作活動を行っていたRod Modellは、90年代半ばにはMike SchommerIとともにレーベル〈DEEPCHORD RECORDS〉を立ち上げ、自身の作品を中心にディープ・ミニマルな音楽を発表していたという。
その後、Stive HitchellとDEEPCHORD PRESENTS Echospace名義のユニットを組み、UKの〈MODERN LOVE〉から2010年に2枚のアルバム「THE COLDEST SEASON」、「LIUMIN」をリリース。そして、前作「LIUMIN」から約1年を経て、3枚目となる「HASH BAR LOOPS」が届けられた。本作は〈MODERN LOVE〉ではなく、老舗レーベル〈SOMA〉からのリリースであり、Echospace抜きのDEEPCHORD名義でのソロアルバムとなる。
前作の「LIUMIN」では、新宿ゴールデン街にあるバー「流民」からタイトルがつけられ、ジャケット写真にはRod Modell本人が撮影した新宿の夜景写真とバー「流民」の写真が使われていた。さらに、日本滞在中にフィールドレコーディングされた山手線のアナウンスが楽曲中に使用されるなど、東京や歌舞伎町との関連性が強いアルバムだったが、今作はオランダの首都、アムステルダムに滞在して制作されたという。アムステルダムの中心部であるダム広場界隈は、ヨーロッパの歌舞伎町とでもいうべき歓楽街(歌舞伎町に比べてスケールは圧倒的に小さいが)で、売春宿の飾り窓が運河沿いに立ち並び、原色の怪しい光を浮かび上がらせている。今作のジャケット写真は恐らく、その飾り窓地帯で撮られており、タイトル名のハッシュバーはコーヒーショップ(合法的にマリファナが吸える喫茶店)があるアムステルダムならではの酒場の風景をイメージしたものだろう。
かつてのデトロイトテクノは荒廃する自動車産業のイメージと重ね合わせて語られることが多かったが、ミニマルダブは、人間の欲望をダイナミックに飲み込んでいく都市の深層とシンクロする音楽なのかも知れない。もちろん、「HASH BAR LOOPS」のサウンドをそのまんま歓楽街のダークサイドやドラッグの幻覚になぞらえるのは野暮だと思うが、Rod Modell自身もそんなステレオタイプなイメージを楽しんでいる気がする。なんといっても、5曲目のタイトルが「TANGIER」(作家のウィリアム・バロウズが麻薬漬けで「裸のランチ」を書いたことでも有名なジブラルタル海峡に面したモロッコの港町)なのだから。ズブズブにドープな暗がりの中で、欲望が乱舞するような3曲目の「SOFITEL」(ホテル名?)や先述の5曲目「TANGIER」、9曲目「CITY CENTRE」など、アップテンポなサウンドがいいアクセントになっている。
フランスの映画監督ギャスパー・ノエが新宿歌舞伎町を舞台に、都市のカオスや死者の視点を描いた「エンター・ザ・ボイド」という映画のサウンドトラックをダフト・パンクが担当していたが、本作こそがそのサウンドトラックにふさわしいと思う(ダフト・パンクの曲も悪くはなかったが)。都市のネオンサインと暗渠。ドラッグによる覚醒と幻覚。退廃とエロス。上昇と下降を繰り返しながら、破滅を指向するタナトスのようなサウンドといったら言い過ぎだろうか。
蛇足だが、DEEPCHORD PRESENTS Echospaceとミニマル・ダブレーベルの〈ECOCHORD〉は多分関係ないが、紛らわしすぎると思う。

Sofitel/Deepchord
Tangier/Deepchord