2020年3月からの2ヶ月、ロックダウンをパリで経験した辻仁成の日常を綴った日記。
辻は、すでにパリに在住18年になる。中山美穂との間に生まれた息子を離婚後引き取ってシングル・ファーザーとなっている。
「まさかこんな日常がやって来るとは思ってもいなかった。全てのカフェやレストランが閉鎖され、外出も制限され、華やかなものが全て消え去ったこんなに質素なパリを目の当たりにするとは思ったこともなかった。.....全てが初めて見る光景であった。」
日本でも、ステイホームの奨励があったが、フランスやイタリアとは比較にならないほど緩かった。ヨーロッパの警察は怖い。外出制限に違反すれば、罰金、拘置が本当に待っている。
辻親子は引きこもって、得意の料理作りなどで、気分を高める。
「.....生き抜くぞ、となぜか思った。ぼくに出来ることは家事、子育て、家回りのこと、買い物をすること、食事を作ること、そして、フィクションよりも凄まじい時代だけれど、小説の続きを書くことだ。....それが生きることの基本だった。米を研ぎ、美味しい食事を世界一小さな家族のために作ること、それでいいじゃないか、と思った。」
さらに周囲の世界に新しい現実を発見する。
「いつもの春だけれど、なぜだろう、いつもとは違う春に見える。いつもは気にもしない草花なのに、今年はこんなに気になってしまう。誰にも期待されずに咲かせた花なのだろうに、ぼくはこんなにも励まされている。優しい風が流れていく。眩しくて思わず、目を細めてしまう。」
やがてロックダウンは解除される。日常は少しずつ戻るが、コロナ禍は去ったわけではない。
「そこで気になっているのは「終息するまで頑張ろう」というメッセージだ。人間の忍耐には限りがあるので、いつかこの苦しみが終わると思うからこそ、試練に耐え、訓練などが出来るわけで、一生続くとなったら、絶望しかない。.....今は考え方を変えた。これは終息しない。人類はずっと付き合っていくものだという認識に変更したのだ。そう考えるようになってから、ちょっと楽になったというのか、割り切ることが出来た。」
まさに「なぜ、生きているのかと考えてみる」稀有の機会となった1年であった。
なお、文中「某月某日」の記述が続くがこれは、いただけない。事実と異なるにせよ、日付は振ったほうがリアル感が上がると思う。


