本書を手にする前に、私の米国観は、かなり悲観的なものだった。とくにトランプが大統領になってからの米国には、こんな人物を選ぶ人々が人口の半分もいるという事実に驚き呆れた。それが頂点に達したのが2021年初頭の、トランプに扇動された支持者たちの国会襲撃事件である。
私は、古代ローマ帝国に思いを馳せ、暗愚な皇帝たちと、かつての繁栄した帝国が、衰退してゆく様を、今日の米国に重ねていた。
しかし本書は、分断しているように見える米国にも、希望はあると説く。たしかに「アメリカ社会は多様性と統一性という理想に、いささか疲れている」ように見える。だが、矛盾や対立が極端に走るのを制御するシステムが健在なのが、米国の強みなのだ。人口動態からみても、これから30年後に人口が多くなる世界10ヵ国の中で唯一の先進国が米国なのだそうだ(第4位)。
著者の専門は、米国憲政史である。いくつかの著書を読んだが、抑制の効いた精緻な論述には感心した。ことに最高裁の機能は、自由と平等の相剋がせめぎ合う場として興味深い。
文中、先人たちの文章の引用が印象的だ。就中、福沢諭吉の「学問のすすめ」からのこの一節:
「独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐る者は必ず人に諂うものなり。常に人を恐れ人に諂う者は次第にこれに慣れ、その面の皮、鉄の如くなりて、恥ずべきを恥じず、論ずべきを論ぜず、人をさえ見れば唯腰を屈するのみ」
著者は「アメリカで忖度する人は稀である」と書く。


