昨年逝去した芳賀徹の珠玉の小論文を集めた2冊のうちの前編。時代は18世紀後半、田沼意次の頃、芳賀のいう「パックス・トクガワーナ」に勇躍した「おもしろい」文人、学者、画家たちの紹介集である。
「鎖国制と、苛酷であるよりはむしろ穏健な専制支配と身分制の格式もとに保証され、いわば催眠術にかけられたかのような国民生活の、平和と静穏と秩序」「この孤島の共同体内に熟した一種の飽和的自己充足感」の中での「逸民的理想主義」者たち、蘭学の平賀源内、杉田玄白、司馬江漢らが主人公だ。
就中『解体新書』の挿絵を描いた秋田の若き無名の小田野直武を玄白らに紹介した源内の動きを書いた章は本書の白眉である。芳賀は江戸と秋田の奇跡的応酬を「安永三年のフットボール」と名づけてシャレている。
芳賀の認識は、日本の文明開化は、黒船以前から当時の好奇心溢れる人々の手で進められていたのだ、というものである。
