親ばなれ
都心の桜が満開になった日。
習いごとの門の前で子どもを待ち構えていたら
「ママひとりで先に帰ってて。お友だちと一緒に帰るから」と
にこにこ手を振る姿がありました。
「あら、そう? 気をつけてね」と
クールにきびすを返しましたが、
ああ、とうとう来たなという喜びと
軽い切なさと、春の光の眩しさとで、
目の前の風景が小さくゆらぎ、
こっそり息をついたのでした。
少し離れてから振り返れば、
友達と笑い合っているらしい
シルエットはたしかに就学期のそれで
親の仕事にひとつ区切りがついたのだな、と
感慨深く思わずにはいられませんでした。
ここからは、よせては返しながら遠ざかっていく引き潮のように
ゆっくりと呼吸を合わせながら
親ばなれ子ばなれの営みが始まるのでしょう。
それにしても、あっさりと子どもから手を離していった春の午後でした。