National Gallery編、まだまだ続きます。
今回はスペイン絵画です。
スペイン絵画といえば、筆頭はやはり、ベラスケス でしょう。
鏡を見るヴィーナス(ロークビーのヴィーナス) (1647-1651年)
ゴヤ が本作に影響されて『裸のマハ』を描くまでは、スペインでは唯一の裸婦画であったそうです。胸を露出させず、顔も鏡の反射という図柄にしているのは、ベラスケスといえど、遠慮があったのでしょうか? ベラスケスの作品は、肖像画や宗教画が殆どなので、貴重な一枚です。
ルーベンスやイタリアの伝統的な裸婦画のように”豊満”な体型でない事、髪形が当世風である事から、モデルは実在の人物で、イタリアで出会った愛人とする説が有力らしいです。
アラフィフになって、その若い愛人にイレこみ、ハイになって、ヌードを描いてしまったのでしょうか?(笑)
実際の所は、この絵の注文主は宮廷で高い地位にあり、女好きで、芸術保護にも熱心であったそうなので、そうした背景から描かれたのでしょうけどね。
ベラスケス作品には神秘性を感じるような独特の美しさがあると思うのですが、この作品からはちょっと違うテイストを感じました。
台所の情景-マルタとマリアの家のキリスト (1618年頃)
19歳頃に描いたと推定される初期の作品。
右上の壁に架かっている絵は 『マルタとマリアの家のキリスト』。
イエスがマルタ&マリア姉妹の家を訪れた際、マリアがイエスの説教に聞き入り、もてなしの手伝いをしない事をマルタが咎めた所、「マリアの方が正しい。マリアは神の言葉を選んだのだ」とイエスが戒めたというエピソード。
この画題はフェルメールも描いていて、現在、上野で展示されています。
マルタとマリアの家のキリスト/フェルメール
このベラスケス作品では、マルタに該当すると思われる若い女性が一生懸命に食事の用意をしています。左の初老の人物(女?)はイエスに該当するのでしょうか?
『マルタとマリアの家のキリスト』 のエピソードとは違って、女性の日々の地味な仕事を讃えているような気が私にはします。
あるいは、私の大いなる勘違いで、「食事の準備など後にして、祈りなさい」とでも諭されているのかもしれませんが・・・
テーブルの上の食材は質素で、カラヴァッジョが『エマオの晩餐』で描いた豊かな果物とは随分違います。しかし、その静物描写、特に銀色に光る魚と白く光る卵は秀逸です。
20歳前でこの技量ですから、やはり天才は違いますね。マネに言わせれば、「画家の中の画家」ですから。
茶と銀の装いのフェリペ4世 (1632年頃)
ベラスケスが仕えたスペイン王。
スペイン王の肖像画として伝統的なポーズであるそうです。
手にしているのは請願書で、そこにベラスケスの署名があるそうです。
ハプスブルク家特有の顔の特徴、おどおどして優柔不断そうな王の性格がよく現れていると思います。これでも、美化して描いているらしく、王は他の画家には肖像画を描かせなかったそうです。
衣装の細かい銀の描写に卓越した技量を感じるし、絵全体が醸し出す空気感もベラスケス感が充満しています。
フェリペ4世 (1656年頃)
続いて、ギリシャ生まれながら、スペイン絵画のTOP3の一人に挙げられる エル・グレコ
神殿から商人を追い払うキリスト (1600年頃)
エルサレムの神殿で、キリストが「私の家は祈りの家である。それを強盗の巣にしている」と言って、両替商達を追い出している場面。「宮清め」とも呼ばれる主題であるそうです。
キリストの向かって左側が商人達で、奥の石壁には「アダムとイブの楽園追放」が彫られていて、呼応しています。
アダムとイブの楽園追放/ミケランジェロ(システィーナ礼拝堂の拾い物写真)
キリストの向かって右側が信徒達で、赦しを与えられています。奥の石壁には「イサクの犠牲」が彫られています。
イサクの犠牲/レンブラント(2年前にエルミタージュ美術館で撮影)
グレコ作品は、垂直方向への動きを感じる絵が多いですが、本作は左右へ広がっていく感じで珍しいなと思いました。
スペイン絵画TOP3のトリは、ゴヤ
ドーニャ・イサベル・デ・ボルセール (1805年以前)
マハ(小粋な女)の衣服である黒い薄絹のショール(マンティーリャ)を着て、フラメンコでお馴染みのポーズでキメています。スペイン女性らしい、生命力・情熱・色気が感じられます。
アントニオ&イサベルはゴヤの親しい友人で、夫妻の家で手厚いもてなしを受け、その返礼に描いた肖像画であるそうです。
ウェリントン公爵 (1812-1814年)
ゴヤが描いた唯一のイギリス人であるそうです。
1812年、フランス軍からマドリッドを解放して入って来た時の肖像画との事です。勲章だらけの誇らしい姿ですね。
ゴヤは、モデルの口を微かに開かせることによって、表情を活き活きとしたものにするという手法をよく使ったそうで、この作品も該当します。写真がボケていて、わかりませんね・・・
TOP3(横綱)に続く大関クラスは、ムリーリョ と スルバラン でしょう。
二つの三位一体(聖家族) (1675-1682年)
1635年からスペインは欧州各地の戦争に関わり、1649年にはセビーリャ(ムリーリョ、ベラスケスの故郷)の人口の半分がペストで死亡し、1652年には暴動も起こったそうです。
ムリーリョ 9歳の時に両親は亡くなり、奥さんと子供(9人中6人)は彼よりも先に亡くなったそうです。
そんな苛酷な人生を反映してか、優雅で愛らしい優しさの感じられる絵しか描かなかったようです。浮浪者の子供でさえも、優しさに包まれた感じで描きました。
そんな ムリーリョ らしい聖家族の絵です。セビーリャの聖堂の祭壇画として制作されたとの事です。
イエスの右横のヨセフは、花の付いた小枝を持っていますが、これは聖母マリアの夫になる事についての神の意志の象徴という意味があるそうです。
自画像 (1670年頃)
ちょっと凝った図柄ではありますが、自らはリアルに描いたようですね。
最後に、スルバラン。
アンティオキアの聖マルガリタ (1630-1634年)
聖マルガリタ はキリストに身を捧げるため、アンティオキアの総督の求婚を拒否ったため、地下牢に幽閉されます。そこへ悪魔の化身の龍が現れ(この絵でも左下から背後に龍が描かれているが、写真では暗くてわかりずらい・・・)、彼女を飲み込みました。しかし、彼女は十字を切り、中から龍を割いて出て、助かりました。しかし、その後、処刑され、殉教者となりました。
この絵では、マルガリタは羊飼いの恰好をしています。羊の世話をしていたという話も伝わっているそうで、それをベースにしたようです。
スルバラン&羊と言えば、昨年、王立サン・フェルナンド美術アカデミー で観た作品を思い出します。
神の子羊
『聖マルガリタ』も『神の子羊』 も、徹底した写実主義的描写に目を見張ります。
強烈な明暗もスペイン・バロックの典型ですね。
スペイン絵画については、ルーブル よりも NG の方が断然、充実していると思います。
見応え満点でした♪
※
2019年はレンブラント没後350年という事で、アムステルダムでレンブラント&ベラスケスの企画展が開催されるようです。プラド美術館から多くの傑作が出展されるようです。
Rembrandt – Velázquez 11 October 2019 – 19 January 2020
https://www.rijksmuseum.nl/en/the-year-of-rembrandt
Masterpieces by Velázquez, Rembrandt, Murillo, Vermeer, Zurbarán, Hals and Ribera are on display together for the first time
近くであれば行きたいけどなあ・・・