遅くまで部活をしていた生徒を迎えに来た車の通り過ぎる
音も聞こえなくなった。
生徒は、ほぼ、全員が帰宅したようで人の気配はなく
辺りはシンと静まり返りかえっている。
おそらく、学校に残っている生徒は、ここに居る二名だけだろう。
柱時計だけが規則的な機械音を退屈そうに奏でている。
気のせいだろうか?
その音がだけがその存在感を示すようにやけに大きく聞える。
広々とした室内の前列の席には、一人の女生徒が
俯き加減で座ったまま微動だにしない。
その右前方には、一人の男子生徒が憔悴しきった表情で
何も見えない窓の外を見ている。
時折、思い出したように車のヘッドライトが窓を照らす以外に何も
見えないその景色の一点を睨んでおり、視線を落とそうとは
しなかった。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
男子生徒が「読んで」とその静寂を破る一言を発した。
女生徒の机の前に昨日の「上毛新聞」が広げてある。
女生徒は、聞こえているのか聞こえていないのか
言葉を発しようとしない。
「読んで!」
さっきよりも大きな声に肩を震わせると
彼女は、恐る恐るその記事を音読し始めた。
「ほ...ほっちゃん...ショック...尾野真千子が別の
男と逆転婚へ...」
ゴモラ「違うでしょぅ!そこ違う!じゃなくて!もっと
下ぁ!」
鯰チャン「情報発表時刻 2013年5月1日 20時18分
発生時 2013年5月1日 20時15分ごろ
震源地 千葉県東方沖 マグニチュード3.8 最大震度1...」
ゴモラは、ため息を漏らすと女生徒に顔を向けて睨みつける
ように言葉を放った。
ゴモラ「どゆこと?」
ゴモラ「おイタしちゃらめってゆったよね?」
鯰チャン「・・・・」
ゴモラ「ゆった!」
叫ぶような大声が視聴覚教室いっぱいに広がる。
鯰チャンは怯えたような顔をしてブルブルと震えている。
ゴモラ「自制できないんだね?」
さっきとはうって変わった優しげな声が鯰ちゃんを包む。
鯰チャンは、コクリと頷き、そのとおりであるという意思を
見せる。
鯰チャンは、推測するにおそらく”意識”してやっているのではなく
”無意識下にあると思われる鯰の本能”に捕われているのかもしれない。
対策として、その”本能”を制御できる”精神力”を”目覚め”させなけ
ればならないのだけれど...どうすれば...
ゴモラ「...やるしかないか...」
鯰チャン「?」
ゴモラは、躊躇していた。
もし、もしもだ...これが失敗すれば、おそらく彼女の人格は
崩壊して取り返しの付かないことになるであろう。
先進の現代精神医療技術をもってしたとしても、おそらくは、彼女を
”治す”ことはできないことは分かりきっている。
なぜらならば、彼女は、”鯰”だからだ。
”鯰”である事実は、「僕」と「彼女」だけしかしらない「秘密」
なのだから。
今後、このような状態が継続しれば、”取り返しのつかない”ことが
起きるに違いない。
僕は、この”秘密”を知る唯一の”人間”としてそれを阻止しなければ
ならない。
そんな想いが僕を決心するに至らせた。
ゴモラ「行こう...」
鯰チャン「...何処へ」
僕は、ゆっくりと彼女に言い聞かせるように言った。
ゴモラ「地下室内プール...だ」

※イメージです。(まど☆マギのほむらちゃんとは関係ありません)