この手の“ビジネスもの×大人の青春ドラマ”って、地上波ではもう日曜劇場くらいしかやっていませんよね。そういう意味では本作、とても貴重な枠だと思います。

 

冒頭の北海道での空撮、洗練されたクレジットデザインなど、映像全体のルックにこだわりを感じ、

塚原監督らしい演出だったと思います。

 

あと、この監督、スピード感の表現も上手いですね。

 

クライマックスの競争シーンでは、余計な演出を一切挟まず、馬の疾走と応援する人々のカットバックだけでシンプルに見せ切ったのはとても良かったです。

 

横山克さんの劇伴も素晴らしかったです。

ゆっくりとしたテンポでズシンッズシンッと盛り上げる感じは、こういう系の作品を担当されるときの横山さんらしい音楽で、映像と音が一体になっていました。

 

また、登場人物は多いですが、主人公視点のエピソードメインで話が進むため、場面転換が多くても、物語の流れを損なわない作りになっていたのは良かったです。

この辺は喜安浩平さんの脚本も上手く整理されていたように思います。

 

 

ただ、初回ということで、状況説明が多く、前半はやや退屈に感じました。

 

そのわりに、登場人物の関係性や背景が明確に描かれない部分も多く、セリフや回想から何となく理解はできるけれど、
「結局この人とこの人ってどういう繋がり?」と引っかかる場面がありました。
(私の理解力の問題かもしれませんが…笑)

 

こういう作りのドラマを見ていると毎回思うのですが、登場人物の背景は最初に“バンッ”と提示してしまって、あとは本筋を時系列通りにぐいぐい進めてくれた方が見やすい気がします。
 

特に本作のように設定が盛り盛りな場合は、なおさらそう感じました。

 

妻夫木聡さん演じる主人公・栄治の描かれ方にも、構成の面で少し疑問が残りました。
序盤では冷めた雰囲気で描かれていた彼が、途中から佐藤浩市さん演じる社長に協力し始める…。

その理由がいまいち明確にされないまま中盤のクライマックス、栄治が社長を説得し不正を見破り、税理士事務所を退職する展開に入るんですけど…。

 

職を失ってまで社長に手を貸す展開に「なぜそこまで?」と引っかかりました。

 

そのあと社長に誘われて競馬に行くと、「何がこんなに人を引き付けるんでしょう…?」って、聞いたりしているので少なくともこの段階で競馬に魅力を感じているわけではなさそうですし…。

 

栄治が言葉には出さない何かを感じて協力しているんだろうなというのは、そこまでに断片的に匂わされる、電話や回想シーンなどから分かるんですけど…。

 

見ている側としては、やっぱり「昨日今日出会った馬が可哀そう」くらいの動機しか明示されないので(←十分な動機かもしれないですけど…、キャリアを捨ててまでかと考えると…笑)、初見では盛り上がり切れないシーンでしたね。

 

終盤のクライマックスでその詳細な動機が明かされるのですが、
視聴中の段階では途中までやや主人公に感情移入しづらかったのが正直なところです。

 

あとは、登場人物のキャラ付けも少し薄味というか、真面目過ぎるというか…。

極端なキャラ付けはしなくていいんですけど、各登場人物の性格が垣間見える演出がもう少しあっても良かったのかなと思いました。

 

ただ、これだけのキャストを揃えているにもかかわらず、初回は贅沢に栄治と耕造社長のエピソードにほぼ絞って丁寧に描いた点は感心しました。

(ここは初回からドカ盛りした水10ドラマとは対照的でしたね…。笑)

 

あと、終盤の競馬シーンはロイヤルファイトを見守る尾美としのりさん演じる林田と、松本若菜さん演じる加奈子、冷静に見守る津田健次郎さん演じる記者、一切表情を変えず何か訳ありそうな沢村一樹さん演じる椎名、そしてつい熱くなる主人公の栄治、それぞれの表情と、映像や音楽の完成度も相まってとても引き込まれました。

 

もっと欲を言うと、メインキャストの表情だけでなく会場全体の雰囲気見せるカットがもう少しあるとより臨場感が出てよかったのではないかなと思いました。(ここだけはルーズヴェルトゲームだかノーサイドゲームくらい演出で、観客の声や熱気をまとめてガッと拾っても良かった気がします。)

 

今後キャラクター同士の関係性が見えていくことで、
より「大人の青春ドラマ」?としての魅力が増していくことを期待したいです。

 

 

「ザ・ロイヤルファミリー」

主演:妻夫木聡

原作:早見和真「ザ・ロイヤルファミリー」

脚本:喜安浩平

演出:塚原あゆ子

 

主題歌が玉置浩二さんなのも良かったです。

放送前の期待度で、この手のジャンルは苦手みたいなことを書いたんですけど、

 

こういう“考察系ドラマ”がはやり始めた当時って、プライム帯のドラマは刑事もの、医療もの、弁護士ものばかりで埋め尽くされていて、
だからこそ、こうした長編サスペンスが登場したときは、それ自体が新鮮で、「ちょっと他とは違うジャンルものを作ろう」という気概を感じる作品もそこそこあったんですよね。

実際、それに呼応するように考察系YouTuberやSNSでの推理?予想合戦?も盛り上がり、一つのブームを作ったジャンルだったとは思います。

一方で、近年の地上波ドラマは「ラブコメ」か「考察ドラマ」が増えてしまい、見る前からある程度省いてしまっているのが正直なところです(笑)。

 

 

ただ、本作は、その“考察ブーム”の文脈を引き継ぎながらも、演出のトーンが非常に落ち着いていて、あまり苦手意識を持たずに見続けることができました。

 

新木優子さん演じる園子と、間宮祥太朗さん演じる将が目を合わせる瞬間の、ほんのわずかな視線の動き。
意味深なセリフを交わすときに、あえてアップや派手なSEを使わない静かな演出。

 

どれも、狩山監督の抑制の効いた演出と、Jun Futamataさんの劇伴が支えていて、作品のトーンが非常に整っていたように思います。

 

(私はあまり見ていなかったのですが、「恋は闇」も似たようなトーンの演出だった記憶があるので、最近の同局の考察ドラマは、ちょっと控えめな演出スタイルにシフトしているのかもしれませんね?)


あとは、(出来の悪い長編サスペンスあるある)警察が“無能な存在”として描かれすぎなければ、より好印象かなと思います。

 

物語の構成に関しては惜しさもあって、

園子の小学生時代の回想シーンを、将と幹太が取材を受ける場面の前に配置した方が、より彼女が過去を語るシーンの緊張感が高まったのではと感じました。

いじめの実態がまだ見えない段階でセリフだけで明かされると、どうしても「説明されている感」が出てしまうのと…、

 

将が実はいじめをしていた事実も、園子の口から語られる前に、あの回想シーンの“蹴り一発”を見せたほうが強い印象が残ったのではないかなと思いました。
 

 

それにしても――いじめた側って、こんなに覚えていないものなんでしょうか。

 

人の死をエンタメとして見るのがつらい人、ジェンダーをエンタメで描くことに抵抗がある人、様々いると思いますが、私はいじめを題材にした作品をエンタメと割り切って見れないタイプの視聴者なので、もう少し突っ込んだこと書くと…。

 

これは、あくまで私の主観で、誤解を恐れずに書きますが、

 

いじめられた側であっても、その後の人生がそれなりに上手くいってると、大なり小なりトラウマが残ったりしても、復讐までしようとは考えない可能性が高いと思うんです。関わらないほうが幸せなので…。

 

そう考えると、いじめをしていた側、されていた側どちらであっても、今の人生に満足しているときは忘れていて、ふと今の人生が嫌になって過去を振り返った時に、「あ~あのいじられてたやつどうしてんのかな~?」とか、「あのときいじめられたせいで…許せない。」みたいな感じになるのかなと思っていて、

 

そのため、本作において、今の人生にどこか不満を抱えている将が、過去のいじめを“忘れられなかった”というのも、非常にリアルな描写だったように思いました。

 

まあ、単純に主人公にどこか特別感というか(かろうじての)ヒーロー性を与えたかったがゆえの設定かもしれませんけどね…。

 

また、この理屈でいくと園子が、そんな過去の人間関係に積極的に関わろうとするのはなかなか勇気があるなと感じました。

 

いじめた奴らみたいになりたくない思いから努力してきたのに、

自身のつらい過去を利用した犯人が許せないという動機があるにせよ…。

 

だから、やっぱり園子が犯人でしたなんて結末になったら、個人的には、よっぽどの理由がない限りげんなりしそうです…。あーソウデスカって…笑
 

本作はどこまで描いてくれるのか?お手並み拝見です。

 

 

「良いこと悪いこと」

主演:間宮祥太朗、新木優子

脚本:ガクカワサキ

演出:狩山俊輔

本作に対するスタンスから書くと、上戸彩さん主演のシーズン1〜2は再放送で断片的に視聴し、沢村一樹さん主演のシーズン3〜4はリアルタイムで全話見ていました。もっとも、シーズン4は途中で飽きてしまい、あまり真剣に見ていなかったのですが・・・。ただ、物語の大筋は把握した状態で今回の新作に臨みました。

そもそもシーズン3の放送当時は、映画「昼顔」のヒットを受けて上戸彩さん主演の企画を立ち上げようと、絶対零度シリーズを引っ張り出したものの実現せず、もともと出演予定だった沢村一樹さんを主演に据え、上戸さんは特別出演という形になった──という経緯があったような気がします(当時、プロデューサーさんがインタビューでそんな話をしていた記憶があります)。

シリーズ3、4は“月9らしい華やかさ”を意識してかアクションシーンを盛り込んだ作りで、結果的にそこそこヒットした印象でした。

 

続くシーズン4では、前作である程度決着も付けたし「もう良いでしょ!」と言わんばかりに、上戸さん演じる桜木泉も登場せず、シーズン1〜2はなかったことにして(あまり意識せず)進んでいたような記憶があります。

 

そして今回。主演に沢口靖子さんを迎え、しれっと再始動した絶対零度シリーズ。

 

てっきり本作もそのシーズン4の延長線上でいくのかと思いきや、プロデューサーがシーズン1~2を担当された成河広明さんに戻ったためか、丸山智己さんの登場、桜木からの電話など、むしろシーズン1~2のほうを意識した作りになっていて、ちょっと驚きました。

 

まず、良かったところ・・・はあまりないのですが好ましかったのは、

 

放送前、脚本スタッフの弱さを懸念していたものの、いざ蓋を開けてみると、意外にも王道の刑事ドラマとしてしっかり作られていた(?)点です。

情報犯罪が身近に潜む恐ろしさ、点と点が繋がっていく展開、そして二手に分かれた実行犯の同時逮捕──構成自体は非常にオーソドックスですが、丁寧に作ろうとする姿勢が伝わってきたのは好感が持てました。

前作、前々作のなんちゃって刑事ドラマぶりと比較したらの話ですが・・・。笑

 

また、テンポ重視のためか、序盤から登場人物の紹介パートを省いて話が進んだため、

沢口靖子さん演じる主人公・二宮の人物像や、情報犯罪特命対策室(通称:ディクト)内での立場が掴みづらく、前半はなかなか魅力を感じられませんでしたが、

 

クライマックスの「そこまでにしよう」というセリフと共に暗闇から登場するシーンでは、一転して圧倒的な存在感を発揮。演出の見せ方も力が入っていて、一気に作品全体が締まったように感じて、そこは良かったですね。

 

もっと沢口さんの意外さを押し出して話題性を狙う企画かと思っていましたが、案外安定した演技に終始されていて、若干拍子抜けしたものの・・・、

 

さすが、普段から科捜研で自ら物証探しに奔走したり、捜査一課の刑事と組んで犯人を追いかけたりしてるだけあって、(調べたら60歳とのことで驚きですが、)本作くらい動き回って捜査するのは、お手の物といった感じでした。笑

 

話の作りとしても、特に中盤の自転車逮捕シーンやクライマックスは、ここ数年の「相棒」杉下右京スタイルとでも言うべきか(笑)──雑魚相手のアクションは若手に任せ、自身は基本言葉で場を制し、ここぞというところで、一発アクションをやるところも、なかなか見せ方が整理されているなと感じました。

 

決めゼリフなんかがあると、なおいい気がしますね。

今回みたいに、毎回罪状を言いながら相手を追い詰めるとかも、ベタかもしませんが良かったです。笑

 

いっそのこと「首を洗って待っていなさい!」「必ずホシを挙げます!」「ふんどしを締めなおして捜査に当たるわよ!」??とか、古典的(?)なセリフを言わせてみるのもありですね…、──ないか…。

 

放送前に気になっていた2名いる芸人枠も、違和感なく馴染んでいたように思います。特に心配していた金田哲さん(はんにゃの金田さん・・・ですよね? 多分) も、強盗実行犯を捕まえる場面で、登場シーンは格好よく決めつつ(←ここが重要)、間抜けな素が出てしまう流れなんかはなかなか良かったです。笑

 

と、まあここまでが一応好ましいと感じた部分です。笑

 

 

初回で最も気になったのは(上にも少し書いた通り)、登場人物の紹介を省いたことによる“取っつきにくさ”です。情報犯罪特命対策室のメンバーの立場や背景が掴みにくく、感情移入しづらいまま話が進んでしまったのは、失策だったと思います。

 

この“登場人物紹介を省略するスタイル”は他の作品でもたまに見られますが、

出だしのテンポを良くする反面、メインストーリーを進めながら上手く登場人物のキャラクター紹介をしないといけないため、脚本に高度な構成力が求められます。その点、本作の脚本はやはり力不足に感じました。

 

また、丁寧に作ろうという姿勢は伝わるものの、全体的に「面白くない」というのが正直な感想です。盛り上がりを感じたのは、何度も書いているクライマックスでのベランダからの逃走〜確保シーンと、屋上での沢口靖子さんの立ち回りくらい。それ以外の会話劇などには魅力を感じませんでした。

 

前作、前々作はなんちゃって刑事ドラマだなんて書きましたが、それでもそこそこ評判だったのはミハンチームのキャラ分けがしっかりとしていて、派手なシーン以外も何となく見ていられたからだと思うんですけど・・・。

 

今作ならば、

横山裕さん演じる山内や、黒島結菜さん演じる元システムエンジニアのメンバー・紗枝あたりを主人公の相方につけて“バディもの”として展開する、

ディクトのチーム感を強調する、

あるいは(私好みではありませんが)裏切り者を探す考察ドラマ的な構成にするなど、工夫してほしかったところですが、

 

どれも、若干やろうとはしているものの、中途半端だったように思います。

 

あと、紗枝のキャラ設定についても気になるところがあって、

この手の題材で何でもできちゃうハッカーキャラ(?)みたいなのを作ってしまうと、結局コイツ一人いればよくね?ってなってしまうので、キャラ付けはもう少し考えた方が良いと思いました。

 

いますよ、確かに刑事ドラマでこういう役柄。ミハンチームなら柄本時生さん演じる南くんとか…。

 

ただ、今作はサイバー犯罪などをテーマにしているわけですから、それに強いメンバーが集まったことにして、そのなかでキャラ分けしないといけなかったんじゃないかな…という気がします。

 

せっかく主人公の二宮が、生活安全課出身のキャリアを活かして、直接人とかかわって情報を集めてくるキャラクターにしてるんですから、

 

「dele」の圭司と真柴コンビばりに、外に出て情報収集組と、室内で解析組に分けて、

そのなかでそれぞれに得意分野を与えて役割分担すれば、必然的に各登場人物に見せ場ができて見やすくなったと思うんです。

 

あと、絶対零度シリーズといえば、シーズン1〜2のLOVE PSYCHEDELICO、シーズン3〜4の横山克さんのメインテーマや家入レオさんの主題歌など、耳に残る音楽が印象的でしたが、今回はそこも物足りなかったです。

 

KOHTA YAMAMOTOさんの劇伴は好きですが、本作初回では特に印象に残る音楽が少なく、主題歌もシーズン3~4っぽい切なさはあるものの、もう一歩インパクトが欲しかったところです。

(クライマックスで流れた音楽はちょっと良かったです。)

 

 

強盗の実行犯がベランダから飛び降りて逃走するシーンとか、前作までの格闘技系(?)のアクションシーンとは違う楽しさがあって良かったので、あんな感じのを毎回やってくれれば見たい気持ちもあるんですけど、どうやら次回はロマンス詐欺とのことで…、リタイアしてるかもしれません。

 

 

「絶対零度〜情報犯罪緊急捜査~」

主演:沢口靖子

脚本:鈴木洋介

演出:田中亮