序盤から「若者たち2014」を彷彿とさせる登場人物たちの怒鳴り合い殴り合いで離れてしまった視聴者は多かったと思います・・・。笑
脚本の三谷幸喜さんが事前のインタビューで「本当は深夜にこっそりやるつもりだった」「誰も喜ばないドラマになるかも知れない」みたいな発言されていた通り、かなり視聴者をふるいにかける作風になっている気がします。
まず、個人的に良いと思ったところから・・・。
何より心を掴まれたのは、クライマックスで菅田将暉さん演じる主人公の久部が、思わず二階堂ふみさん演じるリカのダンスにスポットを当てる場面。
演出家としての血が騒ぐ瞬間であり、彼と劇場の人々のその後を予感させる見事な演出でした。
役者陣の演技も素晴しく、特にラストシーンは圧巻でした。
リカがダンスを終えたあと、ふと顔を上げて少し笑う。そのあと久部の表情が照明の陰から浮かび上がり、彼も満足げにニヤリ――この二人の視線の演出も本当に良かったです。
劇場の姉御的存在のダンサーをアンミカさんやっているのも面白かったですし・・・。笑
舞台監督の野間口さんも良かったです。笑
終盤でだらだらと次回への引っ張りを作らずに、最も良いシーンで本編がスパッと終わり、落差のある主題歌が流れエンドロールに入る流れも小気味よくて、本作の世界観には合っていたと思います。
あと、オールセットであることを活かした演出が随所にあったところも良かったです。
序盤、街のネオンが一斉に点くシーンなど、すべてスタジオセットであることを最大限に活かしたジオラマ的(?)な楽しさがありました。
また、八分坂のセットと各建物内のシーン、屋外ロケの場面が自然に繋がっていて、限られた空間の中にもきちんと“奥行き”を感じられて・・・、
このあたりの丁寧な演出は「コード・ブルー」でお馴染みの西浦正記監督の手腕が光っていたように思いました。
三谷幸喜さんの脚本は作り手のエゴを通すことが良きことみないな考えが前に出すぎていると感じることがたまにあって、(名作とされている過去のいくつかの作品でも若干感じることがありました。)
本作は演劇がテーマということで、そこが色濃く出てしまうのではと危惧していたのですが、
作中で特にエゴの塊(笑?)である主人公を決して“良き人物”として描いていない点には好感を持ちました。
欲を言えば、クライマックスのダンスシーンは素晴らしいのですが、観客のリアクションが入っていると、なお良かったのではないかなと思いました。(この辺は西浦監督の演出による部分かもしれませんが・・・。)
その一方で、初回は構成と情報整理の難さが目立ちました。
まず、建物の位置関係が分かりにくかったです。
WS劇場とぼったくりスナックが隣で、実は経営者が同じ…という面白くなりそうな設定があるのに、
登場人物によるセリフと、主人公が菊地凛子さん演じる案内所のおばばから渡される地図による説明のみで、視覚的に見せる工夫が少なかったように感じました。
また、登場人物がとにかく多いため、
初回から名前と顔を覚えきれず、誰が誰を指しているのか分からない会話も多くありました。
例えば、誰かが不在の場面でその人物の話をしている時などは、回想シーンなどで補足があると混乱しなかったのではないかと思います。
あるいは、初回は久部が劇団を追われ八分坂へたどり着くエピソードと、
小池栄子さん演じるいざなぎダンカンの失踪と、
久部とリカの出会いのエピソードに絞って、
他のキャラの紹介は2話に分散させるなどしたほうが良かったのではと思いました。
特に神木隆之介さん演じる放送作家の省吾と、バイキング西村さん/ラバーガール大水さんが演じている二人の芸人のエピソードや、
秋元才加さん演じるダンサーのモネと息子のエピソードが、初回に関してはメインエピソードをぶった切っている印象が強く、ストーリーに絡めるのは次回からでも良かったのではないかなと思いました。
また、脇役にいたるまで豪華なキャスティングをしているため、テンポが悪くなっているところがあったのも気になりました。
市原隼人さん演じる怖い人が出てくるシーンや、坂東彌十郎さんが出てくる神社でのシーンは、
役者さんの演技は良いのですが、シーンの必要性がやや弱かったので、もう少しテンポ良くポンポン進めてほしかったです。
中盤は情報量の多さに疲れて、正直一度目の視聴では眠くなってしまいました。笑
二度目に見たときは全体像が見えて、結構楽しめたのですが・・・。
もう一つ気になったのは、コメディ要素の弱さ。
脚本にあるくすぐりが演出で笑いに昇華されておらず、特に市原隼人さんのシーンなんかは大仰に登場した割にやることがみみっちくて見せ方次第では笑いどころにできそうだったのにな・・・と感じました。
そして、昭和59年という時代設定の説明が序盤でされないのも、私のような2000年代生まれの視聴者には不親切に感じた部分です。
いや、下手にとってつけたような現代パートと行き来したり、ストーリーテラーやナレーションによってだらだらと解説されるよりは、出だしからぐいぐいとストーリーを進めてくれるほうが嬉しいんですけど、
せめて風営法が改正されて云々みたいな話は、もう少し序盤で説明してほしかったなと思いました(2話で詳しく説明されるんですけど・・・)。
でないと、ダンカンがストリップ劇場に未来が無いと感じて街をあとにしたり、劇場が閑散としていて赤字だったりするエピソードを見せられても、今ひとつ各登場人物の置かれている状況が掴みきれない状態が続いてしまって・・・。
ストーリーに入り込めない要因の1つとなっていました。
ただ、それでもこの作品を「嫌い」とは言い切れなくて、
主人公が、誰にも評価されないものの、自分の好きなことにとことん熱いところや、
人の評価を気にせずに好きなことに熱中するところ、その姿勢が作品全体を通してブレずに描かれていて、そこには強く惹かれました。
(CSの一挙放送で見た田村正和さん主演の「総理と呼ばないで」というドラマも、描き方にう~ん?と思うところはあっても、描きたいことや役者陣の見せ方には好感を持てる作品だったりしたので、本作もそんな感じになるのかなと思いつつ、)
見終わった後の感想は、「やりたいことは分かるけど、描き方が上手くない」・・・。
でも、好きか嫌いかで言えば――たぶん、好きな作品になるかも・・・?といった感じでしたので、
次回以降見せ方が整理されていけば、もう少し楽しめるかなと思いました。
「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」
主演:菅田将暉
脚本:三谷幸喜
演出:西浦正記
あとがき
勝手なイメージですが、特に舞台出身(?)のコメディ脚本家って、セリフの間とかを大切にされている方が多いので、ある程度ベテランになったら、演出(監督)も兼任されることが多い気がするんですけど、
三谷幸喜さんはあくまでドラマでは脚本のみを担当され、監督はちゃんと映像作品の演出ができるディレクターさんにお任せされていて、本作も例外ではないので、
三谷さんのやりたいことを、演出担当のかた(西浦監督)が上手く整理してブラッシュアップできれば、もっと良くなる余地はあると思います。
