消防職員協議会発足小説「凛〜りん〜」の第2話です。
1話目を見ていない方は、こちらからご覧ください。
第1話 「プロローグ」




ここで、某消防職員協議会の立ち上げを紹介する前に、1人の主人公とその主人公が深く関わる事になる奇妙な事件を紹介していこう。


 全国に様々な消防職員協議会があるが、その発足に至る背景は様々である。
 そもそも、消防職員協議会というものは、必ずしも全国のすべての消防本部にあるものでは無い。

 消防職員協議会とは、消防職員の待遇改善、労働環境改善などを求めている自主組織であり、色々と問題が鬱積している消防本部に多い。

 この背景には、消防職員には地方公務員法により、団結権が認められていないために、労働組合ではなく「職員団体」として組織されている。
 
 当然、団結権が無いため、労使交渉は行うことが出来ない。
 その代わりに、協議をすることが認められており、これについては地方公務員法で保証している。

 消防職員協議会が発足したきっかけこそ、今後の消防職員協議会の活動、いや、消防官としての生き様の原動力になるため、この発足に関わる経緯は非常に重要になる。

 ここでは、とある町のとある消防本部の消防職員協議会の話をしていこう。


 その事件は、平成18年1月に発生した。
 
 当時、今回の主人公とも言える人物で某市消防本部の川端和彦(かわばた かずひこ:仮名)は、小さな出張所に勤務をしていた。

 災害や救急件数は他の署所に比べれば少ないものの、ひとたび火災が起こると、狭隘地域が多いその地域特性から、大火になることも多かった。
 しかし、川端は気の良い仲間や部下に恵まれ、持ち前の正義感の強さと、仲間の信頼関係のもとで、数々の困難な災害を乗り越えてきた。


 川端は昭和56年に消防に入職した。
 幼少の頃から野球に勤しみ、身体を動かすことが趣味だった川端は、中学校時代には健康優良児として県から表彰されたこともあった。
 中学卒業後、市内でも有数の進学校に入学し、大学を目指していたが、川端の中の熱い正義感と、恵まれた体格、幼少期から培ってきた健全な肉体が、多くの同級生達が進学する中、川端は進学せず迷うことなく消防の門を叩いた。

 当初、親からは反対されたものの、川端の熱意は親の思いを上回り、周囲の期待とは裏腹に自分の信じた道を突き進んだ。

 こうして川端は消防に入職した。

 当時の消防は1年2期生の消防学校へ入校し、毎日のように地獄とも言える過酷な訓練をこなした。

 成長期に行う徹底的な厳しい訓練と、全寮制の規則正しい生活は、川端の身体を一回り大きくし、精神的にも不屈の精神を宿し、元来持っていた正義の魂はより強固なものになった。
 消防学校を優秀な成績で卒業した川端は、同期達が特別救助隊を目指す中で、災害を出さない、いわば予防することを目指し、消防隊や救急隊の経験の後に、消防総務課や予防課、役所の市民生活部防災対策課の経験を経て、現在の出張所の当直責任者として勤務を命じられた。

 当時の出張所は、消防隊3名と救急隊3名で運用し、管内で火災があれば救急隊は消防隊に編入し、6名で災害対応をしていた。

 通常、消防隊が出場する災害において、火災や救助事案に関しては、複数の部隊が出場することから、本部から指揮隊が出場し、各部隊や現場の指揮をとる形で、災害現場では部隊が運用されていた。

 当時、本部の管理職であった鈴森一夫(すずもり かずお:仮名)が指揮隊で指揮をとっており、鈴森は救助隊出身者の管理職であった。

 鈴森は狂骨な性格をしており、典型的な上意下達を実践するような人物であったため、当時から多くの部下からはあまり信頼もなく、たびたび部下と小さな衝突を起こしていた。

平成18年1月の深夜の日付が変わる頃、その事件はけたたましい指令音とともに起きた…。

続く…