サイン会当日。
私は最近していなかったネイルをして、
いつもより念入りに髪を乾かして、
シルクのドレスを着て、
お気に入りのコートを着て出かけた。
もう、気分は夢の恋人に会いに行く気分。
6時からのサイン会だったけれど、5時半に会場に到着。
もちろんまだ彼はまだいなくて、数人が待っていた。
あーーーー、もうすぐここに、
20年間会いたいを思い続けたひとが来る…
もう、6時になるころには私はアホみたいになっていた。
いや、ほんとにそんな感じだったんだよね(笑)。
6時にエリオット・アーウィットが現れた。
落ち着いたジャケットを着た、白髪の紳士。
人が並び始めて、私も列に加わると、後ろのおっちゃんが話しかけてきた。
「きみもファン?」
「ええ、もう20年も大ファンで」
「僕もだよ!」
「…。」
一応、あいづちはうったけど、なんかすごく、
現実を突きつけられた気がした。
そうだよな、世界的な写真家だもん、そんな20年来の
ファンなんて、たくさんいるんだ…
でも!と気を取り直した。
でも、でも、いま、彼は目の前にいる。
楽しもう、それでいいじゃない!
私の番がきた。
私は、自分がずっとあなたのファンであったこと、
あなたの写真に心が動いて、そして自分が写真を撮りたいという
心を持ち始めたこと、そしていまは写真作家になったこと…
を、手短に話し、持ってきた自分の写真集を渡した。
彼はとてもシャイなのか、あまりこちらの目を見ずに
そう、と軽く答えて本にサインしてくれた。
そして私の後ろのおっちゃんが私と彼の写真を撮ってくれた。
(フィルムカメラなのですぐアップできないのです^^;)
…あっけなくその瞬間は終わった。
でも、私は彼と同じ空間にいられることが嬉しくて、
そのまま近くのベンチに腰掛けて彼をずっと見ていた。
こっそり、横から携帯で写真も撮ったりして。
そのうち、みんなほかの人も彼の写真を撮っているのが目に入った。
正面から近寄って、本人の前でフラッシュもたいてバシャッ!と。
え、なんか、失礼じゃないの?
有名な人だと仕方ないのかなあ…
でも、なんだか、周りの人たちが彼をただのモノ扱い
しているような気持ちになった。
「有名な人」という「モノ」ね。
有名になると仕方ないのかなあ…
でも、なんか私だったらいやかも…
そんなことを思いつつ彼のことを見ていると、
人の列もなくなり、編集者の人と手持ち無沙汰そうに
している様子が目に映った。
「あ、話しかけるチャンスかも…」
「でも、そんな、失礼だよねえ…」
もじもじもじ。
私にはらしくなく、黙っていた。
でも、そのまま彼はずーっと手持ち無沙汰そうだったので、
こんな、20年も会いたかった人がそこにいるんだから、と
立ち上がって彼に近づいた。
あんまり、何を話すかとか考えてなかったんだけど、
彼の正面に行って、
「あの、私、20年間今日まであなたのファンだったんです。
…だけど、もしあなたが許してくれるなら、
私、今日からあなたの友達になりたいんです!」
われながら、なんとトンマなせりふかと思ったんだけれど、
でも、言いたいことは確かにそれだった。
果たして、彼の答えは
「うん、許可するよ」(’Yes, I permit.’)
だった。
彼の名刺をもらって、
「手紙、書きますね」とだけいえた。
もう頭の中がまっしろで、握手だけしてもらって
またベンチに戻った。
彼は私の目は見なかった。
ただのファンのたわごとだと思ったのかな。
また、彼をぼーっと見続けて、サイン会の終わりの時刻がきた。
立ち上がった彼に向かって、
「また、日本にもいらっしゃると思いますか?」
というと、彼は
「うん、必ず行くよ。次の春にね」
えーっ!
来春!!!!
「私も必ず行きます!」
といって、
また握手した。
「私、ユキっていいます」
というと、
「I know!」
と言ってくれた。
あ、ちゃんと覚えてくれたんだ、というのがわかって
とても嬉しかった。
きのうは、私にできるのはそれが精一杯だったけど、
でも、20年越しの思い人に思いを伝えられて、
私、ほんとに幸せでした。
また、彼に手紙を書こうと思います。
結婚したときもそう思ったけど。
神様、なかなかなイキなはからいじゃないですか!
ほんとに、ほんとに、ありがとう!