第六章
日曜日は朝からバイトに入る為、よほど忙しくない限り夕方5時にはあがれるのだ。
「ヒロトさん、代わりますよ。あがってください。」
悦生が僕と交代するためにやってきた。
「おう。それじゃ後たのむな。へまするなよ。」
「まかしといてくださいよ。僕ももう一人前ですよ。」
悦生と交代した僕は更衣室で着替え、帰ろうとした時、横山さんに呼び止められた。
「ヒロト、今日暇か?俺もあがりだから飯食いに行こうぜ。おごるからさ。」
「マジっすか!行きます。外で待ってますよ。どこ連れてってくれるんですか?」
「いつものとこ。」横山さんは向かいのファーストフード店を指差した。
「今日は三井さん出勤してるだろうか?」若干緊張してそんなこと考えているところに横山さんが着替えて出てきた。
「おまたせ。それじゃ行こうか。」横山さんはポケットに手を突っ込んだまま歩き出した。
「いらしゃいませ。」
カウンターには三井さんが立っていてオーダーをしているお客さんはいなかった。
僕の心臓は今にも飛び出しそうだ。2人に気取られないよう冷静を装いカウンターまで歩いていった。
「今日はお二人ですか?」
「うん。後で店長とかほかのメンバーも来ると思うよ。」
三井さんと横山さんがカウンターで挨拶をしていた。
「・・えっ!・・なんで・・」
状況がまったく理解できずパニックになっていた僕を横山さんが三井さんに紹介しだした。
「こいつヒロト。バイトの後輩なんだけど知ってる?」
「はい。よく来ていただいているので。三井ですよろしく。」
「あっ、よっよろしくお願いします!ヒっヒロトです。」
僕は絵に描いたように動揺していた。真っ赤な顔をしてうつむいている僕に三井さんは優しく微笑んでいた。
「こちらでお召し上がりですか?」
「うん。ヒロトお前何にする?」
咄嗟に三井さんからメニューに視線を移した僕は何にしようか考えるフリをした。いつものメニューが視界に全く映っていない。
「・・コレで・・」その一言だけが精いっぱいの自分が情けない。
横山さんのオーダーも終わり「残りの商品はお席までお持ちしますね。」と、ドリンクとポテトをのせたトレーを僕に手渡してくれた。そのぎこちなさはまるで卒業式に卒業証書をもらう小学生のようだ。
「お前ほんと面白いやつだな。」
横山さんは席につく前にトレーからポテトを一本取り、笑いながら僕に言った。
「いや、横山さん。彼女と、三井さんと知り合いなんですか?」
僕は席につくや否や横山さんに小さな声で尋ねた。
「まぁね。知り合いって言ってもそこまで仲良くないけど。いやこの前、悟から聞いたよ。三井さんに惚れてんだろ。お前相談する相手間違ってるぜ。こう見えても俺は恋のマジシャンって呼ばれてるぐらいだからな。」
(・・・恋のマジシャンって・・・なんだか何もかも消されそうな・・そしてなんだかダサい・・)
一抹の不安を覚えながらも、ここは横山さんに頼るしかなさそうだ。僕は三井さんの下の名前を横山さんに聞こうとした時、ちょうど
「お待たせしました。ご注文は以上でおそろいですか?」
と三井さんが残りの商品を僕らの席に持ってきてくれた。
「今日何時まで仕事?終わったら飲みに行こうよ。」
横山さんの大胆さや行動力に憧れていた僕もこの時ばかりは横山さんの発言に唖然とした。そして僕はゆっくりと三井さんをこわごわと見上げた。
「6時すぎにはあがれると思います。斉藤さんも誘ってもいいですか?」
ちょっとだけ悩んだ様子の三井さんが笑顔で言った。
「いいよ。じゃあここで待ってるし終わったら声かけてよ。」
「はい。それではごゆっくり。」
三井さんは笑顔でカウンターに戻っていった。
「飲みに行くんですか?」
困惑した表情で僕は横山さんに言った。
「仲良くなりたいんだったら飲みに行くのが一番だろ。俺がおごってやるからさ。」
ハンバーガーの包み紙を開けながら横山さんが言った。
「僕、未成年だし・・いや別に未成年だからお酒が飲めないって言ってるわけじゃないんですけど、三井さんなんだかまじめそうだし不良と思われても・・」
「いやいや、もう十分不良だろ。単車乗ってて茶髪だし。大体そういう見せかけだけ繕ってもすぐだめになるんだって。男はここよ、ここ。」
握りこぶしで胸を2,3度叩きながら薄笑いを浮かべた。
「三井さんのしたの名前なんていうか知ってますか?彼氏っているんですか」
ドリンクを一口飲んで一呼吸置いた僕はずっと気になっていた事を横山さんに尋ねた。
「真弓チャン。三井真弓。彼氏がいるかどうかはお前が後で聞けよ。えーと確か俺の1コ上だから20歳か。お前の3つ上だろ?」
「真弓・・真弓さん・・か ハタチ・・3つ上・・」
20歳と聞いた僕は予想はしていたがやはりちょっとショックだった。20歳といえば高校生の僕には、かなり大人のイメージがあり相手にされないんじゃないかという不安と、もう少しで一緒に飲みに行ける期待とでなんだか複雑な心境だった。
横山さんは平然とハンバーガーに齧りついている。
その姿は小学生の時に見ていた高校球児のように遥か遠い大人のように見えた。
「お待たせしました。どこに飲みに行くんですか?」
真弓さんと、友達で同じ職場の斉藤さんが私服に着替えやってきた。
僕は真弓さんが持つブランドの鞄を見てなんだか少し怖気づいた。
そのまま横山さんを中心に会話をしながら居酒屋へと向かった。一番後ろでおとなしく歩いている僕を気遣う真弓さんのほんのり香る香水の匂いが僕の脳を刺激し続けていた。
このとき僕は恋に、人を好きになることに年の差なんて関係ないという事を、心のどこかできれいごとのように思っていたのかもしれない。
恋に、人を好きになることに年の差なんて関係ないんだ。