第七章
横山さんが連れて行ってくれた居酒屋は僕らのバイト先のお得意様のお店で、何度か行った事がある。
「それじぁ乾杯しますか!」
横山さんがビールのジョッキを持った。
「何に乾杯ですか?」
真弓さんが楽しそうに僕らを見渡しながら言った。
「そうだな・・まっ、無難に出会いにって事で!乾杯!」
「横山さんって彼女いるんですか?」
斉藤さんが真っ先に口を開いた。
「俺?彼女いないよ。」
「えー!絶対いそう!もてそうだモン!ねぇ真弓!」
「うん。かっこいいし実はいるんでしょ?」
乾杯と同時に彼女がいる、いないというような質問が飛び交う中、横山さんが僕が真弓さんのことが気になっているという事実をぽろっと言ってしまわないかという不安と、実は心の中でちょっと言ってもらいたいような期待とでどきどきしていた。
「ヒロトさんは彼女いるんですか?」
真弓さんが僕に聞いてきた。
「こいつ彼女いないけど今、好きな子がいるんだよ。なっヒロト!」
横山さんはジョッキのビールを飲み干し言った。
動揺を隠しきれずうつむいた僕に真弓さんはちょっぴり大人の顔をして言った
「そうなんだ。恋してるんだね?いいよね。恋って!」
「その恋のお相手が目の前のあなたです。」なんて言えるはずもなく、話の流れ的におかしくない状況である事に気づき、一番聞きたかった事を僕は真弓さんに聞いた。
「ま・真弓さんは彼氏いるんですか?」
顔が赤いのはお酒のせいという事でごまかせるし、居酒屋というものは実に恋のフィールドにぴったりだ。
「私?彼氏いないよ。冬は彼氏がいないと芯まで冷え込むよね!」
明るくみんなに同意を求める真弓さんにみんなうなずいていた。
今までおそらくダメだろうと思っていた僕は俄然ファイトが沸いてきた。
ほんの少しの勇気をだせば・・しかしほんの少しの勇気がほんの少しではないのが恋なんだ。ほんの少しの勇気に一生懸命になれる若さがその頃の僕にはあったのに。
諦めなければ報われる。報われない時は諦めたからだ。今の僕ならそう思えるんだ。