労務相談の中で、ときどき問題になるのが、社員による残業時間の水増し申告です。
たとえば、出退勤の時間を社員が自分で記入する出勤簿で管理している会社で、実際には早く退社していたのに、出勤簿上は残業したことになっていた。
このような場合、会社としては当然、
「不正ではないか」
「懲戒処分できるのではないか」
「すでに支払った残業代を返してもらえないか」
と考えます。
実際に、意図的な水増し申告であれば、会社のお金を不正に受け取ったことになり、重大な問題です。
ただし、ここで注意が必要です。
会社が「不正だ」と感じたとしても、すぐに懲戒処分を決めたり、翌月の給与から一方的に差し引いたりすることは危険です。
残業時間の水増しが疑われるケースでは、
本人の問題と、
会社の労働時間管理の問題を分けて考える必要があります。
今回は、出勤簿の自己申告制で起きやすい残業トラブルについて、会社が確認すべき実務上のポイントを整理します。
出勤簿の自己申告で起きやすい残業トラブル
中小企業では、今でも紙の出勤簿やエクセルの勤怠表で労働時間を管理している会社があります。
社員が自分で、
* 出勤時刻
* 退勤時刻
* 休憩時間
* 残業時間
を記入し、上司が確認する形です。
この方法自体が直ちに違法というわけではありません。
法律上、必ずタイムカードや勤怠システムを導入しなければならないわけではないからです。
ただし、自己申告制には注意点があります。
社員が記入した時間を会社がほとんど確認していない。
上司が実際の退勤時刻を把握していない。
残業の事前申請や承認のルールがない。
月末にまとめて出勤簿を提出している。
このような状態だと、残業時間の水増しや記入ミスが起きても、会社が早めに気づくことが難しくなります。
そして、トラブルが起きたときに、
「社員が勝手に書いたのだから、会社は知らない」
とは言い切れません。
労働時間を適正に把握する責任は、基本的に会社側にあるためです。
虚偽申告が事実なら重大な問題になる
もちろん、社員が意図的に残業時間を水増ししていたのであれば、重大な問題です。
本来は労働していない時間を、労働したものとして申告し、残業代を受け取っていたことになります。
この場合、就業規則に基づき、懲戒処分の対象となる可能性があります。
たとえば、就業規則に、
* 勤怠の虚偽申告
* 会社への虚偽報告
* 不正に金品を受け取る行為
* 会社に損害を与える行為
などが懲戒事由として定められていれば、処分を検討する余地があります。
また、悪質な虚偽申告によって会社から金銭を受け取っていた場合には、理論上、刑事責任が問題となる可能性もあります。
ただし、実務では、いきなり刑事事件として考えるよりも、まずは社内で事実確認を行い、就業規則に基づいてどのような対応ができるかを検討することが一般的です。
ここで大切なのは、会社側が感情的にならないことです。
「だまされた」
「許せない」
「すぐに処分したい」
という気持ちは分かります。
しかし、証拠が不十分なまま処分を行うと、後で社員から処分の有効性を争われる可能性があります。
まず確認すべきは「故意か、単なるミスか」
残業時間の水増しが疑われる場合、まず確認すべきなのは、故意だったのか、それとも単なる記入ミスだったのかという点です。
社員側が、
「書き間違えました」
「退勤時刻の記入方法を勘違いしていました」
「休憩時間の扱いを誤解していました」
と説明することもあります。
もちろん、その説明をそのまま受け入れる必要はありません。
しかし、懲戒処分を検討する場合には、故意の有無、回数、金額、期間、本人の説明内容、反省の有無などを慎重に確認する必要があります。
たとえば、1回だけの記入ミスなのか。
何か月も同じような申告が続いているのか。
実際の退勤時刻と出勤簿の記載に大きな差があるのか。
本人に確認したとき、合理的な説明があるのか。
これらによって、会社として取るべき対応は変わります。
軽微な記入ミスであれば、注意指導や記入方法の再説明で足りる場合もあります。
一方で、明らかに実際の退勤時刻と異なる記載を繰り返し、残業代を受け取っていたような場合は、より厳しい対応を検討することになります。
証拠は具体的に整理する必要がある
会社が「虚偽申告だ」と判断するためには、具体的な資料が必要です。
たとえば、次のような資料が考えられます。
* 業務日報
* 上司や同僚の確認内容
* 入退館記録
* セキュリティカードの記録
* パソコンのログイン・ログアウト記録
* メールやチャットの送信時刻
* 顧客対応履歴
* 防犯カメラの記録
ただし、資料があれば何でもよいというわけではありません。
返還請求や懲戒処分を検討する場合には、
何月何日の、何時から何時までが、実際には労働していなかった時間なのか
をできるだけ具体的に整理する必要があります。
単に、
「あの日は早く帰っていたはず」
「他の社員が見たと言っている」
「なんとなく怪しい」
という程度では、処分や返還請求の根拠としては弱くなります。
また、本人に事情を確認する際には、対象日、申告された時間、会社が把握している資料を示したうえで、説明の機会を与えることが大切です。
この手順を踏まないまま処分に進むと、後から、
「弁明の機会がなかった」
「会社が一方的に決めつけた」
と争われる可能性があります。
残業代の返還は簡単ではない
経営者の方から、次のように聞かれることがあります。
「不正なら、支払った残業代を返してもらえばよいのではないですか」
考え方としては自然です。
実際に、労働していない時間について残業代を受け取っていたのであれば、返還を求める余地はあります。
ただし、実務上は簡単ではありません。
会社側が、どの時間が実際には労働していなかったのかを具体的に示す必要があります。
また、社員が「その時間は会社に残って仕事をしていた」「上司から指示された業務をしていた」と説明する可能性もあります。
特に、自己申告制で会社の確認が不十分だった場合には、会社側の労働時間管理体制も問題になります。
つまり、残業代の返還を求めるには、
* 対象となる日付
* 申告された残業時間
* 実際には労働していなかったと考える根拠
* 本人の説明
* 上司の確認状況
* 会社の勤怠管理ルール
を整理する必要があります。
この整理をしないまま「返してください」と伝えると、話がこじれることがあります。
一方的な給与控除には注意が必要
残業代の過払いが疑われる場合でも、会社が翌月の給与から一方的に差し引くことには注意が必要です。
労働基準法では、賃金の全額払いの原則が定められています。
そのため、会社が一方的に、
「先月の残業代は不正だったから、今月の給与から引いておく」
という対応をすると、賃金控除の問題が生じる可能性があります。
返還を求める場合には、本人に内容を説明し、対象となる金額や返還方法について確認する必要があります。
実務上は、返還合意書を作成する、返還方法を分割にする、給与控除ではなく別途振込にするなど、状況に応じた対応を検討します。
この点は、感情的に進めるとトラブルになりやすい部分です。
残業時間の不正申告が疑われる場合でも、会社側の手続きは慎重に進める必要があります。
自己申告制の勤怠管理で会社が問われること
今回のようなケースで見落としてはいけないのは、社員本人の問題だけではありません。
会社の労働時間管理の仕組みも問われます。
厚生労働省のガイドラインでは、使用者が労働時間を適正に把握するため、原則として、使用者が自ら現認すること、またはタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録など、客観的な記録を基礎として確認することが求められています。
もちろん、自己申告制が一切認められないわけではありません。
ただし、自己申告制を採用する場合でも、会社は申告された時間が実態と合っているかを確認する必要があります。
たとえば、
* 自己申告の方法を社員に説明しているか
* 実際の労働時間と申告時間に差がないか確認しているか
* 必要に応じて実態調査をしているか
* 上司が形式的に押印しているだけになっていないか
* 残業の事前申請や承認のルールがあるか
といった点です。
タイムカード、ICカード、パソコンログなどは、客観的な記録として扱われやすい資料です。
一方で、社員が自分で記入する出勤簿は、自己申告制の記録です。
そのため、会社が申告内容をどのように確認していたかが問題になります。
再発防止には「残業申請ルール」の整備が必要
残業時間の水増し申告が発覚した場合、本人への対応だけで終わらせてはいけません。
同じような問題が起きないように、会社全体のルールを見直す必要があります。
まず確認したいのは、残業申請のルールです。
たとえば、
* 残業は原則として事前申請制にする
* 上司が必要性を確認して承認する
* 突発的な残業は翌営業日に理由を報告させる
* 月末にまとめて申告する運用を避ける
* 出勤簿と業務日報を照合する
* 管理職が退勤状況を確認する
といった運用が考えられます。
ここで大切なのは、単にルールを作るだけで終わらせないことです。
就業規則や社内ルールに書いてあっても、現場で運用されていなければ意味がありません。
上司が残業の必要性を確認していない。
実際には誰も承認していない。
社員が自由に残業時間を書いている。
このような状態では、トラブルを防ぐことは難しくなります。
就業規則の服務規律・懲戒規定も確認する
残業時間の水増し申告に対応するには、就業規則の確認も欠かせません。
懲戒処分を検討する場合、就業規則に根拠となる規定があるかを確認する必要があります。
特に確認したいのは、
* 勤怠記録の虚偽申告
* 会社への虚偽報告
* 服務規律違反
* 会社に損害を与える行為
* 不正に金品を受け取る行為
* 懲戒処分の種類と手続き
といった規定です。
規定があれば必ず処分できる、というわけではありません。
行為の内容に対して処分が重すぎないか。
過去の処分例と比べてバランスが取れているか。
本人に弁明の機会を与えているか。
証拠は十分か。
こうした点も確認する必要があります。
就業規則に規定がない、または規定があいまいな場合には、今回の対応だけでなく、今後の再発防止のためにも見直しを検討した方がよいでしょう。
まとめ|処分の前に、事実確認と管理体制の見直しを
残業時間の水増し申告が事実であれば、社員本人の責任は軽くありません。
会社のお金を不正に受け取っていた可能性があり、就業規則に基づく懲戒処分や返還請求を検討することになります。
しかし、会社が対応を誤ると、逆にトラブルが大きくなることがあります。
証拠が不十分なまま処分する。
本人への確認をせずに決めつける。
翌月給与から一方的に差し引く。
自己申告制の管理不備を放置する。
このような対応は避けるべきです。
残業時間の不正申告が疑われる場合は、まず、
* 事実関係の整理
* 本人への事情聴取
* 証拠資料の確認
* 就業規則の規定確認
* 返還請求や処分の妥当性
* 今後の勤怠管理ルールの見直し
を順番に進めることが大切です。
当事務所では、中小企業の実情に合わせて、
* 残業時間の自己申告制の見直し
* 残業申請ルールの整備
* 勤怠管理の運用確認
* 懲戒処分を検討する際の手順整理
* 就業規則の服務規律・懲戒規定の確認
* 管理職による労働時間確認フローの整備
についてご相談を承っています。
「出勤簿を社員任せにしている」
「残業申請のルールがあいまい」
「不正申告が疑われるが、どう対応すべきか分からない」
このような場合は、処分や返還請求に進む前に、一度対応方針を整理しておくことをおすすめします。
問題が起きた社員だけを見るのではなく、会社全体の労働時間管理の仕組みを見直すことが、再発防止につながります。
根拠・参考情報
本記事は、以下の法令・行政資料を踏まえて作成しています。
* 労働基準法第24条
賃金全額払いの原則
* 厚生労働省
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
* 労働契約法第15条
懲戒処分が権利濫用に当たる場合は無効となる旨の規定
※本記事は、一般的な実務上の考え方を整理したものです。実際の対応は、就業規則の内容、勤怠記録、本人の説明、証拠関係、過去の処分例などによって判断が変わります。具体的な処分や返還請求を行う場合は、個別事情に応じた確認が必要です。
前回、社員が突然いなくなって、本当に途方に暮れた話を書きました。
電話もつながらない。
実家にも連絡がない。
どこにいるのか分からない。
就業規則にも行方不明時の規定がない。
あのときは、本当に困りました。
今回は、その経験があるからこそ会社に伝えたいことを、実務寄りに整理します。
まず、自然退職とは何か
簡単にいうと、自然退職とは、あらかじめ決めておいた条件に当てはまったときに、退職として扱う仕組みです。
自然退職には、定年、死亡、休職期間満了など、いくつかの場面があります。
その中でも今回取り上げたいのは、無断欠勤や音信不通が続いた場合です。
たとえば、就業規則に、
「正当な理由なく無断欠勤が一定期間続き、会社からの連絡にも応じない場合は、自然退職とする」
といった規定を置いておく考え方です。
ただし、規定があれば何でも退職扱いにできる、という意味ではありません。
規定だけあっても、実際に何も連絡していなければ危ないです。
電話したのか。
緊急連絡先に確認したのか。
書面を送ったのか。
そして、いつ退職になるのか。
ここまで説明できて、初めて実務で使える規定になります。
自然退職は、会社が都合よく使える制度ではありません。
むしろ、会社が感情やその場しのぎで処理しないための、事前の備えです。
最初にやることは、退職処理ではありません
社員が突然来なくなったとき、最初にやることは退職処理ではありません。
まずは安否確認です。
電話をする。
メールを送る。
LINEやチャットで連絡する。
緊急連絡先に確認する。
必要があれば自宅宛に書面を送る。
そして、これを記録に残しておきます。
いつ、誰が、どの方法で連絡したか。
つながったか、つながらなかったか。
緊急連絡先には何と伝え、どのような回答があったか。
書面は届いたのか、戻ってきたのか。
ここが大切です。
「何日も来ていないから退職」
ではなく、
「何日間無断欠勤が続き、その間、会社はこういう方法で連絡を試みた。それでも応答がなかった」
この経過を残せるかどうかで、後のトラブルへの強さが変わります。
私が昔のケースで十分にできていなかったのも、この記録でした。
実家への確認はしました。
しかし、何月何日に、誰が、どのように確認したかという形で、十分な記録を残していませんでした。
後になって本人が、
「会社から連絡は来ていなかった」
と言い出したら、会社側は十分に説明できなかったかもしれません。
何日来なかったら退職扱いにできるのか
ここは、会社からよく聞かれます。
「何日来なかったら退職扱いにできますか?」
という質問です。
就業規則では、「無断欠勤が何日続いたら自然退職とする」という形で定めることがあります。
実務上は、2週間から1か月程度で設定している例をよく見ます。
ただし、これは「2週間経てば何もしなくてよい」という意味ではありません。
何日が絶対の正解というものでもありません。
会社の規模、業種、勤務形態、欠勤の状況によって確認が必要です。
3日や5日といった短い期間で自然退職とする規定は、実務上はかなり危うい印象があります。
本人の事情を確認する前に、会社が急いで退職扱いにしたと見られる可能性があるからです。
少人数の現場やシフト制の職場では、一人いなくなるだけで影響は大きいものです。
それでも、期間の長さだけで押し切るのではなく、連絡、確認、通知という手順を踏んでいることが、後から会社を守ります。
就業規則には何を書いておくべきか
難しく考えすぎなくても、まずは3つです。
いつまで無断欠勤が続いたら次の対応に進むのか。
会社はどの方法で連絡するのか。
最終的に、いつを退職日とするのか。
この3つが曖昧だと、実際に社員が来なくなったときに、会社は迷います。
特に退職日は大切です。
無断欠勤の最終日なのか。
一定期間が経過した日なのか。
会社が通知した日なのか。
ここが曖昧だと、社会保険、雇用保険の資格喪失日、最終給与、離職票、退職証明書の処理で必ず迷います。
また、貸与品の返還、私物の取扱い、会社データの返却についても、規定や社内手順として残しておくと、いざという時に揉めにくくなります。
就業規則は、条文を置くだけでは足りません。
実際に社員が来なくなったとき、社長、現場責任者、総務担当者が同じ流れで動ける内容になっているかが大切です。
離職票の書き方も、単純ではありません
自然退職は、会社が解雇したわけではありません。
そのため、一般的には自己都合退職に近い形で整理されることが多いです。
ただし、雇用保険上の離職理由は、「自己都合」と書けば終わりではありません。
欠勤の背景に、病気、長時間労働、ハラスメント、職場環境の問題がある場合には、本人から別の主張が出ることもあります。
無断欠勤や音信不通の場合でも、会社は経緯を確認しておく必要があります。
会社の労務管理上の整理と、雇用保険上の離職理由は、分けて考える必要があります。
ここは個別確認が必要です。
やってはいけない対応
本人に連絡していない。
緊急連絡先にも確認していない。
就業規則の根拠もない。
退職日も曖昧。
この状態で、
「もう来ていないから退職」
と処理すると、後で説明に困ります。
連絡が取れないからといって、すぐに懲戒解雇に踏み切るのも慎重に考えるべきです。
悪質な無断欠勤であれば、懲戒処分を検討する場面もあります。
しかし、事情確認や通知が不十分なまま懲戒解雇にすると、後で処分の相当性が問われる可能性があります。
就業規則に行方不明や音信不通時の規定がない会社ほど、こうした無理な処理に追い込まれやすい。
これは、私自身の実感です。
平時に確認しておきたいこと
社員が突然いなくなれば、会社が困るのは当然です。
現場は回らない。
連絡は取れない。
社長は早く処理したい。
総務は手続きが進められない。
だからこそ、問題が起きる前に確認しておきたいのです。
就業規則に自然退職の規定があるか。
その規定が実際に運用できる内容になっているか。
本人への連絡、緊急連絡先への確認、書面通知、退職日の特定まで整理されているか。
特に、就業規則を5年以上見直していない会社、無断欠勤時の通知書式がない会社は、一度現状を確認してみてください。
もし、今の規定や運用に不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをお勧めします。
私は、一度本当に困った経験があります。
だからこそ、同じように途方に暮れる会社を減らしたいと思っています。
問題が起きてから条文を探すより、平時に規定と運用のズレを確認しておく方が、はるかに落ち着いて対応できます。
社員が突然いなくなったときに、会社がその場しのぎの判断をしなくて済むように。
自然退職の規定は、平時に整えておきたいところです。
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【人事必見】自然退職の全てがわかる
気になることがあれば、いつでもご相談ください。
これは、今でもよく覚えている話です。
まだ、独立して社会保険労務士をする前、会社員として人事を担当していた頃の話です。
社員が突然いなくなりました。
本当に、ある日を境に来なくなったのです。
最初は、寝坊かな、体調不良かな、と思いました。
ところが、その日だけでは終わらない。
翌日も来ない。
電話にも出ない。
本人の住所に連絡しても反応がない。
だんだん、
「これは普通の欠勤ではないぞ」
という空気になっていきました。
会社は、ただ困るだけでは済みません
社員が突然来なくなると、現場は本当に困ります。
現場は、
「今日のシフト、どうするんですか」
となる。
総務は、
「給与や社会保険はどう処理するのか」
となる。
社長や現場責任者は、
「もう来る気がないんだろう。退職でいいよ」
と言いたくなる。
その気持ちは分かります。
でも、退職届は出ていません。
会社が解雇通知を出したわけでもありません。
そもそも本人に連絡が取れません。
この状態で、会社はどこまで動けるのか。
ここが本当に難しいところです。
実家にも連絡しました
その社員は地方出身者でした。
会社に来ない。
電話にも出ない。
本人の住所にも反応がない。
そこで、実家にも連絡しました。
ご両親に、
「そちらに連絡はありませんか」
と確認しました。
ところが、
「こちらにも何も連絡はありません」
とのことでした。
本当に、行方不明でした。
会社に来ないだけではありません。
実家にも連絡していない。
どこにいるのか、誰も分からない。
今では考えにくい話ですが、当時は個人情報の取扱いも今ほど厳しくありませんでした。
銀行もある程度協力してくれて、ある地域の支店のATMで預金を引き出した形跡がある、というところまでは分かりました。
「生きてはいるらしい」
でも、どこにいるのか分からない。
会社にも実家にも連絡してこない。
実務担当者としては、本当に困りました。
就業規則に規定がありませんでした
会社としては、在籍のまま放置するわけにもいきません。
でも、その会社の就業規則には、行方不明や音信不通の社員をどう扱うかという規定がありませんでした。
退職届は本人から出ていない。
解雇しようにも、本人に解雇通知を届けることができない。
自然退職の規定もない。
本当に、手詰まりでした。
今なら、
「まず就業規則を確認しましょう」
「本人への連絡記録を残しましょう」
「緊急連絡先への確認も記録しましょう」
と冷静に言えます。
でも、当時の私は、目の前の処理をどう進めるかで精一杯でした。
当時は、苦肉の策で処理しました
最終的には、ご実家のご両親に退職願を代筆してもらい、自己都合退職として処理しました。
ただし、これは今なら勧められない処理です。
退職は、本人の意思表示です。
親が代筆したからといって、本人の退職意思があったことにはなりません。
当時の私は、何とか手続きを前に進めることばかり考えていました。
でも、今の目で見れば、法的にはかなり無理のある処理だったと思います。
会社としては何とか処理した。
でも、法的に強い処理ではなかった。
この経験は、今でもはっきり覚えています。
「規定がないと、会社はここまで困るのか」
そう実感した出来事でした。
3年後、本人から電話がありました
この話には、さらに続きがあります。
それから3年ほど経ったころ、その本人から会社に電話がありました。
受けたのは、私です。
電話口で本人は、
「また働かせてほしい」
と言いました。
正直、驚きました。
話を聞くと、金銭的な事情から、会社にも実家にも連絡せず、姿を消していたようでした。
会社に何の連絡もせず、突然いなくなった。
実家にも連絡していなかった。
それから数年後に、また働かせてほしいと言ってきた。
事情は分かりました。
でも、会社として再び受け入れることはできませんでした。
本人の問題だけで終わらせてはいけない
もちろん、本人の行動には大きな問題があります。
会社に何の連絡もせず姿を消す。
実家にも連絡しない。
数年後に突然「また働かせてほしい」と言う。
会社側としては、受け入れがたい話です。
ただ、この話を単に、
「本人が悪かった」
だけで終わらせてはいけないと思っています。
会社側から見ても、かなり苦い話でした。
本人がいなくなった当時、就業規則に行方不明時の規定がなかった。
そのため、会社は退職処理に苦労した。
結果として、法的には弱い処理をせざるを得なかった。
もし後から本人が強く争ってきたら、会社側の説明は簡単ではなかったと思います。
この経験があるので、私は「行方不明になった社員の扱い」は軽く見てはいけないと思っています。
似たような相談は、今でもあります
その後、働き方改革推進支援センターで相談対応をしていたときにも、似たような相談がありました。
「連絡が取れない社員がいます。もう退職にしたいのですが」
という相談です。
会社としては、当然困っていました。
本人が来ない。
連絡も取れない。
業務にも支障が出ている。
そこで就業規則を見せてもらいました。
ところが、行方不明者や音信不通者の取扱いに関する条項がありませんでした。
この場合、会社が一方的に退職扱いにするのは難しくなります。
本人の退職意思が確認できない以上、自己都合退職とは言いにくい。
会社が解雇するにしても、本人に解雇の意思表示を届ける必要があります。
ところが、本人の所在が分からない。
通常の通知ができない場合には、最終的には裁判所を通じた手続きまで検討せざるを得ない場面があります。
そう説明すると、その会社の社長は本当に困った顔をされていました。
無理もありません。
中小企業にとって、連絡が取れない社員一人のために、裁判所の手続きまで検討するのは大きな負担です。
問題が起きてからでは遅い
社員が突然いなくなったとき、会社が困るのは当然です。
でも、本当に困るのは、その後です。
退職扱いにできるのか。
解雇できるのか。
社会保険や雇用保険はどうするのか。
貸与品はどう回収するのか。
後から本人が出てきたらどうするのか。
就業規則に規定がないと、会社はその場しのぎの対応に追い込まれます。
私自身、その経験があります。
だからこそ、無断欠勤や音信不通の自然退職規定は、軽く見てはいけないと思っています。
この経験があったからこそ、今は会社に伝えたいことがあります。
次回は、もう少し実務寄りに整理してお伝えします。
今日もありがとうございます。
人事トラブルを整理する「人の専門家」元ハーレー社労士
ハーレー好きの社労士 キャプテン ヒデです。
最近、経営者の方から次のような相談を受けることが増えています。
「やっと採用できたのに、すぐ辞めてしまう」
人手不足の時代です。
求人を出しても応募が少ない中、ようやく採用できた社員が短期間で退職してしまうと、会社としては大きなダメージになります。
しかし実は、この問題は特定の会社だけの問題ではありません。
多くの企業が、知らないうちに 「採用の負のスパイラル」 に陥っています。
採用の負のスパイラル
多くの企業では、次のような流れが起こっています。
現場が忙しい
↓
急いで求人を出す
↓
応募者を十分に見極めない
↓
ミスマッチ採用
↓
早期離職
↓
さらに人手不足になる
人手不足の企業ほど、採用を急いでしまいます。
「とにかく人が足りない」
「すぐにでも働いてほしい」
この気持ちはよく分かります。
しかし、急いで採用を行うと、
会社と合わない人材を採用してしまう可能性が高くなります。
その結果、社員は長く定着せず、
再び人手不足になります。
そしてまた急いで採用する。
この繰り返しが、
採用の負のスパイラルです。
採用の失敗は「人物」ではなく「仕組み」
経営者の方とお話をすると
「良い人が来ない」
という声をよく聞きます。
しかし、採用の問題は
「良い人がいない」ことではありません。
多くの場合
採用の仕組みが整っていない
ことが原因です。
例えば、
・求める人物像が明確でない
・採用基準が曖昧
・面接が感覚的
・入社後の教育体制がない
このような状態では、
どれだけ採用を行っても、ミスマッチが起こりやすくなります。
必要なのは「採用の設計」
この問題を解決するために必要なのは、
採用を設計すること
です。
単に求人を出すのではなく、
・会社に合う人物像を整理する
・採用基準を明確にする
・面接方法を整える
・入社後の教育体制を整備する
といった仕組みを整えることが重要です。
採用は偶然に任せるものではありません。
設計するものです。
採用を設計することで、
会社に合う人材を採用できる可能性が高まり、
結果として社員の定着にもつながります。
人材が定着する会社の特徴
社員が定着する会社には、共通点があります。
それは
・会社の価値観が明確
・評価制度が分かりやすい
・社員の成長を支援している
・働きやすい環境を整えている
といった仕組みが整っていることです。
つまり、
採用・人事制度・育成
はすべてつながっています。
採用だけを改善しても、
人事制度や職場環境が整っていなければ、社員は長く定着しません。
社労士ができるサポート
社労士というと
「社会保険の手続き」
というイメージを持たれることが多いかもしれません。
しかし実際には、
・採用設計
・人事制度づくり
・社員定着の仕組みづくり
といった 人材に関する経営課題の支援 を行うこともできます。
採用の負のスパイラルに陥っている企業は、
制度や仕組みを少し見直すだけで、状況が大きく改善することもあります。
経営者の皆様へ
もし、
・採用しても人が辞めてしまう
・求人を出しても人が集まらない
・社員がなかなか定着しない
といったお悩みがある場合は、
採用の方法だけでなく、
採用の仕組みそのもの
を見直してみることが大切です。
人事労務の現場では、
同じような問題がさまざまな会社で起きています。
・問題社員への対応
・採用トラブル
・労基署調査への対応
などでお困りの際は、
個別の状況を踏まえて整理することもできます。
必要な場合はお気軽にご相談ください。
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※本記事は、実際の経験をもとに内容を再構成した記録であり、
特定の個人・企業・事案への助言や判断を示すものではありません。
ハーレーの後ろについている長いアンテナ。

ラジオは聞かない。
見た目もスッキリさせたい。
でも、
どうやって外すのか分からない。
そんな状態が何年も続いていた。
【図面を調べる】
部品図を見る。
アンテナF。
ナット4。
ベースE。
図面を見てもよく分からない。
ネジ式なのか。
差し込み式なのか。
イモネジがあるのか。
考えれば考えるほど分からなくなる。
【YouTubeを見つける】
ある日、海外の動画を見つけた。
アメリカのおじさんが、
「15分でできるよ」
と言いながら作業を始める。
私は身構えて見ていた。
すると、
アンテナを手で回した。
終わりだった。

【思わず笑った】
数年間悩んでいたことが、
30秒で解決した。
図面を見て悩み、
構造を考え、
サドルバッグを外す必要があるのではないかと思っていた。
しかし答えはシンプルだった。
【仕事も同じ】
経営相談でも同じことがある。
難しそうだから手を付けない。
専門家しかできないと思い込む。
ところが、
実際に調べてみると、
意外と簡単な方法が見つかることがある。
もちろん簡単ではない問題もある。
しかし、
「分からないから放置する」
よりも、
「まず調べてみる」
方が前へ進める。
【まとめ】
今回、アンテナを外したわけではない。
外し方が分かっただけである。
しかし、
数年間のモヤモヤは解消した。
今度の休日、
アメリカのおじさんの言う通り、
「15分でできるよ」
と言いながらやってみようと思う。

