「部下から、パワハラだと言われました」
こんな相談を会社が受けると、経営者や管理職は焦ります。
「すぐ本人を呼んで注意した方がいいのか」
「被害を訴えている社員を休ませた方がいいのか」
「処分を考えた方がいいのか」
でも、ここで判断を急ぐと危ないです。
最初にやることは、処分ではありません。
まず、何があったのかを確認することです。
## 「パワハラと言われた」だけでは、まだ結論は出ていない
社員から、
「上司からパワハラを受けました」
と相談があった。
もちろん、軽く扱ってはいけません。
一方で、その時点で、
「上司がパワハラをした」
と確定したわけでもありません。
相談者に配慮することと、事実認定を急がないことは別の話です。
ここを混ぜると、対応がおかしくなります。
## まずは、相談した本人から話を聞く
いつ、
どこで、
誰から、
何を言われたのか。
どんな状況だったのか。
その後、仕事や体調にどんな影響が出ているのか。
できるだけ具体的に確認します。
メールやチャット、録音などがあれば、それも確認します。
ここで、
「それくらいならパワハラじゃないですよ」
と結論を出すのも早いです。
逆に、
「それは完全にパワハラですね」
と決めるのも早い。
まずは話を聞く。
ハラスメント対応では、ここがスタートです。
## 行為者とされる人の話も聞く
相談者から話を聞いた後は、原則として、行為者とされる人からも事情を確認します。
当然、話が違うことがあります。
相談者は、
「みんなの前で怒鳴られた」
と言っている。
上司は、
「怒鳴っていない。業務上必要な注意をしただけだ」
と言う。
こういうことは珍しくありません。
上司は「指導しただけ」。
部下は「人格を否定された」。
同じ場面でも、受け止め方が大きく違うことがあります。
必要であれば、その場にいた第三者にも話を聞きます。
一方の話だけで決めない。
これは基本です。
## 「誰が悪いか」を急いで決めない
ハラスメント相談が入ると、
「被害者を守らなければ」
という意識が強くなります。
それ自体は当然です。
体調を崩しているなら、勤務上の配慮が必要になることもあります。
ただし、
相談者への配慮と、
行為者とされる人の責任を認定することは、
分けて考えた方がよいです。
事実確認が十分でない段階で、
「問題になっているから、とりあえず管理職から外そう」
「減給しよう」
「辞めてもらおう」
と進めるのは危険です。
懲戒処分を行うのであれば、就業規則の根拠や行為の内容、これまでの処分とのバランスなども確認する必要があります。
「パワハラだから重い処分」
というほど単純な話ではありません。
## 意外と大事なのが「途中の説明」
ハラスメント対応では、事実確認だけでなく、途中の説明も大事です。
会社として何を確認しているのか。
今後どう進めるのか。
すぐには答えられないことは何なのか。
何も説明しないまま時間だけが過ぎると、
「会社は何もしてくれない」
と思われることがあります。
一方で、調査途中の内容を何でも伝えればよいわけでもありません。
プライバシーの問題もあります。
このあたりは、実務では結構難しいところです。
## 記録は残しておいた方がいい
相談を受けた日時。
本人が話した内容。
会社が確認したこと。
会社が説明したこと。
行為者とされる人から聞いた内容。
その後の対応。
こうした記録は残しておいた方がよいです。
「裁判になったとき会社を守るため」
というだけではありません。
数週間、数か月たつと、
誰が何を話したのか、意外と分からなくなります。
担当者が変わることもあります。
後から見ても、
「会社は何を確認して、なぜこう判断したのか」
が分かる状態にしておく。
私は、その方が大事だと思っています。
## 体調不良や休職に発展したら、別の確認も必要
ハラスメントをきっかけに、本人が体調を崩し、休職や退職に至ることもあります。
この場合は、
労災保険、
傷病手当金、
休職制度、
退職時の手続き、
など、別の確認も必要になります。
ここは、ハラスメントの認定とは分けて考えた方がよいです。
労災保険給付については、会社ではなく労働基準監督署長が支給・不支給を判断します。
また、傷病手当金についても、一定の要件を満たせば退職後も継続して受けられる場合があります。
個別事情で扱いが変わるため、この部分は確認が必要です。
## ハラスメント相談は、同じように見えても中身が違う
30年以上、人事労務の仕事をしていますが、ハラスメント相談は、同じように見えても中身はかなり違います。
明らかなケースもあります。
判断が難しいケースもあります。
相談者と行為者の話が、まったく違うこともあります。
だからこそ、
相談者の話を聞く。
行為者とされる人の話も聞く。
必要なら第三者にも確認する。
記録を残す。
その上で、会社として判断する。
結局、ここが基本です。
一番避けたいのは、
「よく分からないけれど、とりあえず誰かを処分して終わり」
にしてしまうことです。
問題が起きてから慌てないためにも、
相談を受けたら誰が話を聞くのか。
誰が事実確認を行うのか。
どこまで経営者に報告するのか。
このくらいは、普段から会社として決めておいた方がよいと思います。
「お客様だから、とりあえず謝っておいて」
「そのくらいなら、現場でうまく対応して」
カスハラの話をすると、こうした対応が残っている会社は、まだ少なくありません。
もちろん、正当な苦情やご意見にはきちんと対応する必要があります。
でも、
怒鳴られる。
何度も同じ要求をされる。
長時間拘束される。
人格を否定するようなことを言われる。
それでも、
「お客様だから我慢して」
では、現場の社員に負担を押しつけることになります。
私は、カスハラ対策で一番避けたいのは
現場の社員一人に、その場の判断も責任も負わせてしまうこと
だと思っています。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント防止措置がすべての事業主に義務化されます。
でも、義務化されたからといって、最初に分厚いマニュアルを作る必要はありません。
まず、
「社員が困ったとき、会社としてどう動くのか」
そこを確認するところからでよいと思います。
カスハラ対策は「お客様に強く出ること」ではない
ここは誤解しやすいところです。
カスハラ対策が義務化されたからといって、
「苦情は聞かなくていい」
「少し強く言われたら対応を断っていい」
という話ではありません。
厚生労働省の指針では、カスタマーハラスメントについて、
顧客等からの言動で、
業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、
それによって労働者の就業環境が害されるもの、
としています。
つまり、
正当な苦情とカスハラは分けて考える必要があります。
お客様の声には誠実に対応する。
ただし、行き過ぎた言動については、社員任せにせず会社として対応する。
この線引きを会社で共有しておくことが大事です。
「困ったら上司に相談して」だけでは足りない
会社側は、
「何かあったら上司に相談することになっています」
と言います。
でも、現場では、
「どの程度なら上司に代わってもらっていいのか」
「電話を切っていいのか」
「同じ要求を何回まで聞けばいいのか」
「責任者を出せと言われたらどうするのか」
が分からないことがあります。
結局、
「自分で対応するしかない」
となってしまいます。
これでは、相談窓口があっても十分ではありません。
例えば、
同じ要求が繰り返される。
暴言が続く。
対応が長時間になる。
脅迫的な言動がある。
こうした場合に、
誰に代わるのか。
誰が最終判断するのか。
会社として、ある程度決めておいた方がよいです。
厚生労働省の指針でも、可能な限り労働者を一人で対応させないことや、管理監督者に対応方針を確認することなどが示されています。
犯罪に該当する可能性があるような言動であれば、警察への相談や通報を検討する場面もあります。
対応したら、簡単でも記録を残す
記録も必要です。
ただし、最初から立派な報告書を作る必要はありません。
いつ、どんな言動があったのか。
何を要求されたのか。
会社はどう対応したのか。
まず、この程度でも構いません。
メールなら、そのメールを保存する。
SNSなら画面を保存する。
電話なら簡単なメモを残す。
後になって、
「以前にも同じことがあった」
「要求がだんだん強くなっている」
ということが分かる場合があります。
記録がなければ、担当者の記憶だけに頼ることになります。
お客様への対応が終わっても、社員側は終わっていないことがある
カスハラ対応で意外と忘れやすいのが、その後の社員への対応です。
会社としてお客様への対応は終わった。
でも、担当した社員は、
「また電話が来るのではないか」
「また来店するのではないか」
「自分の対応が悪かったのではないか」
と不安を抱えていることがあります。
そんなとき、
「次からは会社で対応するから、一人で抱えなくていい」
と上司から伝えるだけでも違います。
必要に応じて、担当を替える。
一人で対応させない。
休ませる。
こうした配慮が必要になる場合もあります。
カスハラ対策は、
「迷惑なお客様を排除するための制度」
ではありません。
社員が安心して仕事を続けられるように、会社として対応する仕組みを作るものです。
10月1日までに、何を確認するか
義務化直前だからといって、
「急いで規程を作らなければ」
と慌てる必要はありません。
むしろ確認したいのは、
実際にカスハラが起きたときに、
現場の社員が誰に助けを求めるのか。
上司はどの段階で引き取るのか。
誰が最終的に判断するのか。
その流れが決まっているかどうかです。
マニュアルはある。
相談窓口もある。
でも、
「上司に代わるタイミングが分からない」
「電話を切っていいか誰も判断できない」
では、制度を作った意味がありません。
カスハラ対策は、規程を作って終わりではありません。
現場の社員に一人で判断させない。
まず、そこができているか。
10月1日の義務化を機に、一度確認してみるとよいと思います。
「先生、スタッフが電話に出るのを怖がるようになってしまいました」
カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラの相談では、このような話から始まることがあります。
最初から「これはカスハラです」と整理されて相談になるとは限りません。
何度も電話がかかってくる。
強い口調で責められる。
担当者が長時間、一人で対応している。
会社として、どこまで対応すればよいのか分からない。
そんな状態が続いて、ようやく問題が表に出てきます。
苦情のすべてがカスハラではありません
最初に押さえておきたいのは、お客様からの苦情がすべてカスハラになるわけではない、ということです。
商品やサービスに問題があった。
説明が分かりにくかった。
約束した時間に対応できなかった。
このような場合は、まず事実を確認します。
会社側に落ち度があれば、きちんと謝罪し、改善する必要があります。
都合の悪い苦情を何でもカスハラ扱いするのは違います。
一方で、会社側にミスがあったとしても、
「担当者を辞めさせろ」
「自宅まで謝りに来い」
「土下座しろ」
「SNSに名前をさらすぞ」
といった要求まで受け入れる必要はありません。
会社のミスについて謝罪することと、行き過ぎた要求を断ることは、別の問題です。
「要求の内容」と「要求の仕方」を分けて考える
実務で迷うのは、お客様の言い分に一部もっともな点がある場合です。
会社の説明不足もあった。
お客様が怒る理由も分かる。
だから、強い要求にも応じなければならないのか。
ここは、二つに分けて考えます。
一つは、お客様の要求内容に理由があるか。
もう一つは、その要求の仕方が行き過ぎていないかです。
返金を求める理由があったとしても、担当者の解雇や土下座まで求めることが認められるわけではありません。
「こちらにも落ち度があるから仕方がない」と考えて、担当者に無理をさせないことが大切です。
カスハラ対策が会社の義務になります
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、カスハラ防止措置がすべての事業主に義務づけられます。
厚生労働省は、職場におけるカスハラについて、次の三つをすべて満たすものとしています。
・顧客等による言動であること
・業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
・その言動によって、労働者の就業環境が害されること
電話やメール、SNS上の言動も対象になります。
ただし、現場で対応している社員が、その場でこの三つを正確に判断するのは簡単ではありません。
だからこそ、会社として対応基準を決めておく必要があります。
真面目な社員ほど、一人で抱え込みます
現場の社員に判断を任せると、真面目な人ほど我慢してしまいます。
「自分の説明が悪かったのかもしれない」
「お客様を怒らせたら会社に迷惑がかかる」
「ここで電話を切ったら、もっと大きな問題になるかもしれない」
そう考えて、限界まで対応してしまうのです。
そこで会社から、
「お客様なんだから我慢して」
「とにかく謝っておけばいい」
と言われると、社員は次から相談しなくなります。
カスハラは、接客マナーだけの問題ではありません。
社員のメンタルヘルスや離職にも関わる、労務管理の問題です。
まず決めたいのは「ここから先は一人で受けない」
カスハラ対策というと、分厚いマニュアルを作らなければならないと思うかもしれません。
しかし、最初の一歩はそこではありません。
まずは、
「ここから先は、社員一人で受けない」
という基準を決めることです。
たとえば、
・暴言や人格を否定する発言が出たら、責任者に代わる
・同じ話が長時間続いたら、いったん対応を区切る
・担当者個人への攻撃になったら、会社として対応する
・金銭や土下座の要求は、現場で回答しない
・脅しやSNSへの投稿をほのめかされたら、記録を残して報告する
こうした基準があるだけでも、現場の安心感は変わります。
中小企業では、電話対応や受付を担当する社員が限られています。
責任者が外出していて、すぐに交代できないこともあります。
だからこそ、誰に報告し、誰が対応を引き取るのかまで決めておく必要があります。
まとめ
カスハラ対策の第一歩は、正当な苦情と行き過ぎた言動を分けることです。
会社側に落ち度があれば、謝罪し、改善する。
その一方で、暴言、威圧、長時間拘束、過大な要求、担当者個人への攻撃には、会社として線を引く。
そして、その判断と負担を、現場の社員一人に背負わせないことです。
「これはカスハラなのか」と悩むだけでなく、
「どこから責任者に代わるのか」
「誰に報告するのか」
「何を記録に残すのか」
を自社で確認しておく。
2026年10月の義務化を前に、まずはここから始めてみてはいかがでしょうか。
第1回では、東芝柳町工場事件の舞台となった場所を訪ねました。
旧東芝柳町工場は、現在のキヤノン川崎事業所。
そのあと、昔の東芝堀川町工場があった川崎駅西口にも立ち寄りました。
さて、この日の早朝散歩ツーリングは、まだ続きます。
今度は川崎駅から海側へ。
次の目的地は、
日本食塩製造。
これも、労働法を勉強した人なら聞いたことがある会社名だと思います。
「夜光」という地名が前から気になっていた
日本食塩製造があるのは、川崎市川崎区夜光。
「夜光」。
以前から、変わった地名だなと思っていました。
工場地帯の町名として見ると、ちょっと格好いい(笑)。
今回走っている途中に、「夜光町の由来」という案内板にも立ち寄りました。

案内板によると、「夜光」という地名には川崎大師・平間寺の開創にまつわる伝承が関係しています。
平間兼乗という人物が、夜に不思議な光を放つ海で弘法大師像を引き上げたという話があり、その海が「夜光の海」と呼ばれるようになった。それが後の「夜光新田」、現在の夜光という町名につながったとされています。川崎市の資料でも、この由来が紹介されています。 ([川崎市公式ウェブサイト][1])
判例巡りに来たのに、途中で地名の由来を調べ始める。
こういう寄り道も、この企画ではありです(笑)。
そして、日本食塩製造へ
少し走ると、日本食塩製造の看板が見えてきました。

「日本食塩製造」。
判例名として何度も見てきた名前が、実際に目の前にあります。
現在の日本食塩製造株式会社は、川崎市川崎区夜光3丁目3番3号に本社を置き、塩の加工、保管、輸送、販売などを行っています。会社公式サイトによると、設立は1949年です。 ([日本食塩製造][2])
判例名だけを見ていると、どこか昔の会社のような感覚があります。
でも実際に現地へ来ると、
「あ、本当にここにあるんだ」
となります。
第1回の東芝柳町工場とは、また少し違う感覚でした。
日本食塩製造事件とは
ここで、判例の話を少し。
日本食塩製造事件は、最高裁第二小法廷が昭和50年4月25日に判決を出した事件です。
会社と労働組合の間には、いわゆるユニオン・ショップ協定がありました。
簡単にいえば、一定の場合に組合員であることと雇用を結び付ける仕組みです。
従業員が労働組合から除名され、会社はその協定に基づいて解雇しました。
ところが、その除名自体が無効であった場合、会社による解雇まで当然に有効になるのか。
そこが問題になりました。
最高裁は、除名が無効で会社に解雇義務が生じないのであれば、他に合理性を裏付ける特段の事情がない限り、その解雇は解雇権の濫用として無効になるという考え方を示しました。 ([労働チェック][3])
「解雇する権限がある」と「この解雇が認められる」は別
日本食塩製造事件は、いわゆる解雇権濫用法理の代表的な判例として知られています。
難しい言葉ですが、考え方はそれほど難しくありません。
会社には、一定の場合に社員を解雇する権限があります。
でも、
「解雇する権限がある」ことと、「今回の解雇が法的に認められる」ことは別です。
客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効になります。
この考え方は現在、労働契約法16条に明文化されています。厚生労働省や労働局も、日本食塩製造事件を解雇権濫用法理の代表判例として紹介しています。 ([労働チェック][3])
社労士として相談を受けていると、
「就業規則に解雇事由が書いてあります。解雇できますよね」
という話が出ることがあります。
でも、就業規則に書いてあるだけで結論が決まるわけではありません。
何があったのか。
会社はそれまでどう対応してきたのか。
本人に改善の機会を与えたのか。
処分として重すぎないか。
実際には、こうした事情も見ていく必要があります。
柳町とは、ちょっと違う
第1回で訪ねた東芝柳町工場は、現在キヤノン川崎事業所になっています。
一方、今回の夜光では、
「日本食塩製造」
という名前が、今も現地の看板にあります。
企業公式の沿革を見ると、日本食塩製造は1949年に設立され、その後も塩の事業を続けています。なお、2025年には日本精塩株式会社の事業を吸収分割で承継しています。企業の沿革や法人関係を厳密にたどる場合は、さらに確認が必要ですが、少なくとも「日本食塩製造」という会社名と塩の事業は現在も夜光に残っています。 ([日本食塩製造][2])
判例は残る。
現場は変わる。
でも、全部がなくなるわけではない。
残っているものもあるんですね。
さて、判例巡りはここまで(笑)
柳町、堀川町、夜光と走って、この日の判例巡りは終了。
帰り道、神奈川新町の「ぐっどまみー」に寄りました。

日替わり弁当を購入。
この日の弁当には、ハムエッグが乗っています。

ところが、
味噌汁と、ゆで卵までおまけで付いてきました(笑)。
ハムエッグに、ゆで卵。
卵、かぶりました(笑)。
でも、こういうのは嫌いではありません。
判例を見に行ったはずが、
夜光という地名の由来を知り、
最後は弁当を買って帰る。
これくらいが、私の「判例聖地巡礼」にはちょうどいいのかもしれません。
判例は残る。現場は変わる。
次は、日立メディコ事件の現場へ行ってみたいと思ってます。
参考資料
・厚生労働省「解雇|裁判例」日本食塩製造事件 ([労働チェック][3])
・厚生労働省「解雇権濫用法理に関する裁判例」 ([厚生労働省][4])
・日本食塩製造株式会社「企業情報」 ([日本食塩製造][2])
・日本食塩製造株式会社「沿革」 ([日本食塩製造][5])
・川崎市「夜光」地名由来資料 ([川崎市公式ウェブサイト][1])
[1]: https://www.city.kawasaki.jp/250/cmsfiles/contents/0000005/5013/kawasakiku.pdf?utm_source=chatgpt.com "kawasakiku.xdw"
[2]: https://www.nihon-s-gr.com/company/?utm_source=chatgpt.com "企業情報 | 日本食塩製造株式会社"
[3]: https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/kaiko/kaiko.html?utm_source=chatgpt.com "解雇|裁判例|確かめよう労働条件|厚生労働省"
[4]: https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/12.pdf?utm_source=chatgpt.com "<4D6963726F736F667420576F7264202D20819994BB97E1816996DA8E9F93FC82E8816A2E646F63>"
[5]: https://www.nihon-s-gr.com/company/history/?utm_source=chatgpt.com "沿革 | 日本食塩製造株式会社"
「最近の若い社員は、すぐ辞めるんですよ」
中小企業の経営者や管理職の方から、こんな話を聞くことがあります。
せっかく採用した。
仕事も教えた。
ようやく慣れてきたと思ったら、
「辞めたいです」
会社としては、がっかりしますよね。
しかも今は、辞めたからといって、すぐ次の人が採用できるとは限りません。
採用する。
辞める。
また採用する。
これを繰り返している会社もあります。
でも、本当に「最近の社員はすぐ辞める」で片づけてよいのでしょうか。
評価制度を作れば、社員は辞めなくなる?
最初に結論を書きます。
私は、
「評価制度を作れば、社員は辞めなくなる」
とは考えていません。
離職の理由は一つではないからです。
厚生労働省の資料を見ても、若年者が最初に勤務した会社を辞める理由には、
労働時間や休日、
職場の人間関係、
賃金、
仕事が自分に合わない、
など、さまざまなものがあります。
ですから、
「社員が辞めるのは評価制度がないからだ」
と考えるのも少し乱暴です。
ただ、人事担当者の時代から採用、評価、退職の場面を長く見てきて感じることがあります。
それは、
「自分は、この会社で何を期待されているのか分からない」
という状態は、あまりよくないということです。
「もっと頑張れ」と言われても困る
例えば、上司から、
「もっと頑張ってほしい」
と言われたとします。
でも、
何を頑張ればいいのか。
どこまでできれば評価されるのか。
今の自分は、会社からどう見られているのか。
そこが分からなければ、本人も困ります。
上司は、
「ちゃんと言っているつもり」
社員は、
「そんな話は聞いていない」
このズレ、結構あります。
一生懸命仕事をしているのに、
「そこじゃないんだよ」
と言われる。
別の上司からは、
「よくやっている」
と言われる。
これでは、何が正解なのか分かりません。
私は、評価制度の役割は、単にA・B・Cをつけたり、昇給額を決めたりすることだけではないと思っています。
会社が社員に、
「こういう仕事をしてほしい」
「ここを見ています」
「次はここを目指してほしい」
と伝えるための仕組みでもあります。
立派な制度を作る前に
評価制度というと、
等級制度を作って、
評価表を作って、
目標管理制度を入れて、
面談制度を作って……
と、大掛かりな話になりがちです。
もちろん、そうした制度が必要な会社もあります。
でも、社員30人、50人くらいの会社で、最初から大企業のような仕組みを作っても、運用できなければ意味がありません。
評価表はある。
でも、管理職はほとんど見ていない。
年に1回、人事から言われて慌てて評価をつける。
面談も、
「特に問題ないよね」
で終わる。
これでは、制度があるだけです。
むしろ最初に確認したいのは、
「うちの会社は、社員に何を期待しているか説明できているだろうか」
ということだと思います。
社員が辞めたとき、一度振り返ってみる
退職者が出ると、
「給料かな」
「人間関係かな」
「本人の問題かな」
と考えます。
もちろん、それもあるでしょう。
ただ、その社員が働いていたときに、
上司と仕事について話す機会があったか。
直近の評価内容を本人に伝えていたか。
改善してほしいことを具体的に話していたか。
本人が今後どうなりたいのか聞いたことがあったか。
このあたりも、一度振り返ってみてよいと思います。
退職届には、
「一身上の都合」
としか書かれていないこともあります。
でも、それだけでは本当の理由は分かりません。
だからといって、無理に本音を聞き出すという話ではありません。
会社側も、
「辞めた人の問題だった」
で終わらせず、何か会社側で見直せることはなかったか。
そこは一度確認してもよいと思います。
評価のズレは、後から問題になることもある
評価の話は、社員の定着だけの問題でもありません。
会社が、
「何度指導しても改善しない」
「管理職としての役割を果たしていない」
と考えていても、
本人は、
「そんなことは言われたことがない」
と思っていることがあります。
このズレが大きくなると、後になって、
降格、
配置転換、
退職勧奨、
といった話になったときに問題が表面化します。
特に解雇のような重大な判断になると、さらに慎重な確認が必要です。
ただし、
「評価表があれば大丈夫」
という話ではありません。
普段から、
何を求めていたのか。
何ができていなかったのか。
会社は何を伝えたのか。
本人はどう受け止めていたのか。
この積み重ねの方が、実務では大事です。
「制度がない」より「説明できない」が問題かもしれない
社員の定着に悩んでいる会社に、
「まず評価制度を導入しましょう」
と一律に言うつもりはありません。
原因は会社によって違います。
給与かもしれない。
労働時間かもしれない。
上司との関係かもしれない。
採用時の説明と実際の仕事が違っていたのかもしれません。
評価制度以前の問題もあります。
ただ、
何を頑張れば評価されるのか分からない。
上司によって言うことが違う。
自分がどう評価されているのか分からない。
そんな声が出ているのであれば、一度確認した方がよいと思います。
立派な評価制度を作るところから始めなくても構いません。
まず、
「会社として社員に何を期待しているのか」
を言葉にしてみる。
管理職同士で、その認識が合っているか確認する。
そして本人にも伝える。
評価制度を考えるのは、その延長線上でもよいと思います。
採用が難しい時代だからこそ、
「辞めたら、また採ればいい」
では済みにくくなっています。
だからといって、いきなり大掛かりな評価制度を作る必要もありません。
まずは、今いる社員に、
「会社はあなたに何を期待しているのか」
を説明できるか。
私なら、そこから確認します。

