インバウンドバブルを「バブル」にさせないために | ホスピタリティの専門家 濱野まさひろのブログ

ホスピタリティの専門家 濱野まさひろのブログ

北海道流のホスピタリティ=「なまらあずましい」を探して

 

インバウンド観光が再び盛況を迎えていますね。

日本各地の観光地が賑わいを取り戻しているのは嬉しいことです。

しかし、経済効果をもたらす一方で、地域住民や環境に与える影響についても考える必要があります。

ちなみにニュースやワイドショーで「インバウンドバブル」の功罪について毎日のように報じています。

オーバーツーリズムの弊害とともに放映内容で多いのが、スキー場周辺の立ち食い蕎麦3500円、ウニ丼2万円など価格の高騰について批判的に語られることです。

しかし私はスキー場周辺の物価が高騰することは、問題だとは思いません。(市街地の商店まで影響するのであれば問題ですが)

価格は商品やサービスの価値を表すものでありつつ、また価値の一部でもあります。

価格が高いというだけで、その消費の価値が高いと顧客が思う心理です。

これをウェンブレン効果といいます。

逆に円安などの要因で売れなくなれば、当然安くせざるを得ないのです。

パンデミックで外食消費が落ちた時、何でも安くなったではないですか。

インバウンドバブルの問題点は、価格高騰以外にあると考えています。

インバウンドの復活とその影響

私が住む北海道の狸小路や北海道神宮も、コロナ禍以前の賑わいを取り戻しつつあります。

外国人観光客でにぎわう光景を見ると、観光業が復活していることを実感できますね。

観光業の復活は、地域経済にとって大きな恩恵をもたらします。

観光客が増えることで、飲食店や宿泊施設の売り上げが上がり、地元の雇用も増加します。

でも、その一方で、

地域住民が感じる負担や不便さも無視できません。

旅行者の増加による快適さの喪失

旅行者の増加は、地域住民の生活にとっての快適さを奪うことがあります。

また我々自身が観光する際も、コロナ禍で観光客がいなかったときの静かさと快適さを味わってしまったので、観光地が再び混雑することはストレスになっています。

経済的に恩恵を受けていることを頭でわかっていても居心地の悪さを感じてしまいます。

スキー場での体験

冬にニセコ近くのキロロスキー場へ行った時、こんなことがありました。

車で到着するとゲレンデから近い駐車場は満車のため、遠く離れた駐車場に誘導されました。

以前はその駐車場からスキー場までバスでピストン輸送していたのです。

しかし今年はホテルからスキー場まで移動用のゴンドラが新設されていたんです。

便利になったと感心し、ゲレンデで降りてスキーセンターへトイレに行こうと歩き始めると、欧米人のスキーヤーから声を掛けられました。

「チケットセンター? ズィスウェイ#$%&’`*」と英語で話しかけられました

最初、外国人観光客が「チケット売り場は何処か?」と質問していると思い、場所を身振り手振りで教えてたのですが、怒ったような表情で同じような事を何度も話してくるのです。

ふと見るとウエアの胸に小さなネームプレートが付いているではないですか。

ようやく客ではなく、ここのスタッフなんだと気付きました。

要するに「コチラの出入り口は、ホテル宿泊者専用だから入るな!」という注意だったのです。

3年前に来た時は問題なく通れたので、そちらに向かおうとしたのですが…。

正直、「今、何処の国のスキー場に来ているのか?」と私は思いました。

一言日本語で「あちらの出入り口は宿泊者専用で通り抜けできません」と伝えればいいだけなのです。

そういった簡単な従業員教育されていない状況、

日本人はどうでもいい、と言われても仕方ないオペレーションしていると感じます。

このような状況は、地元住民の不満を引き起こし、本来のコア顧客であった客層を損なう要因となってしまいます。

インバウンドバブルの永続性とそのリスク

そしてもう一つ忘れてならないのは、インバウンドバブルは永続的なものではないということです。

リーマンショック・3.11・コロナパンデミックといった過去の事例からもわかるように、

観光業特にインバウンドは約10年に一度は外部の影響を大きく受けています。

そのため、観光地はインバウンドバブルの頼った短期的な経済効果に依存するのではなく、持続可能なまちづくりを目指すべきです。

適正規模の観光を目指して

さらに観光立国を掲げる政府の方針と、地域の観光受容力にはギャップがあります。

先日発表された政府の観光政策方針は驚きました。

外国人の地方滞在を後押しするため、2031年までに全国35カ所全ての国立公園に高級リゾートホテルを誘致し、国立公園の魅力を高める事業を実施する方針を固めたのです。

現在でも地方の観光地は慢性的な人材不足です。また交通インフラの弱体化も顕在化しています。

資源である自然を守るより開発によって国立公園を過剰な観光地化にすることは、物価上昇だけでなく住民の生活環境の悪化を招き、観光に対する反発を引き起こす可能性があります。

地域の特性や住民のニーズを考慮した適正規模の観光を目指すことが、持続可能な地域のまちづくりに求められます。

解決策は地元住民への価値提供

星野リゾートの星野佳路社長は、ニセコのインバウンドバブルが長期的には地域に悪影響を及ぼす可能性があると懸念しています。

具体的には、インバウンド観光客による一時的な需要増加がサービスを低下させ、地元住民やビジターの満足度を低下させるリスクがあると指摘し、実際に今までのコア顧客が離れてきていると発言しました​。

観光地が持続可能な発展を遂げるためには、地元住民へのホスピタリティを重視し価値提供することが大切です。

たとえば、地元住民向けの割引制度を設けたり、観光客が集中する時期以外にイベントを開催したりするのも良いでしょう。

また、地域の伝統行事や文化活動に観光客を巻き込み、交流の機会を増やすのも効果的かもしれません。

北海道の観光地が持つ魅力を最大限に活かしつつ、地元住民と観光客の双方が快適に過ごせる環境を整えることが求められます。

最終的な目的は住民の幸福

インバウンド観光が地域経済に与える影響は大きいですが、その一方で地域住民や環境への負担も無視できません。

観光振興の目的は地域の資源を活用し経済を活性化することで、最終的に地域住民を幸福にすることです。

その目的を忘れず過去の教訓も踏まえ、持続可能なまちづくりを目指し、適正規模の観光を推進することが求められます。

現在の施策はインバウンドのホスピタリティばかりにフォーカスしていて、地元民へのホスピタリティ(というか普通の暮らしを守ること)をなおざりにされていると思います。

北海道の観光地が持つ魅力を守りつつ、地元住民と観光客が共存できる未来を築いていくことが大切です。

噂の「すしのしはち」さんに行ってきました。味はもちろん、適度な高級感とカジュアルさを併せ持ち、スタッフの高いホスピタリティと相まってとても居心地が良いです