羽田空港で起きた航空機の衝突事故から二週間が経過。事故原因解明や対策が進められ
ている中、言い古された言葉だが、小生は改めて「ハインリッヒの法則」を思い出す。 |
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「ハインリッヒの法則(Heinrich's law)」とは、労働災害における経験則の一つだ。 |
「1つの重大事故」の背後には「29の軽微な事故」があり、その背景には「300の
異常(ヒヤリ・ハット)が存在する」というものである。 |
「人はミスを犯しやすい。事故には結びつかなかった『ヒヤリハット』の時点で原因と
対策を考えよう」という教えでもある。
羽田空港での1月2日のJAL機と海保機の衝突事故に焦点を当ててみよう。 |
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管制官と各航空機との交信記録によると、「海保機は、日航機への着陸許可および その
復唱を聞いていない」とみられる。 |
海保機の機長は、事故後に「滑走路に入る許可を得ていた」と証言。「指示を誤認して
滑走路内に入り、離陸許可を待った」と思われる。だから、JAL機の衝突前に滑走路
上に40秒も停止していたのであろう。 |
事故原因は客観的な証拠やデータに基づく運輸安全委員会の事故調査報告書を待つ必要
があるが、報道された事実から読み解くと、海保機は災害派遣任務を帯び、かつ出発が
遅れていたとされ、「ハリーアップ症候群」に陥った可能性がある。 |
この症状は、「急ぐあまり正常な判断ができず、自らに都合の良いように解釈して行動
する」というものである。過去に同様な状況下で多数の事例が発生しており、航空業界
では教訓とされている。 |
管制官、海保機ともに滑走路手前での待機指示について交信している。にもかかわらず、
なぜ滑走路に入ったのだろうか。「全く分からないことが起きた要因」としては、「ハ
リーアップ症候群」が疑われる。 |
海保の会見では、海保機内では 機長、副機長など全員が無線指示を聞ける環境にあった
としている。「なぜ複数が同時に誤認した」のか、コックピット・ボイスレコーダーの
解析が重要となる。 |
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また、管制官が海保機に対して使った「ナンバーワン(1番目)」という用語であるが、
交信記録では海保機より先に離陸を待っていた他の民間機がおり、「海保機を離陸順位
の1番目に繰り上げる」という意味で使われていたのであり、海保機は「ナンバーワン、
サンキュー(1番目、ありがとう)」と応じており、ごく自然なやりとりだという。 |
なお「『ナンバーワン』という言葉で滑走路に入っていい」とするルールや慣習はない。
世界共通ルールとして滑走路へ進入できる用語は 「離陸許可」,「滑走路内待機指示」,
「滑走路横断指示」,「滑走路上の地上走行指示」の4つだけなのだ。 |
しかし、一方では ハリーアップ症候群に陥った操縦士が「ナンバーワン」という言葉を
聞いて、「離陸順位1番目」ではなく 「滑走路使用順位1番目」と錯覚することはあり
得るのだろうか…。 |
ただ「誰が一番悪いかを決める」よりも 要因と生じたエラーを洗い出し 分析した上で、
再発防止策を検討することが肝要だ。エラーは起きる前提でマネジメントできる仕組み
の構築が安全につながるだろう。 |
海保機の誤進入に管制官が気付くか、日航機が海保機を発見して自ら着陸をやり直して
いれば衝突は回避されたであろうに…。
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「ハインリッヒの法則」によれば、300件の「ヒヤリ」,「ハッ」とした事案があって
「ヒヤリ・ハット」の上に軽微な29件の事故があり、その上に1件の重大事故がある
とされる。今回はその1件が計上されてしまった。 |
危機を回避できた「インシデント(軽微な事故 及び ヒヤリ・ハット事案)」と、今回
のアクシデント(重大事故)の差はいったい何だったのか。
現時点では分からず、故に事故調査報告を待たねばならないであろう。 |