220721 第 77 回Nゼミ

「「正しい戦争」は本当にあるのか」 藤原帰一
 

塚元さんによるレジュメ

■ 本書をご紹介するに至った経緯 
1989 ころ 東欧諸国の革命
1991 湾岸戦争
1991.12 ソ連解体
2001 911 テロ、アフガニスタン戦争(大学1年時)
2003 イラク戦争
2003.12 本書発行(大学3年時)
2011~ シリア内戦
2011 米軍、イラクから撤退
2014 ロシア、クリミア併合
2021 米軍、アフガニスタンから撤退
2022~ ウクライナ戦争


第1章 「正しい戦争」は本当にあるのか 
①正義を掲げる戦争
②「力の均衡、勢力均衡による平和」「リアリズム/現実主義」*倫理・国際法・国際機構を重視するリベラリズムに対し、自分たちの分析こそ「現実的だ」との主張


③武器よさらば
「宗教戦争は自分たちの正義を掲げて、邪悪な相手と戦うから、妥協しない。」「そして、宗教と戦争が結びついてしまったことで、戦争がどうしようもなく悲惨なものになったから、いまのように倫理と戦争を切り離すっていう考え方が始まった」「戦争と正義を切り離して、政策の道具として戦争を認めよう」「でも、やっぱり戦争は大変な暴力ですから、王様みたいに自分は死なない人はいいけど、ふつうの人に
とって戦争っていうのは自分が死ぬ、死にかねない」そこで、「経済の拡大による戦争の陳腐化と、市民の政府による戦争の制限(という)非戦の論理」が出てくる。


「戦争が政府の自明な手段だっていう時代はだんだん過去のものになる。大国の間の戦争は経済的に引き合わないものになっていくし、デモクラシーが広まることで市民が賛成しない戦争は出来なくなっていく。
ヨーロッパを中心として、ジュネーヴ議定書から国連憲章にいたるまで、戦争を違法化する法律や制度がだんだんできていきます。」
「もし戦争が政府の権利じゃなくなると、その違法な戦争を行うものに対して、われわれはどう取り組むのかっていう問題」「戦争を否定することで、その否定すべき戦争を起こした側に対する制裁が正義になる」
「戦争の違法化、戦争の制限は、実は正戦論と裏表の関係に立ってる」
「侵略戦争っていつのは現実にたくさんあるんです。 ところが、政府が戦争できないように脅すだけならともかく、悪い政府は潰してしまうということになると、とてつもなくお金がかかるし、人死にも出る。悪い政府を追放する平和は、一見するとわかりやすく、正しくも見えるんですが、現実にはとても実現できない。侵略をしたやつはことごとく戦争責任を追及すべきだ、と言えるほど、世界中が戦争をなくすこ
とに本当は熱心なわけじゃないんですよね。こうして、〈正しい戦争〉と〈正しい平和〉の追求は、結局どこかの国が倒すことに決めた敵は倒されるっていう、すごく恣意的な判断に傾きかねない。倒される独裁者と倒されない独裁者、ほっておかれる戦争と介入する戦争の間にとんでもない不公平とギャップが生まれてしまいます。」
「軍事力の行使の必要な場面が国際関係にあるかないかといえば、残念ながらあるというのがぼくの考えです。」「軍事力で対抗するほかに方法のない状況があることは否定できない。」


「ただその先が一番の問題なんです。」「ひとつは兵隊に頼らず、軍事力の行使に頼らないで、状況を打開する方法があるかどうか、できる限りていねいに考えること。」「ふたつめには、どのような状況のもとで暴力の行使が許されるのか、またその暴力行使がどんな制約のもとに置かれるのか」。「大事なのは、戦争の許される〈状況〉の制限と、戦争で用いる〈方法〉の制限という二重の制限」
「力の均衡というのはそのときどきの現状を維持することはできるかもしれないけど、それはもちろん平和を保証するわけじゃない。」「そのときそのときで戦争を先延ばしにするだけです。」「力のバランスで支えられた平和の下では、軍備拡大の競争、軍拡競争が避けられません。そして、軍拡競争自体が国家間の不信を高めてしまうという面もあります。」
他方で、武器をなくすこと「を実現するためには武器に頼らないで緊張が下がった状態、緊張緩和が保たれるような状況をまず作んなくちゃいけない。そして、ヨーロッパのように、その状態ができたので、軍隊の規模も削減されている地域はある」「でも、いまの問題は、そうじゃないとこをどうするか。東アジアのように、冷戦時代の対立が残っているために、軍隊への需要が高いところ、またアフリカ中部のように戦争が続いていたり、中東みたいにいつ壊れるともしれないカッコつきの平和もある。こういう地域についてどうするかを考えないと、絶対反戦という立場だけでは信用が得られないでしょう。」


「いま起こってるのは、実は日本人が犠牲にならないかもしれない戦争の違法性の問題なんです。自分が死なない限り、戦争の合理性を否定するのは理念的には可能でも、やる気になる人は少ないっていう問題がある。」


「かつてのソ連や東欧諸国が、同じようなルールを共有できる政府に変わって、軍事的緊張が低下したから。」「相手が軍隊使うんじゃないかという恐れは確実に低下しましたから、軍隊の出番も減るわけです。」


「ヨーロッパの不戦共同体がヨーロッパばかりに目を向けていて、ほかの紛争地域における関与には思いっきり無関心なことも事実でしょう。」


「空爆で殺したり、政府をつぶしたりするんじゃなくて、壊れちゃった政府と壊れた社会の再生のためにがんばること。大戦争よりは牛泥棒事件の仲裁みたいな、すっごく地味で時間のかかることです。」


「平和を唱えるのが理想主義で、戦争が現実なんだっていう二分法は必ずしも正確じゃない」「現実に向かうと戦争を肯定する、現実から離れるとハト派になるって、そんな馬鹿なことじゃない。現実の分析っていうのは、目の前の現象をていねいに見て、どんな手が打てるのかを考えることです。」


第2章 日本は核を持てば本当に安全になるのか 
「ロシアは 2002 年のモスクワ条約で、ようするにアメリカと張り合うのを断念しました。」
*ブッシュ大統領とプーチン大統領が調印した戦略兵器削減条約。対テロの文脈で米ロ関係が好転した果実とされる。
核保有国である「インドとパキスタンの間でも」「相互抑止が成り立たないどころか、むしろカシミールで
何回となく紛争が繰り返されてますよね。インドとパキスタンは、相手が先に使いそうだと考えたら核の使用も辞さないでしょう。」
「先にどっちかが下げないと下がんないですよね。多くの場合は弱い方が先に下げます。」


第3章 デモクラシーは押しつけができるのか 
「政府の資格っていうか、国際政治でどんな国家が国家として認められるかってことが、いま大きな流れとして変わりつつある」「大きくまとめたら〈力〉から〈民族〉へ、〈民族〉から〈デモクラシー〉へって言う流れです。で、まさにそれが新しい対立を作っている。」
 

「19 世紀のヨーロッパは〈民族ごとの政府〉という方向に向かいます。」「いろんな民族が共存してるところでは、それを排除して民族ごとに住み分けさせる、民族浄化っていう現象も起こります。」「第二次大戦後のヨーロッパが民族問題にあまり悩まされなくなったのは、……それまでに民族浄化ともいうべき現象がかなり進んでいたから。」


「民族より人権だって議論は、ヨーロッパの外、アジアやアフリカから見ると、すっきりとは受け止められない。」「植民地にされ、政府も経済も外から押し付けられてたとこから、やっとのことで〈民族ごとの政府〉を作った」「うちの〈民族=国民〉は伝統があるんだ、立派な文化を持ってるんだってことを、国語の教育とか歴史教育とかで教え込んでいく。」
「問題なのは民主主義じゃなくて、思い込みで民主化を押し付けるという政策」「民主化はなによりも国内社会から生まれるものであって、外から押し付けるような政策は正しくもないし、成功もしない」
「人権とかデモクラシーの普遍性を前提にしながら他者を排除したら、デモクラシーの意味がなくなっちゃうっていう議論」
「政治でも経済でも、お金持ちのグローバリズム、貧乏人のナショナリズム。」「豊かな国の社会制度を押し付けてるっていうイメージ」「押し付けを押し返すには、その国の一致団結ってことになりますから、国民の伝統とか文化とかが持ち出される。ナショナリズム」
経済政策については、「ワシントンが言ったらどこでも我慢して受け入れるってほど、世界各国が弱くもナイーブでもない」


「アメリカのパワーの中心は軍事的なヘゲモニーの方であって、経済においては必ずしもそうとは言えない。この二つを一緒にしてアメリカのパワーを考えると、たぶんアメリカのパワーを過大評価することになる」
「貧困のためにテロが起こるかというと、」「中部アフリカみたいな貧窮地帯は、大国の軍事戦略に反対したりテロを起こしたりするような力なんて持ってない。」「世界の貧窮地帯は、アメリカから富を奪われたからというよりも、世界から見捨てられたまま、自分たちの間で紛争を繰り返して、さらに貧乏になり、ますます死んでいくんだと思います。それがいまアフリカで起こっている現象でしょう。」
「貧乏なだけじゃなくて、怒ったり運動したり、あるいは犯罪をおかすことで、初めて〈問題〉として認められる。」「テロを起こさなくても貧困はそれだけで問題なはずなんだけど、そうはならない。」


第4章 冷戦はどうやって終わったのか 
「やっぱり東西の緊張が高まるとヨーロッパは戦場になっちゃうっていう感覚があるんですよ、アメリカは戦場にならないけど。だからレーガン政権が登場してからドイツやイギリスでも反核運動が盛んになりました。」「ゴルバチョフが出てくることでやっとソ連の硬直した体制が変わる。東西の緊張をやわらげられるかもしれない、っていう期待が高まる」「ゴルバチョフの緊張緩和政策をヨーロッパがアメリカより率先して歓迎していった」
「〈合意による〉冷戦終結じゃなくて、〈正義による〉冷戦終結へと、時代の解釈ががらっと変わっちゃう」
「ちゃんと脅したから冷戦がおわったんだ、じゃあ中国も脅せばいいじゃん」


「日本にとっては第二次世界大戦が決定的だと思います。」「日本は第一次大戦では得をしたから反省しなかった。でお、第二次大戦では痛い目にあったから反省する」
冷戦後秩序について「いろんな構想が出たけれども、そんなことする必要ないじゃんって全部紙の上だけで終わっちゃう。それはやはり、」「現実の大戦争の被害なしに冷戦後の秩序形成が起こったからだと」。


「戦争なしに国際関係の仕組みを変えるっていうのは本当にむずかしいことなんです。ことに、小規模で短期の戦争で終わる限りでは戦争という行動は合理的なんだっていうふうに考えられちゃうから、最悪です。」「戦争やって痛い目にあうような、戦争なんて目的合理性がないんだと思えるときには国際関係の仕組みって大きく変わるんだけど、戦争ってけっこううまくいくじゃん、合理性高い!って思っちゃえるときには変わらない」。「たぶん戦争無しで終わってくれたっていう幸福と不幸だった」。


第5章 日本の平和主義は時代遅れなのか 
「平和主義ってどういう考え方なのか」。「戦争で兵器を制限すべきだっていう考え方と、戦争そのものを否定する考え方があります。」
「戦争を否定するはずの自由主義と社会主義でも、自分たちを守る戦争は強く肯定する。全然平和的じゃない。」「戦争の否定は武器の放棄につながるとは限らない」。「戦争が違法だから、その違法な戦争を起こす奴は武力で退治すべきだってなる。」


「外から見たときに日本国憲法ってという役割を持っていたのか。それはもう、軍国主義の排除」
「アメリカ以外の地域では、韓国やフィリピンをはじめ、日本の再武装に対する警戒が強かった。日米両方を敵に回しかねない中国はもっとそうです。ただこれらの諸国も、日米安保条約には一目置いていた。」


「外国にはこれが日本の軍事行動をアメリカが抑え込むものに映る」「これが〈ビンのふた〉という議論です。日米安全保障条約は、日本の軍国主義を抑え込むための手段であるという考え方です。」
 

「外から見ますと、日本国憲法と日米安保条約のふたつが日本の軍事行動を抑え込むものであり、あえていえば、憲法よりも安保条約こそが日本の軍事的な単独行動を抑えていると考えた。」「アメリカが抑えてるから日本の軍国主義も暴走しないっていう感覚です。」


「日本国内では安保と憲法は対立関係にあるとみられていた。」「安保条約は日本を戦争への道にいざなう、再武装を促進する側のもの、憲法っていうのは軍備を廃棄する側」
「安保に反対しないし、憲法も変えない。それが戦後政治の仕組み」
 

「日本軍に対する残虐性の告発、日本への偏見も含めた〈殺し屋日本〉のステレオタイプは海外では沢山出てますけど、日本ではまず見ることないでしょう?戦時の日本がどれほど悪役に見られ、伝えられてるのか、知られてないと思いますよ。」
「戦争の記憶って、どうしても〈自分たち〉の犠牲に向けられる。」
 

平和運動の「実際の役割は非武装中立の実現じゃなくて、日米協力と軽武装を実現することだった。非武装じゃなくて軽武装にとどめる歯止めでしょうか。」「米軍と自衛隊をセットにした戦力がこの地域にずっとあったわけであって、問題はそれが増えるか減るかなんですよ。」
 

「攻め込まれたわけでもないのに軍隊を送るってのは異例なことです。それだけに、国連安保理の要請とか、制度的な枠の中で行うんじゃなきゃ許してはならない。ところがいまは、そんな枠を外す方向ばかりに向かってます。」
 

「日本は〈平和〉という色眼鏡をもって世界を見る状態から、一転して軍隊に対する希望的観測でものごとすべてを見る方向にひっくり返っちゃったんですよね。軍隊なかったら平和になるんだっていう極端な平和主義が裏返しになったみたいなね。世の中は危ないんだからガツンとやるしかないっていう。これは逆の軍事崇拝みたいな感じで、教条的ですよね。敵がどう動くのかって考えてないんじゃないかな。」
 

第6章 アジアの冷戦を終わらせるには 

「カンボジアの実績をもとに ASEAN 地域フォーラムもでき、ASEAN だけじゃなく東アジアの各国も含む安全保障の協議の場になった。この一連の動きは、日本の、経済援助を道具とする外交だったんです。日本の外交は軍事中心で行くとどうしてもアメリカ依存に傾くけど、資金協力を軸に据えたときはけっこう独自な路線もできるんですよ」
「冷戦終結のために孤立化する危機を迎えただけだったら、ベトナムも北朝鮮も同じでした。ただ、ベトナムの場合には日本やオーストラリアや ASEAN が、言ってみれば受け皿を提供しましたから、孤立化しないで地域各国との緊張を引き下げることが出来た。」

「でも、北朝鮮は、ソ連も中国もあてにならないってんで、単独の防衛に走るわけです。」
「もともと日本外交の中には日米安保を中心とする安全保障のグループと、経済援助を中心としている経済外交のグループの両方がある。」
「南北の緊張緩和は日本の安全を図る上でも有利な変化だと思います。」

以上