子どもたちの創造力を引き出す活動をされている、

童具館館長、和久洋三さんから伺った、存在承認のエピソードです。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


和久さんは、北海道から九州まで、いろんな幼稚園や保育園に行って、

絵画や積み木の指導をされて、子どもたちの創造性を引き出しているのですが、

和久さんがされているのは、「指導をしない」という指導だそうです。


「先生は何にも言わないから、好きに絵を描いてね」

と言うそうです。

そうすると子どもたちは、水を打ったようにシーンとなって集中します。

筆のかすれる音しか聞こえないくらい静まり返ることもあります。



 
ある保育園では、2人の女の子が20分経っても何も描かないでいました。

先生に「あの子たちはいつも描かないの?」と聞いたら、

「全然描かないんです。放っておいてください」と言うから、

和久さんは側に行って、

「描くのがイヤなら、絵の具をピュッピュと

 好きなだけ出して絵の具遊びしてごらん。楽しいよ」

と言いました。

 
しばらくしたらその2人、モチーフを見て描き出しました。

2時間後、本当にすごい絵が出来ました。

和久さんも、先生たちも、本人たちもびっくりしたそうです。



 
それから、ほとんど黒に近い濁色でイカの絵を描いている子がいました。

すごく暗い絵です。

和久さんは「それでいい」と思いながら見ていたそうですが、

途中で集中力が切れてしまったような感じがあったので、

側に行って、「きれいだね。すごいね」と耳元でささやいたら、

またやる気を取り戻して描き始めました。

最後のほうでは、鼻歌を歌いながら描いていたそうです。

 

実は、その子のお父さんは暴力親父で、

お母さんと子ども3人でその町に逃げて来て、

その保育園に入って3か月目だったそうです。


先生とも口を利かないし、友だちとも口を利かない。

「一緒に遊ぼう」と言うと、一人で砂場に行って遊ぶ子だったそうです。


その子が鼻歌を歌いながら描いていたので、園長先生は涙ぐんでいました。



 
何がその子に鼻歌を歌いながら描かせたのか。

「好きなように描いていいよ」と言った一言です。

それで彼は好きなように描いたのです。


そしたら和久さんから「きれいだね」「すてきだね」って認められた。

それで、鼻歌まで出ちゃったというわけです。

 

実は、和久さんがこのように子どもたちを信じられるようになって、

「指導をしない指導」をするようになったのは、

この5年くらいのことだそうです。


それまでは「子どもがちゃんとしたものを作らなかったらどうしよう」

という心配がいつもあったそうです。
 

でも、今は「今日はどんな絵を描くかな?」と考えながら、

ワクワクして待っているので、全然疲れなくなっているそうです。



           ~みやざき中央新聞 2012年5月7日号 2面より~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

和久さんの言葉がけも素敵ですが、

和久さんのように大人がワクワクしながら子どもを見守ると、

子どもは、安心して自分を出すことができるようになりますよね。
 

どんな状況にあっても、その中に楽しさ・喜びを見いだせる自分であること。
 

日々意識して、整えていきたいものです。




今日もワクワクを大切に、時を待つ心で、素敵な1日をお過ごしください。