「存在承認」が人を輝かす、というエピソードの3つ目は、

居酒屋てっぺんの大嶋啓介さんから伺ったお話です。

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大嶋さんはある時、県内でも2番目に荒れているという噂の高校に、講演に呼ばれました。

大嶋さんは、その高校に行くにあたり、

大嶋さんのお店で働いている17歳のユウヤくん(仮名)に、

「今度、結構荒れている高校に講演に行くんだけど、お前も少し話してみるか?」

と聞いたそうです。


するとユウヤくんは、

「ぜひ話をする時間をください」

と言ったので、

「分かった。じゃあ、お前に15分やるから話してみろ」

と言って連れて行ったそうです。



大人の話を聴く気のない高校生を相手に話をするのはとても難しいです。

最初、なかなか「話を聴く」空気を作れません。

でも、ユウヤくんに話をさせたら、ユウヤくんは一発でその空気を作りました。

 

ユウヤくんはその15分間で、それまでの自分の家庭環境について話をしました。

ユウヤくんはすごく複雑な家庭環境で育った子で、

生まれた時にはもう既にお父さんがいなくて、未だに顔も名前も知りません。


ただ、父親の職業がヤクザだったということは知っています。

そして、お母さんはレディースでした。

「レディース」というのは女性の暴走族のことです。



 
ユウヤくんが小学校3年生の頃、お母さんが新しい彼氏を家に連れて来ました。

その彼氏もまたヤクザの方で、ユウヤくんは毎日、

その男から暴力を受けて、体中アザだらけになりました。



もう学校どころじゃなくて、それ以来、大人が信じられなくなってしまいました。

それまで大好きだったお母さんも大嫌いになってしまい、

毎日、「どうすれば大人が困るか」ということばかり考えていたそうです。



 
だから小学校3年生から、勉強は一切していません。

かけ算はかろうじてできるけど、割り算はできない。

そんな状態で、不登校のまま小学校を卒業し、

中学校にも行かずに荒れた生活を送っていました。



 

でも、中学校3年生の時に出会った先生が熱い先生で、

「初めて本気の大人を見た」と彼は言っていました。




その先生は毎日のように家に来て、

「とりあえず学校に来い。来るだけでいい」と言っていました。



 

秋になると「体育祭だけでいいから学校に来い」と言うので、

ユウヤくんは体育祭に行きました。



学校に着くと、クラスメイトがユウヤくんを温かく迎えてくれて、

そのときに初めて、「友だちっていいな、仲間っていいな」と思えたそうです。

学校に自分を待ってくれている仲間がいたことがすごく嬉しかったんですね。

 



それで、中学校3年生ですから、

今まで全く勉強してこなかったことで、

だんだん将来に不安を感じるようになり、

初めて大人に相談しました。



それがその先生でした。



 

「先生、俺、将来どうしたらいいですか? 
 
 何をしたらいいのか分からなくて、すごく不安です」

と言ったら、先生が、

「お前が本当に人生を変えたいんだったら、

 このDVDとこの本をお前にあげるから見てみろ」

と言って渡したのが、大嶋さんの経営する居酒屋「てっぺん」のDVDと

大嶋さんの本だったそうです。

 


ユウヤくんはその本を1日で読み、

DVDを見て、「ここで人生を変えたい」と決めて、

大嶋さんのお店に面接に行きました。



そして、中学を卒業してすぐに大嶋さんのお店で働くことになり、

それから2年が経ちました。

 



そんな彼が自分の生い立ちを全部話した後、高校生にこう言ったそうです。

 

「僕は今まで勉強もしてこなかったから、

 今でも漢字もロクに書けないし、算数もできない。

 今まで人生なんかどうでもいいと思ってきた。

 でも、今は大嶋さんのお店で働くようになって、

 たくさんの仲間ができて、人生が楽しくなった。

 そして僕はたくさんの夢を見つけました」


「夢の一つは児童養護施設をやること。

 それから自分のブランドを立ち上げたい。

 あと飲食店もやりたい。

 そういうたくさんの夢を本気で叶えようと思って頑張っています」

と話しました。



その15分間、みんな真剣に話を聴いていました。

            ~みやざき中央新聞 2013年9月2日号 一面より~

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ユウヤくんが語った夢は、普通の高校生が語ったら、

「お前、何バカなこと言って」と言われてしまうようなものですよね。


 
本気で生きる大人の背中を見て、本気で生きる仲間と共に過ごすと、

こういう大きな夢、今の自分からはとても実現できるとは思えないような夢でさえも、

「できる」と思えるようになるのです。

 


そして、ユウヤくんが、このように大きな夢を持てるようになったのも、

中学校3年生のときに担任をしてくださった熱い先生から、

ず~っと「とにかく学校に来い」と言われ続けたこと。



そして、いざ、学校に6年ぶりくらいに行ったときに、

ユウヤくんのことを温かく迎え入れてくれた仲間がいたこと。
 


この二つが大きなきっかけとなって、

ユウヤくんは、居酒屋てっぺんで働きたいと思えるようになったのです。



 


まずは、自分自身が、一人の大人として、子どもを「存在承認」の関わりをすること。

そして、周りの子どもたちがお互いに、「存在承認」し合う関係性を育めるように関わること。


 
意識していきたいですね。