明けましておめでとうございます。
介護労務コンサルタント(社会保険労務士、介護福祉士)の松岡勇人です。
本年もこのブログを通じて、介護事業所の経営者の皆様に役立つ労務問題に関する情報を発信していきますので、どうぞよろしくお願いします。
今週号のテーマは、前号に引き続き法定三帳簿の1つである賃金台帳です。
賃金台帳って何だ?
賃金台帳とは、従業員の賃金(給料)を計算するための基礎となるデータや賃金(給料)の額を記載した帳簿のことで、労働基準監督官による臨検(立ち入り調査)において、チェックの対象となる法定三帳簿の1つです。
労働者名簿と同様に、今のご時世ですから、条件を満たせばパソコン管理はOKです(条件は、労働者名簿と同じです。前号参照)。
御社の賃金台帳は、正式なものですか?
毎月の給料計算を外注(社労士や税理士の先生などにお願い)していない場合、市販の給料計算ソフトを使用していると思います。ソフトを使用すれば、給料明細書の作成ほか、個人別、部門別など様々な集計をしてくれて、大変便利ですね。
経営者の皆様の中には、給料計算ソフトで作成したデータをまとめたものが、「賃金台帳でしょ!」と言われる方がいらっしゃいます。また、ソフトの中にある“賃金台帳作成”をポチッとして、プリントアウトしたものが「賃金台帳でしょ!」と言われる方もいらっしゃいます。
今日、このブログを読まれた経営者の方は、御社の“賃金台帳”と呼ばれているものを今一度ご確認ください!
なぜ、確認が必要なのか?
なぜならば、市販の給料計算ソフトの中には、法定必要記載事項を満たしていないものも“賃金台帳”と呼んでいることがあるからです(もちろん、法定必要記載事項を満たしたソフトもあります)。
労働基準監督官による臨検(立ち入り調査)に際し、提出を求められる賃金台帳とは、法定必要記載事項を満たした労働基準法上の賃金台帳のことです。
労働基準法上の賃金台帳は作成義務がある!
経営者の皆様は
1.各事業場ごとに
⇒本社(本部)でまとめて作成し、一括管理するのも問題ありませんが、各事業場にその写し(最新版)を保管しておく必要があります。
2.そこで働く全ての従業員について
⇒施設系であれば、常勤、準常勤、非常勤など契約形態に関係なく、また訪問系であれば、登録ヘルパーさんも対象ですよ。
3.賃金台帳を作成し
4.法定必要記載事項を
⇒下記を参照。
5.賃金の支払いの都度
⇒通常、給料日は月1回ですから、その時に。
6.遅滞なく
⇒“遅滞なく”法律的には・・・と細かいことを言ってもあまり意味ありませんから、“忘れないうちに”と理解してもらえれば、OKです。
7.記入しなければならない
⇒作成は義務です。違反した場合は、罰金の対象ですよ。
と定められています(労働基準法第108条)。
法定必要記載事項って、具体的には何?
1.氏名
⇒氏名は基本。他の人の給料データで計算したら、大変だからね!
2.性別
⇒「薫」、「忍」「真澄」など中性?のお名前の方もいるし、最近ではそもそも当て字の名前が多くて、漢字を見ただけでは男性なのか、女性なのか判然としない方が多いね。
3.賃金計算期間
⇒会社によって、締め日は違うけど、「15日締めの25日払い」って、よく聞くでしょ。この場合だと、「前月16日から当月15日まで」という期間が賃金計算期間だね。
4.労働日数
⇒正社員(常勤)ならば、月によって違うけど20~22日かな。
5.労働時間数
⇒総労働時間数を記載します。
6.時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数
⇒俗にいう残業時間のことだけど、給料計算の際は割増率が違うからチャンと分けて記載しないとダメですよ。
7.基本給、その他の諸手当の種類ごとにその額
⇒通常は、基本給はもちろんのこと、通勤手当などの諸手当を種類ごと、そしてその額を記載します。レアなケースですが、怪しい手当?、例えば、お手盛り手当もあればお忘れなく。
8.賃金(給料)の一部を控除した場合には、その額
⇒健康保険料などの社会保険料、所得税など給料から天引きされるものの額を記載します。
介護事業所での注意点
1.年末調整の帳票や給与明細書の写しは賃金台帳の代わりになりません!
介護事業所に限ったことではないのですが、賃金台帳を勘違いされている経営者の方が多数いらっしゃるのも事実です。
例えば、上記の法定必要記載事項を満たしていないパソコン・ソフト上の賃金台帳や税理士さんが作成する年末調整の帳票を賃金台帳と勘違いされている経営者の方もいらっしゃいます。さらには、給与明細書の写しを賃金台帳と解釈されている方もいらっしゃいました。給与明細書は総支給額や支給控除の内訳、勤怠状況などを記載し従業員に交付するものですから、賃金台帳にはなりません。
繰り返し書きます。賃金台帳とは、労働基準法上の法定必要記載事項を満たしたものだけです。
2.労働時間の記載がない
労働時間の記載がされていないと、厚生年金、健康保険、雇用保険への加入義務があるのに加入させていない従業員(施設系であれば準常勤、訪問系であれば登録ヘルパー)のチェックすることができませんね。
3.残業時間の記載がない
残業が多い介護業界。給料計算はパソコンでやっているが、日々の残業時間の管理は紙ベース。給料計算の際、集計して、紙ベースのデータをパソコンに入力するという介護事業所が多くあります。残業時間の記載がないのは、危険!労働基準監督官は、残業時間に対して、割増賃金が適法に支払われているかをチェックします。
例えば、正確な残業時間の記載があれば、残業代請求問題が発生しても直接的な証拠となるので、非常に重要な記載と認識しましょう。
今一度、賃金台帳をご確認ください!
給料は働く従業員にとって大切なものです。賃金台帳には、毎月の給料が計算される基本データが管理されているため、経営者にとっても大切なものです。
賃金台帳は、労働基準監督官の臨検があった場合には、必ずチェックの対象となるものです。また従業員と給料についてトラブルが発生してしまった場合にも役立ちますよ。
このブログを一読後、賃金台帳の重要性を再認識し、御社の賃金台帳をご確認する機会になれば幸いです!