さて週末はAWですね。出品関連という訳でもなかったのですが、以前に落札したヘレニズム時代の大型銀貨の一つ。ペルガモン王国で流通したキストフォルス銀貨を紹介してみましょう。
イオニア エフェソス 紀元前180/164-133年
キストフォルス銀貨
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以前にポンペイ展の記事で少し触れましたが、名前の由来として表面に描かれたディオニュソスの秘儀の聖具箱(キステ)から蛇が出ている場面をリースで囲んだ図柄。
キストフォルス銀貨は同時代に大規模に流通したアッティカ重量基準のテトラドラクマ銀貨より少し軽い約12gとしてローマのデナリウス銀貨3枚分の価値とされたそうです。
もともとペルガモン王国でもアッティカ基準のテトラドラクマ銀貨を作っていたのですが、前200年頃からキストフォルス銀貨の製造を始め、おそらくプトレマイオス朝の独自重量の貨幣と同じように独自の貨幣経済圏を作る目的だったのではとも言われるそうです。
アンティオコス3世に勝利したアパメイアの和約後、紀元前188年頃のペルガモン王国。
発行した都市エフェソスはペルガモン王国の外港として栄え、現代も大規模な図書館の遺跡が残るイオニア地方の重要都市。
キストフォルスが流通したアナトリア半島西岸のペルガモン王国の都市としてNGCでは、今回のエフェソスと共にサルディスやトラレス表記ラベルのキストフォルスタイプの銀貨を見掛けますね。
裏面は矢筒に絡み合う2匹の蛇。
ちなみに右側にはエフェソスのミントマーク的に女神アルテミスが彫られています。エフェソスはアルテミス信仰が盛んで世界の七不思議の一つであるアルテミス神殿があった都市でもあります。
当時のペルガモン王国は前回紹介したセレウコス朝のアンティオコス3世をローマと共に破ったことにより、アナトリア半島西岸の大部分を領土として最大規模に達した全盛期。羊皮紙の語源であるペルガモンが示すように交易による富で潤った豊かな国として繁栄しました。
豊かな国を象徴するように、かつてのリュシマコスの銀貨でもペルガモンミントは出来が素晴らしく古代コイン収集家の憧れの一つですね。
と言う事で名品の流れを汲んだペルガモン王国のキストフォルス銀貨にも興味があって入手してみたのでした。
その後の歴史として、ペルガモン王国は最後の王アッタロス3世の遺言によりローマに遺贈され、属州アジアとしてローマ領となり消滅しましたが、この地の貨幣制度は存続し、その後も共和政から帝政の五賢帝時代辺りまでのローマ統治下でもキストフォルス貨は作られ続ける事になります。
エフェソスのセルシウス図書館の遺跡
ではこんな所で。




