今回はローマ最後の異教皇帝にして背教者と呼ばれる方のコインの話。

 

帝政ローマ 360-363年 ユリアヌス帝

2マイオリナ銅貨

NGC Ch AU smoothing

 

背教者の呼び名はコンスタンティヌス帝の公認から拡大の続くキリスト教優遇を改め、ギリシアの神々等の多神教復興を行おうとした事からそう呼ばれるそうです。

ちなみにユリアヌス帝は2世と呼ばれる事もありますが、1世のユリアヌスの方とは縁も縁もございませぬ。帝政中期に競売で短期間皇帝になっていた変な人ですね。

 

単位のマイオリナは、センテニオナリスとも呼ばれる前回紹介のAE3タイプよりも少し大きなAE2タイプの銅貨。

センテニオナリスは後の研究で当時はマイオリナと呼ばれていたのでは?という事で、その銅貨2枚分の価値である大型銅貨は2マイオリナになるのですね(こちらはAE1タイプ。)

まあ、この時代の貨幣単位は名称が錯綜してややこしいですし、NGCのラベルもセンテニオナリスで書かれてたりしますし、大雑把に把握していればいいのではないでしょか(ぶっちゃけ全部銅貨という事でフォリスでもいいですし。)

 

大帝死後の3分担統治時の帝国。

コンスタンティヌス帝の死後、4頭政を否定した皇帝ですが、広大な帝国は担当区域を分担統治する形で引き継がせます。

 

最初は実子3人と大帝の甥の2人、5人で始める予定だった統治は、実子3人以外を粛清するという血を流す行為で3分担となり、ユリアヌス帝は甥の一族の生き残りとして兄ガルスと共に幽閉生活を強いられる事になります。

しかし、実子達による統治も兄弟間の争と簒奪皇帝の反乱で2人が死亡。東方のコンスタンティウス2世のみとなり、西方の領土は簒奪皇帝に奪われるという状態に。

 

ここに来て2人の遺児にも白羽の矢が立ち、兄ガルスは東方の統治を任されましたが、政治上の失敗で粛清。

兄の死後、ユリアヌス帝は副帝として反乱鎮圧後に異民族の流入により混乱する西方ガリア(現フランス)の統治に少数の兵のみで向かわされます。

多神教の復興を目指したようにギリシア文化や哲学関係に興味があり、軍事上の才能など期待するだけ無駄と誰もが思うような中での意外というか、数度の戦いと会戦に勝利してガリアの安定化に成功します。哲学者でもやれば出来るんだよといった所ですね。

 

その後、コンスタンティウス2世による東方への兵力引き抜きに端を発した反乱により、正帝へと担ぎ上げられたユリアヌス帝はやむを得ず東方へと兵を進めますが、コンスタンティウス2世の死により無血でコンスタンティノープルへ入城し正帝となります。

 

裏面は二つの星と牡牛の図柄。発行は現代のクロアチアにある都市シスキア。

 

諸説ありますがユリアヌス帝の生まれた牡牛座とも、ミトラ教の犠牲の牡牛とも言われており、異教的な謎多き図柄。

 

さて、運命のいたずらか、思いもかけずに正帝になったユリアヌス帝ですが、ここから皇帝としての活躍として、多神教復興のためにキリスト教優遇政策の撤回や、大幅に膨れていた帝国の財政の健全化にも手を付け精力的に政策を打ち出します。

反発も多い困難な改革だったようで、皇帝自身もグチみたいな文学作品を残していたりして政務の苦労が伺えますね。

 

しかし、改革に手を付けたのもつかの間、慢性的な衝突の続くササン朝への対応として、帝政ローマとしては最後に当たる大規模な東方遠征が行われる事になります。

遠征は首都クテシフォンの目前まで迫るも、攻め落とす事は出来ず撤退となり、その撤退中の追撃戦で命を落とし、コンスタンティヌス朝の断絶と共に多神教復興の夢もあえなく潰える事となります。

 

評価として、時代錯誤な宗教政策や偽善者的と言われたり、遠征の失敗による東方領土の割譲など批判的な意見もされてしまう方ですが、ギリシアコイン好きの私としては同じようにギリシアを愛した皇帝は親近感を感じるのですよね。

 

さらに、辻邦生氏の「背教者ユリアヌス」を読んですっかりユリアヌス帝のファンになってしまいました。分厚い3巻本ですが、歴史好きの方なら読みやすくてそれ程苦にはならないと思います。最後の巻は徹夜して一晩で読んでしまいました(ちょっと勿体なかったかも。)

 

という事で、ぜひ彼のコインを入手したかったのですが、最初に挑戦した銀メッキタイプのマイオリナは敗退。第2候補のこちらを入手となりました。

 

肖像の首の部分の傷が本当に残念で入手もかなり悩んだものの、その他の部分は銅貨としてはかなり良い状態だと思います。図柄の出来自体も素晴らしくて哲学者的なお髭を生やした皇帝の顔が良く表現されているのではないでしょうか。

 

フランス、クリュニー美術館のユリアヌス帝とされる像。

 

最近はどうもこの像はユリアヌス帝ではないという事になっているみたいですが、もう私からすると皇帝のビジュアルはこれで固まってしまっています。

 

この像が「私どうもユリアヌスじゃなかったみたい…。」とか言い出したら、いえいえ黙っていればバレません!あなたはユリアヌス帝ですもっと自信持ってください!とか言ってしまいそうな感じ。

 

あまり長文になるとまずいのでここら辺で次回にしましょう。

ではこんな所で。