さて、せっかくの休みなので何かしないと、という事で父の蔵書の整理と引き取りをしていました。

前に昆虫関係の本は引き取り済みでしたが、残りの本は今度ねと言っていたらいよいよ処分されそうになって来ちゃいまして、持って行く本の選定をする事に。

 

父はかなり読書家だったので壁一面の蔵書の山なのですが、とても全部は無理なのでこれと思った物をいくつか抜き取り。

うーん、マルクスの資本論なんて今持って行かないと一生読む機会なんて無さそうだけど…。あっ、マキアヴェッリの君主論は読めそうだから持って行こう!といった感じで本棚をひっくり返しておりました。

 

で、持ってきた本の中でちょっとコインに関係ありそうな話を一つ。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの「ボルヘス怪奇譚集」という、東西の古代から近代までの不思議な物語や伝説を集めた本です。

幽霊物語や人喰い鬼の伝説といった、どれも1、2ページの”短くて途方もない話”の集合の中で、「アレクサンドロス大王の神話」という話があります。

内容は1ページに満たないくらい短い、他の本の一節から引用した話のようですが、ロバート・グレイヴズという方の詩が元のようです。

 

アレクサンドロス大王がバビロンで死なず、アジアの地で迷う夢の話として、そこで出会った軍隊に加わり、報酬として受け取った金貨の肖像を見て、「これは私がアレクサンドロスだった時にダリウスを破った記念に作らせたものだ。」という所で終わる短いお話です。

 

そもそも何で大王死んでないの!?とか疑問もありますが、これも古代から近代まで沢山作られた”アレクサンドロスロマンス”の一つなのかもしれません。

 

この話を読んで私が印象的だったのは報酬として受け取る金貨なのですが、自身の肖像というのですから、これは以前に紹介したスタテル金貨の事?

肖像のデザインとしては女神アテナなのですが、後期に打ち出された物は男性的な表情になり、大王自身の顔ではないかと言われているそうですので、私はこれが一番しっくり来ますね。

 

「100 Greatest Ancient Coins」から、ヒュダスペス河の戦いの勝利の記念貨とされるデカドラクマ銀貨。

 

しかし、記念貨となると有名なのは上の画像のデカドラクマ銀貨もありますし、特定の会戦を記念した金貨も無いとは言い切れない気もしますので、真相は詩人に聞いてみないとですね。

 

初めてこの本を読んだのはまだ子供の頃で、風邪をひいて寝ていて暇な時に父の本棚から見つけて読んだのが最初なのですが、以来ずっと頭の隅に残っていた印象的な話でした。

当時はまさか自分がアレクサンドロスの金貨を手にするとは夢にも思っていませんでしたが、この話を読んだ事によって世界のどこかにあった金貨がピクリと動き、以来ジリジリと数十年掛けて自分の方へ近寄ってきて、ある日ピタリと自分の手に入って来たと書くと、なんだかボルヘスの話みたいな気がしてきますね。

 

しばらくこの本どこに行ったのかと思っていたのですが、ちゃんと父の本棚に戻っておりましたので、ちょっと懐かしい気持ちになりながら連休中に読んでいたのでした。

 

ではこんな所で。