さて行きますよ古代の金貨!

 

マケドニア王国 紀元前336-323年

アレクサンドロス大王

スタテル金貨

死後セレウコス発行

Ch AU Strike5/5 Surface4/5 Fine Style

 

古代コインに興味ある方ならアレクサンドロス大王の金貨に一度は惹かれると思いますが、私も例外なくなのです。

しかし高い!かつての裸コインの相場はもう少し安かったとは思いますが、スラブ入りだとCh AU以上で特記評価も付くとなると100万超えてしまう物も少なくありません。こりゃしばらく無理かなと思っていた所で何とか納得できる物を見つけての入手となりました。

 

いや、もう説明よりも物を見て頂ければですが、Fine Style評価の中でもここまで細部の打ち出しが綺麗な物は少ないのではないでしょうか。

図柄の潰れや平金の付着もありませんし、おそらく極印の摩耗が少ない内に打ち出された物なのかなと思います。

 

コリント式兜を被ったアテナの肖像はほぼ完璧で文句無しですね。結構兜の蛇の装飾やネックレスが潰れたり摩耗している物が多いのですよね。

 

さて、大王の説明は流石に不要かとは思いますが、有名な東方遠征の資金面の話でも書いてみましょうか。

フィリッポス2世の死後、父親と同じようにギリシア同盟軍の最高司令官となった大王は、北方蛮族の討伐やギリシア都市の反乱などを抑えた後にいよいよアケメネス朝ペルシアへの遠征に取り掛かりますが、資金面はかなり苦しい物だったようです。

 

当時マケドニアの国庫にあった予算は60タラントに500タラントの借金。さらに800タラント借りる事で準備した遠征軍は、エーゲ海東側沿岸の都市の解放も目的でしたが、海軍の主力である三段櫂軍船を1隻建造するのに2タラントは必要との事で、軍船はギリシア同盟都市からの供出頼りだったようです。(ギリシア同盟のアテネは、前330年頃には海軍の再建が進んで300隻近く保有していたそうですが、結局20隻しか送らなかったそうです。ケチですね。)

心もとない資金面にやる気があんまり無い同盟軍と、ペルシア側も王家の内紛から王になったばかりのダレイオス3世が率いている時期ではありましたが、ギリシア側も無謀と断じられてもしょうがない中で断行した遠征と言うのが実情のようですね。実際、生前にフィリッポスが送った先発の部隊はペルシアに押し返されて大王待ちの状態だったようです。

 

大王の東方遠征路。かなり端折っていますので広大さだけでも分って頂ければ(バクトリアからソグディアナはもう無茶苦茶で描けません!)

 

しかし、そこからは流石大王!初戦のグラニコス川の戦いに勝利した後は、沿岸のギリシア都市を次々と解放。イッソスの会戦とエジプト解放後のガウガメラの会戦でダレイオス率いるペルシア軍に勝利した大王は、最終的に180,000タラントにもなる財宝を獲得。これでようやく遠征軍の財源難は解消されました。

獲得したダリック金貨や財宝はギリシア同盟軍や傭兵への報酬として、今回紹介のマケドニアのスタテル金貨へと打ち直され大量に流通する事になるのでした。(1タラントは6,000ドラクマなので、大王の遠征からヘレニズム時代の貨幣鋳造量が大規模だったのが分かりますね。)

 

ギリシア同盟自体は敗戦で逃亡していたダレイオスが内紛で殺された後に解散となりましたが、その後もマケドニア軍や傭兵としてのギリシア兵達はバクトリア、インドへと遠征を続け、ヒダスペス川の戦いの後に従軍拒否により反転。

インダス川を下りアラビア海とゲドロシア砂漠を通りスーザへと帰還しますが、その後に大王は早々とバビロンで死去してしまい大王の征服行は終わりを迎えます。

 

コインの話に戻りまして、今回の物は上でも書いたように、遠征も終わって大王がバビロンで没した後に将軍の一人であったセレウコスが発行した物となります。

 

大王の死後からディアドコイ戦争を経て、ヘレニズム王国が確立するまでの間、後継将軍達が大王が発行した図柄でコインの発行を続けるのですが、これもその一つ。アレクサンドロス金貨としては、大王が残した統一されたマケドニア王国を維持する最後の時代に発行された物になりますね。

この後、後継者たちは王を名乗り自らの肖像で金貨の発行を始め、アレクサンドロスの金貨は発行を終える事になります。

大王の銀貨の方は結構後の時代まで同じ図柄を使って発行を行った地方もあるのですが、金貨の方は前2世紀を迎える前には作られなくなったそうです。

 

ちなみに、NGCのラベルではセレウコスの表記はありますが、他の後継者達、リュシマコスやカッサンドロスとかの発行はラベル表記は無かったかと思います。細かい発行地や発行者はカタログ頼りですかね。

カタログと言うとセレウコス発行のリースのモノグラム刻印は全部バビロン鋳だと思っていたのですが、今回の金貨の出品者の方はアンフィポリス発行で出していて、はて?といった感じです。物は良いのでまあいいかなと思いつつ、一応調べてみたのですが、私はMartin Price出版の古いカタログしか持ってないので良く分かりませんでした。

 

裏面のリースを掲げた勝利の女神ニケ。左手に持つのはスタイリスと呼ばれる船の帆柱を模した勝利の象徴のような物だそうです。

こちらも図柄の出来はかなり良いと思います。

大きさはドラクマ銀貨と同じに1円玉サイズですが、彫刻の緻密さは素晴らしいです。拡大するとまさにギリシア彫刻の世界ですね。

 

本当は生前発行や特記評価が無くてもMSグレードや満点評価をとも考えていたのですが、この出来の良さはちょっと見逃しが出来ずに思い切っての入手となりました。まあ機会を待ってもこれより良い状態の物は望めないかもしれませんし、この金貨が私の所に来る運命だったのでしょうね。

 

これ以上古代の金貨の追加は予算的にはだいぶ苦しいのですが、もし入手するとしたら古代ローマのアウレウス金貨なんかも良いですね。

 

ではこんな所で。