古代ギリシアのコインといえば、ゼウスやペガサスといった特定の神々や動物の図柄が多いですが、ギリシア神話のエピソードを図柄にしたコインもあります。
パエオニア王国 BC 359/6-335
テトラドラクマ銀貨
Ch AU Strike5/5 Surface5/5
息子を殺してしまった罪をあがなうため、ヘラクレスが行う十二の功業の1つであるネメアの獅子退治は人気なエピソードのようで、ローマ時代のコインにも使われている図柄です。
今回のコインはマケドニアの近くのパエオニア王国という所で発行されたテトラドラクマ銀貨です。
脳筋パワー全開の図柄ですね。
まー、いきなりライオンさんは死にかけですが獅子退治なのでしょうがないですね。
ネメアの獅子は刃物を通さない強靭な毛皮なのでヘラクレスは武器を捨てて絞め殺して退治したそうです。コインにもヘラクレスのお尻のあたりに手放した矢筒があるのですが、打刻しきれずに一部だけです。それでもバランス良く図柄が打ち出されているのでStrike5/5評価なのですかね。
ヘラクレスといえばライオンの皮を被った姿ですが、このネメアの獅子の皮なのですね。
さて、この獅子退治は裏面の図柄なのですが、ヘラクレスとライオンの図柄に一目惚れしまして、裏面メインで購入を決めました。表面はゼウスの図柄なのですがこちらは頬のあたりに傷があって、テストカットではないようですがちょっと気になってしまう傷なのです。
表面のちょっと痩せ気味のゼウスさん。
しかし、裏面の図柄の打刻の良さとデザインの素晴らしさはまさにギリシア神話!といった感じで気に入っています。余裕があればNGCに裏面をメインにスラブの表側に入れ替えをお願いしてみたいですね。
そんなこんなで我が家に来たこのコインですが、発行地のパエオニアは全く知らない所でした。パイオニア?なにそれNASAの宇宙探査機?
調べてみるとマケドニア王国の上のギリシア世界からは辺境の辺りにある、アレクサンドロス大王以前のマケドニアの混乱期に独立した王国だそうです。アレクサンドロス大王の東征記なんかを読んでみるとパエオニア人部隊の記述が出てくるので大王の東征にも参加していたようです。
何人かの王が続いた後、大王死後のマケドニアに再併合されてしまったそうで、今回のコインはリュケイオス王の時代に発行された物です。ギリシア世界からは端っこの王国ですがこんな見事なコインを作っていたのですね。
ちなみにテトラドラクマ銀貨ですがアッティカ基準の17.2gではなく、13.13gでした。古いマケドニア周辺の独自重量基準なのかな?
最後は古代世界のライオンの話を。
古代のギリシアやローマ、オリエント世界は王権の象徴や美術に力強いライオンをデザインしていますが現在はこの地域にはライオンはいませんね。
ライオンといえばアフリカのライオンですが、ちょっと詳しい人はインドライオンやバーバリライオンなんかも知っていると思いますが、古代ギリシア地域にいたライオンはヨーロッパライオン(亜種の分類はいくつか説がありますが)という絶滅種だそうです。
かつてはアフリカからインドまで途切れることなく生息していたのですが、ペルシアの壁画やローマの闘技場の出し物の記述のように、ライオン狩りは各地で行われ文明の古い地域は例外なくといった感じで絶滅してしまっています。
古代コインのライオンのデザインは素晴らしいですが、生きている姿を見る事が出来ればもっと素晴らしかったのにと思います。現代の環境問題は文明が続く限り解決できない問題だとも思ったりもしますが、古代の美術や映像の記録としてしか見る事が出来ない未来は御免こうむりたいものです。
今回はこんな所で。




