朝食を食べ終わった私は早めに家を出た。
今度は男の悲しくて奇怪な人生を描いた小説を持って行った。
ある朝目覚めると、巨大な毒虫になっていたあの男。
林檎を投げつけられるような、醜い姿。
学校で読む気はないが、持っていく。
いつも一冊は本を持ち歩くのが、もう癖になっている。
歩きながら本を開く。
やはり、読まない。
読むのは手紙。
「あなたは、何を望むの?」
分からない。
「ねぇ、**。あなたは、なんて名前だったっけ…」
道端の樹からもれるあたたかな春の日差しが頬を撫でる。
幼かった頃の思い出が蘇った。
「あのときも一緒に走ったよね…?」
「誰と?」
「君と」
「いつ?」
「小さかった頃」
「そうかな」
「そうだよ」
「忘れたの?」
「忘れてないよ」
「そうだよね」
「うん」
「でさ」
「「君は誰?」」
……あれ?
私は何をしていたっけ。
…あぁ、学校へ行くのだった。
ボケっとしていてはだめね。
今、とても懐かしい着物姿の男の子がいた気がするけど。
きっと気のせいね。
あぁ、もう学校に行くのは嫌。
勉強なんてやりたくないわ。
「で、君は誰?」
「私は私」
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