不味いと分かってても生活の為に提供しなきゃいけない。
当時いらっしゃったお客様に懺悔すると共に、経営者人生の中で最も辛い期間でした。
ラーメンで肝なのはスープですが、それが全く美味しくない。
具体的に言うと、くどく甘ったるいスープ。
それは分かっているのですが、何をどうしたら美味しくなるのか?さっぱり分からないのです。
日に日に減る売上。残されるラーメン。
2人連れのサラリーマンのお客様は、上司と思われる方が半分も食べないうちに店を出て、部下と思われる若い方が帰り際
「すみません。うちの上司はラーメンにこだわりがあって・・・」
当時の経験と知識を全て込めたラーメンが、こだわりが無いと思われている。
こうした出来事が続き、メンタルがやられて行きました。
お金はドンドン減り、いよいよ従業員も解雇しないといけない・・・・
「死んだ方が楽かな」
そう思いました。
今思うと、本気で死のうと思った訳では無いのですが、目の前の事から逃げたかったのでしょう。
人生でたった一度、こんな事を考えるほどに追い詰められていたのです。
こうして3か月間、暗黒の日が続きます。
そんなある日。
いつもの様、厨房に立ちスープの仕上げをしていました。
スープには臭み消しとして、麻袋に野菜類を入れていました。
ネギの青首、しょうが、にんにく、玉ねぎetc
何故なら、どのレシピを見ても豚骨スープには臭み消しの野菜を入れていたからです。
いつもなら、麻袋の野菜はスープが仕上がると取り出して捨てていたのですが、何故かその日は麻袋が気になってスープから取り出しじっと見つめていました。
そして
「舐めてみよう」
そう思い、麻袋から滴り落ちるスープをレンゲに溜め、口に運んだのです。
「甘っ!」
原因は野菜でした!
良かれと思って入れていた野菜類が、スープのくどさと甘さの元だったのです!
そして翌日、思い切って臭み消しの野菜を入れず、豚骨だけでスープを炊いてみました。
「ウマイ!」
スッキリしてコクがある、小川の塩豚骨が完成した瞬間です!
こうして暗くて長いトンネルをようやく抜ける事ができました。
そして
地まで落ちた売上を挽回するぞ!
湿り切った気持ちにようやく火が灯り、反撃の準備を始めたのです。
