海鳴り 山本幡男
耳を澄まして聴くと海鳴りの音がする
ろんろんと高鳴る風の響き
亦(また)波の音
赤ん坊のときからその声で目を覚まし
物心ついてからもその音に脅えた
海鳴りの響きだ!
闇を叫ぶ声だ!
日本海から千粁 (キロ)も離れた
シベリアの曠野の真只中で
深夜ーー
私は遠い遠い海鳴りの音を聴く
窓打つ木枯よりも淋しく
亦懐かしいその響き!
海鳴りの夜の囲炉裏は楽しい
自在鉤の鍋には
烏賊と大根がふつふつと煮え
硝子瓶の二合の酒は火を透いて赤く
一家眷族より集まつては啜り泣きまた笑ひ
幼い子供達には焼餅を配り
大人達はゆるゆると酒を飲み煙草を喫ひ
ふと話の途切れたときの淋しさを
海鳴りはろんろんと障子に響いて来る
母の乳房を思ふ存分吸って見度い 海鳴りの音
友の手を力一ぱい握つて見度い 海鳴りの音
恋人の胸をかつしりと抱いて見度い 海鳴りの音
胸に溢れる慷慨をありつたけ吐いて見度い 海鳴りの音
嗚呼 寒夜の病床に独り目を覚まして
私は ろんろんたる海鳴りの声を聴いてゐる
遠く追憶を噛みしめてゐる……
耳を澄まして聴くと海鳴りの音がする
ろんろんと高鳴る風の響き
亦(また)波の音
赤ん坊のときからその声で目を覚まし
物心ついてからもその音に脅えた
海鳴りの響きだ!
闇を叫ぶ声だ!
日本海から千粁 (キロ)も離れた
シベリアの曠野の真只中で
深夜ーー
私は遠い遠い海鳴りの音を聴く
窓打つ木枯よりも淋しく
亦懐かしいその響き!
海鳴りの夜の囲炉裏は楽しい
自在鉤の鍋には
烏賊と大根がふつふつと煮え
硝子瓶の二合の酒は火を透いて赤く
一家眷族より集まつては啜り泣きまた笑ひ
幼い子供達には焼餅を配り
大人達はゆるゆると酒を飲み煙草を喫ひ
ふと話の途切れたときの淋しさを
海鳴りはろんろんと障子に響いて来る
母の乳房を思ふ存分吸って見度い 海鳴りの音
友の手を力一ぱい握つて見度い 海鳴りの音
恋人の胸をかつしりと抱いて見度い 海鳴りの音
胸に溢れる慷慨をありつたけ吐いて見度い 海鳴りの音
嗚呼 寒夜の病床に独り目を覚まして
私は ろんろんたる海鳴りの声を聴いてゐる
遠く追憶を噛みしめてゐる……