せっかくの一年に一度の行事だし、わたしは近所のコンビニに買い物に出かけた。
「太巻き丸かぶり、ありますか?」
レジカウンターのおぼこい感じの女の子に訊いてみた。
「あ、…ハイ。… これですか?」
お店のコーナーの重ねて積まれているパッケージのひとつを手にとって持ってきた。
巻き寿司が2本入っているが、思った以上にかなりの太さだ。
「う~~ん。… これだと、口に入らないと思うんだな。
そのまま、まるまるかぶらないといけないわけだけど、とてもじゃないけど入らない。
…… 入らないでしょ? あなただって。」
「え?」
「こんなすごい恵方巻き。」
「そ… そうですね。」
「中細巻きとかないんですか?」
「え~~と。…
」まだ入店して日が浅いようである。
店の商品棚やバックヤードをひと通り点検したあと、
「すみません。これだけみたいです。」
「あ、いいですよ。仕方がない。
でも、こんなのそのまま丸かぶりは出来ないよね。 アゴがはずれちゃう。」
「…そ、…そうですね。」
女の子、視線を宙に泳がせる。
「こんなのをそのままなんて。」
「……そ、そうですよね…」
「女性の方たちだって、縁起かつぎで恵方巻きを口に入れるわけだし、もうちょっと小さな口に合わせて適度な大きさの恵方巻きを製作してもらわないと、こんなのじゃ苦しいばかりで。」
「……。」
「あ、…それと豆まきの豆が要るんだ。」
見ると、鬼の面のついた小さな袋が小さな台の上に積まれている。
「これ、大豆かな?」
「あ、…そうです!」
女の子の顔が急に晴れやかになった。
「この豆って固いよね。
年齢の数だけ豆を食べたらいいって言い伝えられてるけど、すごく固くて…。
もっと柔らかい豆も売ってたらいいのにね。」
「や…柔らかい豆はないんですけど。」
「そうだよね。まあ、こんな消化の悪そうな固い炒り大豆でも、口の中の唾液でずっと転がしておけば段々と柔らかくなるかも知れない。」
「…そうです…ね。」
「すごく時間がかかるものなんだろうけど。」
「…ええ。…
あッ! ゆであずきだったらあったと思います。缶詰めの。
」「ああ…。
あの、赤くて甘くて柔らかい豆?」
「ハイ。赤くて甘くて小さい小豆(あずき)…… 」
「でもとにかく今日はあずきじゃなくて、大豆の方をひと袋ください。」
「ハ、ハイ…。
」女の子、レジを出てコーナーの大豆の袋をひとつ取ろうとしたが、
「あッ!」
手つきが定まってはおらず、床に落とした。
「す、すみません!」
「別にいいですよ、その袋で。それ買います。
…… そんな事よりも、これッ!」
わたしは「鬼の面付き大豆の袋」が重なって置かれているその台から垂れ下がっている
「今日は節分の日
」という紙を、まっすぐに指差した。
その漢字にはかなが振られており、
「きょうはせつぷんのひ
」とある。
「ああッッ!
」女の子が両手で口を押さえ、飛び上がらんばかりに驚いて眼を見開いた。
「そうか…… 今日はせつぷんの日なのか。」
「ちがいますッ! ちがいますッ! わたしの書き間違いですッ!

」女の子、顔を真っ赤にしながら、修正テープかマジックインクでも捜すのか、急いでレジカウンターの引き出しをあけて、手でガサガサとさせる。
「別にいいんじゃないかな、これで。
節分の日とかよりもせつぷんの日の方が。
その方がみんなにとって… 」
「だめですウウッ!
」