高層ビルの屋上に立っていた。
見ているのは灰色の空とその下の鉛色の都市の景観だ。
同じ色をした空と街並み。
人の姿がない。
誰ひとりいない。
この世に自分ひとりしかいないのか。
いつこの世が終わったのか。
遥か遠くにこちらと同じく細長い高層ビルが建っており、塔屋に赤い光が二つ規則的に明滅しているのが見える。
その向こうの海浜地帯には、高い位置で湾岸高速道路が横に長く延びている。
走る車はまったくない。
一定の間隔を置いて湾岸高速ブリッジの各所でやはり赤い光が明滅している。
どれくらいの時間が経っただろう。
陽が暮れるということがない。
いつまでも灰色のたそがれのままだ。
人々はどこに行ったのか。
都市には動くものは何もない。
ひとりで生きることが生きることと言えるのか。
音がしたので振り返った。
若い女の後ろ姿だった。
長い黒い髪。
幼なじみで仲のよかった理沙にちがいない。
理沙は逃げるように駆けて屋上の塔屋階段室の方に折れ曲がって消えた。
わたしは急いで後を追って階段室の建物入口に踏み込んだ。
薄暗いコンクリートの匂いの中、階段踊り場の床面に血のように見える黒い液体が丸く広がっている。
理沙の姿はもうなかった。