何をやっちゃうかと言うと、地域限定吉野家アイドルだ。
少し歩くか、自転車に乗りさえすればほんとに会うことの出来るアイドルだ。
お客さんが牛丼店に入ってカウンターに坐り注文をしたなら、フォーチュンクッキーみたいなアメリカン模様のコスチュームをまとった女の子が両手で牛丼並のどんぶりを運んできてカウンターの上に置き、
「イエーーイ!
」右手を上に突き上げる。
なにがイエーーイなのかはよく分からないけど、中村繁樹さん、20歳(愛知県出身、電子専門学校生)、どぎまぎと照れ笑いをしながら、自分の右手も少し遠慮がちに「いえい。」とか上にあげるのである。
容器に入った紅しょうがを山ほど入れて、コの字型のカウンターで黙々と牛丼をかっこむ男たち。
そんなお客の入店の流れが途切れた頃合いを見計らって、コの字型カウンター内でスタッフの女の子たち4人の半ば公認アイドルとしての歌と振り付けが始まる。
「♪カチューシャ~~ はずしな~がら~ ♪」
着替えた衣装は清楚系乃木坂長スカート。
お客の男たち、そんなミニステージの方に眼がくぎ付けになっちゃって、噛みしめる甘からい牛肉の味わいなんかもうそっちのけ。
ごはんは喉に詰まっちゃうわ、アイドルを見つめながら小皿の生卵を牛丼に入れようとしてお茶の湯呑みに入れちゃうわ、味噌汁はひっくり返すわ、紅しょうがの容器に付いてるトングを叩いてしまって容器のフタが空中に飛んで行くわで、食べ物の味そっちのけの波乱を含む食事風景が現出する。
お父さんに連れられてやって来てカウンターに坐って見ている、未来のアイドルを夢みる小学校3年生の芽生(めお)ちゃんの眼がハートマーク状態。
かたわらのお父さんの眼もハートマーク
状態。一方、共存共進というわけか、ライバル店「すき家」では、AKB似の本格的アイドル店員たちが、男たちが牛丼のどんぶりを前にしたカウンターの内側において挑発的本音吐露路線の「UZA」の歌と踊りを披露。
口を半分開けて眼がくぎ付けの男たち、醤油を牛丼どんぶりにドボドボ入れてしまったり、容器内の紅しょうがを半分ほどもどんぶりに入れたのに気が付いてあわてて元に戻したり、小皿の生卵をもう一方の小皿の漬物にかけてしまったりと、事態は焦穴を極めるのである。
同じく共存共進の「松屋」は一歩路線を変えて、ユニットに対抗して西野カナ似の女の子を募集してカウンターの中で歌ってもらう「ダーリン
パフォーマンス。」「♪ねぇダーリン… あなたしかいない~~」
もう男たち、朝食は吉野家で鮭定食たべながら
「♪ハートのフォーチュンクッキー、イエイ
」お昼、すき家で牛丼大盛食べながら
「♪ウザッウザッ
」晩は松屋の牛丼特盛食べながら
「♪ねぇダーリン
」日々飽くことなく、吉野家で♪フォーチュン、終わったらすき家に走り♪ウザッ、そんでもって松屋に走り♪ねぇダーリン。
誰がなんと言おうと日々、♪フォーチュンウザウザねぇダーリン。
♪フォーチュンウザウザねぇダーリン!
フォーチュンウザウザあらダーリンッ!(笑)
「♪フォーウザダーリン
フォーウザダーリン。フォーーーッ
」Twitterへのそんな生活の書き込みを人から聞いて知ることとなった故郷のおかあさんが見かねて、
「あんたなんしよっとね、肉ばっか食べてから。」
ひんぱんに葉書を寄越すようになり、
「ちゃんと野菜ばとらなどげんすっとね。」
送られてきた段ボール箱2箱に自家製の無農薬野菜がぎっしり。
でもハピネス・イン・牛丼店にすっかり舞い上がっている男たちは聴く耳を持たず、野菜類は小分けにしてアイドルの女の子たちにプレゼントしちゃって、相変わらず牛丼を食べ繰り返す日々。
顔の色まで牛肉みたいになってきて、ゆくゆくは牛丼店ゆるキャラ「ぎゅうちゃん」にでもなって、お店の前で客寄せするしか手はないぜって。