広い座敷を予約して、長テーブルをずらりと並べてのてっちり鍋飲み会。
「今日はご参集いただきありがとうございます。
皆様の変わりないご声援に深謝して、このような企画の場を持てました事はわたくしとしましても…」
幹事のプロデューサーの言葉も耳に入らぬ様子でファンたちはキョロキョロと落ち着きがない。
いつもよりも可愛く見える自分の推しの女の子と笑みを交わし合うのもいいのだが、他にも魅力的なアイドルメンバーが居並んでおり、眼のやり場に困るといった態である。
他の女の子に長く視線を止め続けるファンの男の目線を、推されている女の子が用心深く眼で追う。
ビールの栓が抜かれ、宴会が進み始める中、ファンたちはやはり型通りに自分の推しメンのお酌に専念する。
そして、自分が食べる分のフグまでもお皿に乗せて推しメンに献上する。
皆がそうするものだから、ネトア人気嬢、桃菜、みれい、有夏の前はたちまちフグで溢れかえってしまった。
「こ、こんなに食べきれないわよ。…」
心やさしいファンたちは、自分は白菜だのえのき茸だのをかじりながら、そんな女の子たちの様子に眼を細めている。
女の子たちは皿のフグをまた鍋に戻す。
だがしばらくするとまた、卓の上が献上されたフグで溢れ返る。
まさに、いったんアイドルを眼の前にすると純情一途に突っ走ってしまう男たちの単純馬鹿の見本が展開されていた。
女の子たちは再びフグを鍋に戻す。
ついに幹事であるプロデューサーが立ち上がり、献上緊縮のおふれを発した。
こうしてようやくファンたちの口にもフグが入るようになっていった。
「はい、めぐちゃん、一杯注ぎましょか。」
「ちょっとお。武ちゃん。さっき、誰を一生懸命見つめてたのよ。」
「誰って、別段…… 別におれは、な、な、なにも…」
「こうなんだから。」
めぐが武ちゃんの脇腹をつねりあげる。
「いててて。」
「あゆちゃん、一杯注ぐよ。」
「りょうちゃん、なんかさっきからM子の方ばかり見てない?」
「え、M子て、だれスか?…」
「こうなんだから。」
あゆがりょうの耳たぶを引っ張る。
「いててて。」
下心と嫉妬と陰謀渦巻く大都会の宴席。
そのうち、皆の視線が座敷の隅の方に吸い寄せられた。
席のいちばん端ではせいたときあるが向かい合ってお酌をし合っていた。
周囲の喧騒とは異なった空気がそこにはあった。
穏やかな微笑み。
差しでがましくはない思いやり。
二人して酒席を共にしているこのひとときをこそ 〃 ひととき 〃 として愉しむ……。
とらわれと乱れのない調和がそこにはあった。
「いい感じじゃない、あの二人。」
「あてられちゃうわよね。あんな風にされると。」
「アッチッチ、アッチッチ。」
ひとりの女の子が興に乗って調子をとり始めた。
「アッチッチ! アッチッチ!」
他の女の子たちも左右の手のひとさし指の先を重ね合わせながら唱和した。
男性陣も調子づいてリズムに乗り、ひとさし指の先を重ねつつ、身体を左右に揺らしながら、みんなで歌い出した。
「アッチッチ♪ アッチッチ♪ アッチッチ♪ アッチッチ♪ アッチッチ♪ アッチッチ♪ アッチッチ♪」
せいたときあるは皆の方を振り向くと、ゆっくり微笑んでみせ、そしてまた二人で向きあった。
みな何となくシラけてしまい、自分がばからしくなってきて、唱和は立ち消えていった。
「タカちゃんたら。」
「ヤスくん!」
「いや、オレ、別に…」
「か、考えすぎだってば!」
「お、おれってば、ゆかちゃんひとすじなんだから!」
またもさぐり合いと束縛と嘘と情熱と陰謀だらけの大都会の宴席の熱気は昂まって行った。
みなの眼はまたも隅の方にいる静かな二人に注がれた。
ただこのひとときの限られた時間を大切に営んでいる両名。
「ヒューヒュー♪」
ひとりの女の子がひやかしの声を発した。
「ヒューヒュー♪」
他の女の子たちもそれに続いた。
建前 → 「祝福」、 本音 → 「なによあんたら。」
とでもいうべき声が飛びかった。
「ヒューヒュー♪」
男性陣も調子づいて唱和し始めた。
「ヒューヒュー♪ ヒューヒュー♪」
建前 →「うらやましいよキミたち。」
本音 → 「ええ加減にせえよお前ら。」
の声の大合唱となった。
せいたはかすかに微笑んだまま、視線は落とし気味にしており、きあるは常に絶やさない微笑みを今は消して、そんなせいたの顔をさきほどからジッと凝視している。
せいたが斜めにかぶっているキャップの帽子をきあるが立ち上がりざまに
右手で払うと、その髪の下からガチャピンとムックのマスコット人形が立ち上がり
「キャキャキャッ!♪
キャキャキャッ!
」きある「やっぱりもう狂ってたんかい!!」