以下、「週刊女性陣」の記事からの抜粋。
「…まったく、突拍子もない企画が持ち上がったものだ。
" 情熱は不可能を可能にする! "
寒中プロポーラー滝行大会!
※注(プロポーラーとは結婚を前提として、女性にプロポーズしたがっている男たちのこと)
女性たちへの情熱の思いを証明せんがため、あえて困難を乗り越えてみせたい…、そう、この際、果敢にも真冬の山中でしぶく滝の中に跳び込んじゃおうという滑稽なバカ野郎男たち。
でも本人たちはやる気まんまん!
番組応募者の中から結構な数の男性が手を挙げた模様。
尚、当日は求婚指名されている女性たちも暖かい服装に身をくるんで観戦、いや、観行し、応援することになっているらしい… 」
2月8日、ここは奈良県、桂城山。
修験道の開祖、役小角(えんのおづぬ)ゆかりの地。
山の中腹には小体ながらもしっかりした滝行場があり、勢いのある水が大きな音を立てながら落ちている。
大阪から数台の大型バンに分乗して山中まで乗りつけ、滝行場で降りた女性たち。
防寒着に防寒ズボン、スノーブーツを履き、頭にはロシア製の帽子をかぶって首に厚いマフラーを巻き、熊の手のような皮の手袋をつける、という完膚なきまでの重装備。
それでも刺すような氷点下の山の寒気にふれて思わず身を縮こませている。
一方、チャレンジャーの男性13人は、寒さに馴れておく事前準備も兼ねて、あえて軽装のまま山のふもとから杖を使いながら徒歩で滝行場まで歩いて行った。
女性たちとテレビ局制作班に遅れること10分あまり。
まるでパイプの煙のように白い息を吐きながら男性陣が到着した。
女性たちがヤッホー♪と楽しげに手を振る。
投光器に照らし出された、これから挑むべき禊(みそぎ)場を前にして、男性たちは一様に蒼ざめて立ちつくす。
想像をはるかに上回ってすごい迫力で落ちてくる滝。
黒い水の中に激しく白いしぶきを上げている。
禊(みそぎ)場は滝の水がたまってある程度の深さの池になっているが、その水も黒い。
氷点下でもあり、水の中に氷の塊がたくさん浮いている。
男たちは眼を見張り、唾を飲んだ。
人生の中で「選択を誤ったな。」という経験は過去に何度かあるが、今回のこれが最大ではないのか。
「死」という言葉が現実味を帯びて立ちはだかる。
恐怖の中においても思考回路だけは別のもののようにめまぐるしく働く。
この状況、自分たちだけであれば大きな問題はない。
だが問題は「女性が見ている」というその一点にある。
有言不実行の男にはなりたくない。
なおかつ無様な姿だけは女性に見せたくはない。
いきおい無理をすることになる。
死。
「バカな人生だったな … おれの人生って。」
男性たちがおのおのその胸中で自嘲的な繰り言を呟くのを尻目に、制作班スタッフたちはテーブルを設置し、カメラをオンにし、投光器の角度を調整する。
事態は着々と進行しており、男性たちは慌てて行(ぎょう)のための白装束の胸元から、与えられた般若心経の巻き物を取り出して懸命にそらんじる。
「1番手、川俣さん、用意は出来ましたか?」
と進行係のスタッフの声。
川俣さん、すでに諦めきったような澄んだ表情で進み出て、腰に細い命綱をスタッフから巻いてもらい、裸足のまま禊場の凍った水に片足を入れた。
すぐに引き抜いて後ずさりをした。
あまりの冷たさに足の甲が真っ赤になっている。
冷たいというよりは痛い。
脳が痺れる。
まさしく凍って固まったかのように佇む川俣さんの背に
「川俣さん、がんばって!」
と、伊本麗子さんから声が飛ぶ。
むしろ残酷な激励だった。
川俣さん、はじかれたようにそのままさっさと歩いてバシャバシャと黒い水の中に。
「おおッ!」とギャラリー全体にどよめきの声が上がる。
川俣さん、腰のあたりまで濡れたあと、すぐにUターンして、熊に追いかけられてでもいる男のように必死の形相で走りながら水をかきわけ、転がるように飛び出してきた。
倒れ込んで丸めた自分の身体を抱くようにして
「… リピタ、リピタ、リピタ、リピタ、リピタリピタ……」
スタッフや女性たちが急いで毛布でくるむ。
2番手、手塚さん。
合掌したまま背筋を伸ばし、少しずつ足を入れていく。
腰まで水につかり、ゆっくりと、しとど落ちる滝の前まで来た。
急に足が滑り、頭からざぶんと水の中に消えた。
「キヒャーーーッ!!」
溺れる者が藁をもつかむの例えそのままにものすごい勢いで水をかき分け飛び出てきて倒れ込み
「 ウカカカカカカカカカ…… 」
あごがカスタネットのように激しく上下している。
「手塚さんッ。」
心配した稲村美羽さんが駆け寄る。
3番手、沢村さん。
口を固く結び、眼をまんまると見ひらいたまま、水の中を進んで行き、落ちてくる滝までたどり着き、背中から轟流の中に入った。
「ハンニャーハーラーミッター! ハンニャーハンニャーミッター! ハンニャーハンニャーハンニャー、ハンタータッターラッター……」
およそ経にならない言葉で怒鳴りつけるように声を出す。
「タッター! タッター!タッター!… 」
「すごい。1分経ったぞ!」
と計測スタッフ。
途端に沢村さんの声が聞こえてこなくなった。
黙って立ったまま、滝に打たれているだけだ。
「まずい。」
あわてたスタッフたち、一斉にその腰に巻かれた命綱を陸から引っ張り始めた。
「急げ!」
ゆっくり浮遊物のように漂いながら氷水の中を陸に引き寄せられる沢村さん。
急に我に返ったのか、突如すごい勢いではね起き、何を考えたのかさらに背後の滝に向かって背中から逆ジャンプを試みた。
「うわッ!」
それに引っ張り込まれたスタッフたち、一斉に水の中に倒れ込んでしぶきを上げ、
「ピキーーーーッ!!」
カエルのように跳び上がって、われ先に争うように陸の方へ。
「はっ、早く焚き火をたいてくれッ!」
別のスタッフたちが大急ぎで枯れ木を集めてきて火をつける。
4番手、せいた氏。
慎重な足どりでゆっくりと凍った水に入ってゆく。
スムーズに腰までつかり、やがて両方の肩までつかって、静かに両手で顔を洗う。
「おいおい、銭湯じゃないんだぜ。」
驚きを隠せないスタッフ。
やがて滝の前まで来ると水しぶきに両手を入れてまた顔を洗っている。
「神経ないのか、あの男。」
せいたは持っていた日本手ぬぐいを頭からかぶり田吾作のようにあごの下で結ぶと滝に打たれ始めた。
半目に瞑目しており、何やらぶつぶつ呟いている。
4分が経過した。
「おい、いつまでやってんだ。大丈夫なのか?… 」
すると、無様な姿を展開したと悔やんでいた1番手の川俣さんが突然いきり立って、いきなり禊場に走り出した。
ジャンプして再度氷水の中に跳び込む。
「誰かとめろ! あぶない。」
「川俣さん!」と伊本麗子が叫ぶ。
川俣さんは唸りながら腰まで水につかったものの、バランスを失って全身が水の中に倒れ込み、ゴボゴボと音を立てて死に物狂いで浮かび上がると、
「ギャラパス!!」
水をかき分けかき分け陸に逃げ帰って来て倒れ込み
「リピタリピタリピタリピタリピタ
…」2番手、手塚さんも興奮してきて、リベンジとばかり、再度禊場に向かって走り出したがそそっかしく転んでしまい、膝を強打してその膝をかかえ込む。
「手塚さんッ!」と稲村美羽。
スタッフが細長い棒をつなぎ合わせてその先端にマイクを結びつけて、せいたの所まで延ばして行き、何を呟いているのかを録音しようとしている。
「… ♪おちゃらかおちゃらかおちゃらかホイ。おちゃらかあいこでおちゃらかホイ。… ♪おちゃらかおちゃらかおちゃらかホイ。 おちゃらかあいこでおちゃらかホイ。…」(せいたの呟き)
スタッフA「こっ、…これは般若心経じゃないぞ!」
スタッフB「ばか、当たり前じゃないか。 これはどう見てもおちゃらかホイ以外の何者でもない。」
スタッフC「しかし、おちゃらか勝ったよ、とか、おちゃらか負けたよ、とかがまったく無いな。おちゃらかあいこで…ばっかしだ。」
スタッフB「ひょっとしてそれがコツなんじゃないの? おあいこだといつまでも続くわけでしょ。 ずっとあいこだと、いつまでもゲームが終わらないことになる。」
スタッフC「不条理な歌を作ったな。永遠に結論が出ずに続いて行くこの生。…とらえようによっては恐い歌だ。」
スタッフA「おちゃらかあいこでを歌っていれば苦痛への忍耐力が持続するってことですか? こいつは朗報だッ! 新しいタイプのお経だ!」
スタッフB「バカなことを言ってる場合じゃない。 もう13分も経ってるし、死なれちゃ困るから、さっさと彼を引き上げよう。」
スタッフたちが振り向くと、すでにせいたは禊場から出てしまっており、白い着物を脱いで、ふんどし一丁で体温の湯気がもうもうと白く立つ身体を駆け寄った女性たちに拭いてもらっている。
1時間半後、滝行チャレンジイベントを無事に終えて、山のふもとまで降りた一行は、用意された大型コンテナ車の内部にテーブルや椅子を置いて支度されたねぎらいのパーティ会場に落ち着いた。
揚げものを主体とした量的にもたっぷりなオードブルの大皿が食欲をそそる。
アルコール類もふんだんに並んでいる。
今は暖かい服装に着替え直した男性たちに
「すごかったね。♪ ほんとにお疲れ様でしたあ。」
と、女性たちも優しく接する。
「いやあ、天国と地獄だな。」
と、お互い笑い合いながらの酒宴が始まったが、男性陣、思ったより食も酒も進まない。
端然としており、あまり女性にでれでれともしない。
スタッフA「彼ら、なんだか様子が変わったな。」
スタッフC「ああ、… 修行の成果かな。 たとえ一時的にでもお山の峻厳な冷気と霊気の只中で極限的状況を味わう … … 人の心身に与える影響は多大なものがあるってことだろう。」
スタッフB「それにしては、あの男…」
せいたは黒胡椒の効いたチキンを丸かじりし、グラスのビールを一気飲みしながら、ここが天国と言わんばかりに両脇の女性の肩に腕をまわしてニヤニヤしている。
スタッフB「滝行でもおちゃらか、パーティでもおちゃらか。」
スタッフC「あいつだけはよう分からんわ。」