おばあちゃん子だった私は幼いころ、テレビは祖母の趣味のチャンネルを一緒に観ることが多かった。見るのは決まってNHKの生き物地球紀行や歌謡番組と、およそ子供らしくない番組ばかり。歌が大好きなのにやや(?)音痴だった祖母といつも一緒に演歌を歌っていたため、音痴な音程のまま「夜桜お七」を覚えてしまった。歌詞の意味は分からぬまま暗記してよく風呂で熱唱したものだ。
時代劇もよく二人で観ていた。とくに「暴れん坊将軍」と「三匹の侍」そして「水戸黄門」は大好きだった。
「この紋所が目に入らぬか!」
「ここにおわす御方をどなたと心得る。恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」
助さんと格さんのこの決め台詞の格好良さにずっと憧れ、いつか言ってみたいと思っていた。主人公の黄門様も素敵だが、それを陰になり日向になり補佐する二人組がかっこいい。
実際、助さん格さん的なポジションに自分は向いていると思う。自らがリーダーになるのでではなく、誰か優れた人の傍らでその人の仕事を補佐するのが好きだ。
そういう意味では舞台のことや生きていくための術を日々教わりながら、お師匠さんが大の苦手な事務仕事を助けるという今の役割は自分にぴったりだと思う。
先日、「百鬼ゆめひな」こと飯田美千香さんという人形師の方が地域の大きなイベント「いいだ人形劇フェスティバル」に出演され、私たち羽化連にも共演の機会をくださった。
シリアスな内容の2時間の最後に少し雰囲気を明るく変えて終わりたいという。本番間際になってのご依頼だったが 大変ありがたくお引き受けして、何をやるか一生懸命考えた。
いつもはお師匠さんが明確に私たちの役割を決めてくださるのだが、この場合は自分たちで、依頼主である飯田さんの求めるものは何かをくみ取って、どう応えるかを考えなくてはならなかった。
結局、たたき台を基にお師匠さんにかなりアドバイスをいただいて大幅に修正した演目で臨んだ。おかげさまで飯田さんにもお客様にもご好評をいただいた。
このように最近、私と真央ちゃんがお師匠さんとは別のお仕事をいただける機会がポツポツと出てきた。もちろんそれはお師匠さんの口添えがあってのものだけれども、
いつも私のすることを応援してくれていた祖母は6月に97歳の天寿を全うして旅立った。結局和力公演や自分たちの演奏をみてもらうチャンスがなかったので、棺の中に7月の和来座の招待券を入れておいた。それと、昔「笛をやってみたかった。」と話していたのを思い出して火葬の朝に篠笛を一本持たせてあげた。今頃、音が出なくて苦戦しているに違いない。
私はいつも、大事な人、自分にとっての黄門さまがいなくなることを恐れている。
その黄門様は稽古場で鹿踊りの面を直している。助格の二人よりはるかに体力があり、行動力があり、一人でなんでもできてしまうから、ほとんど助ける必要などないし、むしろ助けてもらってばかりだ。
ちなみに助さんと格さんの本名は佐々木助三郎と渥美格之進。私は平澤久美子で、まおちゃんは桜田真央。私たちのユニット名は「羽化連」(うかれ)で、久美子と真央をくっつけて「くま」さんではありません