いつものようにお師匠さんの名古屋の教室にお伴して帰宅したら、あと1時間もせず明日になるという時刻になった。暖かい車の中から見る外の景色があまりに寒そうで、春までこのままハイエースに乗っていたい気分になったが、降りてみれば頭上に大きなオリオン座と名を知らない無数の星がきらめいて、澄み切った冬の美しさを独り占めしているような錯覚に陥った。

本格的な冬の来る直前、昼神温泉鶴巻荘で和力のディナーコンサートがあり、120名の満席のお客様が歓声をあげた。演目はいつもよりも木村さん、小野さんの演奏が多めで、たっぷりと音楽を聴いていただきつつ、お師匠さんも「紅打ち逃げ」で披露した烏帽子の踊りや息子さんと舞う二羽の鶏舞でお客さんを魅了した。

翌日、稽古場で録音作業があったので木村さんと小野さんがいらっしゃった。

「朗ちゃんの袖を見ているといいよ。」

とは、小野さんからいただいたアドバイスだ。ずっと憧れている鶏舞の太鼓をどうにか真似したいけれどもできないでいる、と打ち明けたら助言してくださったのだ。

お師匠さんいはく、「かと言って、合わせ過ぎてもダメ」だそうだ。合わせるようでいて少し引っ張っていくような絶妙な匙加減が踊りやすいのだという。小野さんは床が滑って踊りにくそうな時は少しテンポを落としたり、お客さんとお師匠さんの様子を見ながら即座に反応してお囃子も変えているようだ。木村さんも小野さんも、その時相手が何を望んでいるのか、また、舞台にとってどうするのがベストなのかを瞬時に判断して対応できる方たちなのだ。まさに以心伝心だと思う。

踊り手に合わせ、他の人たちと息をそろえてみんなで作っていくのがお囃子の面白さだと思うが、私はまだまだそれが苦手だ。マイペースな性格なうえ、いつも一人で稽古しているせいもあるのかもしれない。それを克服するためにも、お師匠さんの教室にお伴して、時に締め太鼓や笛で参加させていただけるのは非常にあり難い。

今夜のお稽古でも、お休みの方の代わりに秩父の地打ちをさせていただいたのだが、玉入れで走ってしまってお師匠さんから注意を受けた。その場で「グラウンド20周」の罰を言い渡され、皆さんに笑われた。これはもちろん冗談で、私の居場所がなくならないようにするためのお師匠さんのやさしさなのだ。

じっと座ってパソコンに向かっていたら余計に寒くなってきた。本当に少し走って来た方が良いかもしれない。