順番が前後するが、平成23年11月10日に出光美術館とニューオータニ美術館に行った。iPadの記録を元にこちらにも。
出光では長谷川等伯展が開催されていた。狩野派と相対する長谷川等伯のことは名前くらいしか知らない。
【竹虎図屏風】
大きな屏風だったが、右足で首を掻いている左の虎の姿が愛くるしい。全体として右隻は竹の書かれ方に勢いがあり、左は霧の雰囲気のためか全体的に物静かだった。
【花鳥図屏風】
これは狩野元信のものらしい。水墨調で緻密さは良いと思う。牧谿をお手本に書いたものらしいが、等伯の方が牧谿らしさが出ているように感じた。
【絵唐津茶碗 銘松島】
ここに写真があります。
薄い茶色に鉄釉(?)で茶碗の上下に横線がある。そしてその間にアバウトに書かれた二本の松。姿もゆがんでいてへうげていた。シンプルなのに引きつけるのは何なのか?良いと思いました。
【竹鶴図屏風】
長谷川等伯作。牧谿の影響を色濃く残した左右二隻の作品。光が差し込む具合い、大気の湿り気が出ている。素晴しいと思いました。ちなみに江戸狩野の祖と言われる狩野探幽も牧谿を学ぶ。桃山期の探幽の派手な作品よりも、牧谿らしさが滲んだ彼の作品の方が好きだ。
【平沙落雁図】
瀟湘八景の一つ。書いてあるのは飛んでいる雁の群れと手前に数羽の雁が水辺に羽を休めているところ、そして遠くに山がぼんやりと描かれているだけ。凄いです。これしか書いてないのに凄いです。重文。
牧谿(もっけい)という人が出てきたが、どういう人か説明が無かった。能阿弥も然り。この日からiPadを持ち込んでいるので、その場で調べることが出来る。
牧谿は宋末期の僧侶で独特の技法で水墨画を描き、中国での評価はあまり高くなかった(牧谿が所属している派閥の評価が低く、あおりを受けた感が強い)が、日本では非常に高い評価を受け水墨画史には無くてはならない存在だったそうだ。そして牧谿に最も親炙したのが長谷川等伯だった。
そしてその足でニューオータニ美術館へ。ここでは池大雅展が開催されている。江戸時代の人で申しわけないが名前しか知らない。
【前後赤壁図屏風】
蘇軾(そしょく)の前赤壁賦と後赤壁賦が主題。
【東山清晋帖(とうざんせいしんじょう)】
扇に書かれた瀟湘八景がテーマ。重文。【烟浦帰帆(えんぽきはん)】は流れるような景色の中に二艘の小舟がある様が良かった。【瀟湘夜雨(しょうしょうやう)】では雨の湿気にくゆる風情が良かった。
そもそも【瀟湘八景(しょうしょうはっけい)】とは?WIKIによると以下の通り。
中国で伝統的に画題になってきた8つの名所。湖南省で、南の瀟水が湘江に合流して、また他の川も流れて洞庭湖を作る、湖南省の景色である。湘江流域には舜帝の妃であった娥皇と女英の二人の言い伝えが残る。彼女らは「湘妃」「湘君」と呼ばれる河の神であり、長江・湘江が流れるこの地域を神話的な場所としている。具体的には
- 瀟湘夜雨 [しょうしょう やう] :永州市蘋島・瀟湘亭。瀟湘の上にもの寂しく降る夜の雨の風景。
- 平沙落雁 [へいさ らくがん] :衡陽市回雁峰。秋の雁が鍵になって干潟に舞い降りてくる風景。
- 烟寺晩鐘 [えんじ ばんしょう] :煙寺晩鐘とも。衡山県清涼寺。夕霧に煙る遠くの寺より届く鐘の音を聞きながら迎える夜。
- 山市晴嵐 [さんし せいらん] :湘潭市昭山。山里が山霞に煙って見える風景。
- 江天暮雪 [こうてん ぼせつ] :長沙市橘子洲。日暮れの河の上に舞い降る雪の風景。
- 漁村夕照 [ぎょそん せきしょう] :桃源県武陵渓。夕焼けに染まるうら寂しい漁村の風景。
- 洞庭秋月 [どうてい しゅうげつ] :岳陽市岳陽楼。洞庭湖の上にさえ渡る秋の月。
- 遠浦帰帆 [おんぽ きはん] :湘陰県県城・湘江沿岸。帆かけ舟が夕暮れどきに遠方より戻ってくる風景。
の8つ。さっき出光で見た平沙落雁もこの一つだった、とここで初めて知った。いや勉強になった。で、このあと見た【瀟湘勝概図屏風】(重文)のすごさも分かる。瀟湘八景の全てが一つの屏風にはいっているからだ。江戸時代は鎖国中なので勿論現地に行くことは誰にも出来ない。そんな中にここまでの絵を想像で書いてしまうと言うことは凄いことだと思った。
豆知識として
【江南三大名楼】岳陽楼、黄鶴楼、勝王閣の三つ。
【洞庭赤壁図巻】
重文。衣に書かれており、きわめて緻密。名勝と言われる赤壁に洞庭湖を入れ込んで書かれている架空の風景。瀟湘勝概図屏風もそうだが、構想力に脱帽。
今回良かったことは、美術館で見聞することで相乗効果的に見識が深まったことだ。ただ単に平沙落雁を見るにしても、何も知らなければただの水墨画だが、知っていれば「あぁ、中国の瀟湘八景を牧谿が描いたものを等伯は一生懸命に学んだな」ということまで分かる。作品の背景にまで視野を向けることが出来ることは素晴しいことなのではないだろうか?更に勉強します。