
香取慎吾『10%』で踊る地獄――“パーフェクト・ビジネス・アイドル”は2019年に何を歌ったか
香取慎吾が『10%』という曲をリリースしましたね。結構聴いてます。
こちらはプロのライター氏が書いたレビュー。
●<香取慎吾「10%」レビュー>みんなが同じものを見ているわけではなくなった時代における“仲間づくり”のアンセム誕生
http://www.billboard-japan.com/special/detail/2778
うーーーーん。そうか。そうですか。いいなあ。なんか楽しそうで。何? この曲聴いてぐぬぬぬーって唸ってるの、俺だけ?
いや、曲じたいは楽しいですよ。文句なしに明るいし、ビートも極めて高性能でガシガシ踊れる。香取さんのボーカルもSMAP時代含め出色の出来。でもその前に、この曲、消費税増税をフックにした曲なんですよ。
2019年の10月1日に『10%』という曲を出した以上、そこでなにが歌われているかが重要になってくると思う(少なくとも俺はそう思う)のだけど、先述のレビューでいちばん引っかかるのは↓の部分。
<増税に反対 or 賛成というメッセージを打ち出すというよりも、むしろ「一度みんなでいろいろ一緒に考えてみない?」と、テーブルに多様な話題を並べ、ディスカッションに気軽に誘ってくれているかのような親しみ>
えーーーー?? 本当にそんな貧弱なメッセージしか込められていないわけ? この曲って。
仮に香取本人が“みんな! 消費税についていろいろ一緒に考えてみようよ! 気軽にディスカッションしようぜ!”と心から思ってこの曲をドロップしたのだとしたら、それこそ危機感もつべきだと思うんだけど。だって“俺らはこの増税について、気軽にディスカッションするところからしか始められないんだよね”と彼が判断した、ということになってしまうでしょう。
俺は『10%』を最初聴いたとき、正直かなりモヤッとした。というのも、配信開始時には歌詞が公開されていなかったのだ。
かなり細かい譜割り&耳だけだとほぼほぼ英詩に聴こえる言葉選びで、俺はほとんど歌詞が聴き取れず、そこで俺は若干の疑心暗鬼に陥った。いざ歌詞を確認して、この歌が増税タイミングにひっかけただけの、単なる話題作りだけの曲だったらどうしよう、と。
というか正直その可能性、つまりこの曲が全然ダメダメな表現に成り下がってしまっている可能性は十分にあると思っていた。個人的に新しい地図の活動には、おおすげー!と思う部分と、えっそれは…と思うところと両方あって、今回はそのダメな方が出ちゃったのかも、という疑念もあった。というのも、そもそも今回の増税に、俺はまっっっったく賛成していないからです。
小売店のなかにはこのタイミングで閉店を決めた店もあるというし、俺含む庶民~低所得層の生活にとって確実に痛手となる今回の増税。負担を薄めようと導入した軽減税率制度も混乱しまくりという有様。
●常連さんゴメン、もう限界…消費増税複雑で老舗続々閉店
https://www.asahi.com/articles/ASM9Y5WFYM9YUTIL014.html
せめて本当にこの国のために使ってくれればいいけど、すでに徴収されている8%の消費税も社会保障にはロクに使われず、大企業にばかり私腹を肥やさせてる現政権が、今更10%に上げたところで的確な使い方をしてくれるかは甚だ疑問。そしてそのことに意義を唱えることすらしないメディアと、それを鵜呑みにしてる世間。で、憤りながらもデモ参加かツイートくらいしか抗う術がない自分に苛立ってもいた。
10%に増えた税金は、俺(ら)の生活を間違いなく変化させた。実際、自分の財布から金がなくなって、その結果ツラいとかキツいとかっていう現実が生まれている。
今回の増税を表現のネタにしていい悪いとかいう話では全くなく、ネタにする以上こういうバックグラウンドを踏まえてそれが表現としてどう成立しているのか、というジャッジを聴き手に下されてしかるべきテーマなのだ、「増税」というのは。『10%』というタイトルで増税開始当日にドロップするのだから、なおさらでしょう。
俺は歌詞なしでこの曲を聴いだ段階では、評価を(かなり不安寄りの)保留扱いにしていた。少なくともわずかに聴き取れることばとサウンドからは、そこにどんな意図が込められているのか明確に読み取ることは出来なかったから。
さて。リリースから数日後、仕事終わりに有楽町でけっこう飲んで、酔っぱらって乗った電車の中でスマホをみたら、歌詞が公開されていた。ここからはまず↓を見て、曲を聴いて、各自が判断するしかないので、そこは各自にまかせる。まずは歌詞読んで、で、音を聴いてみてくれ。
https://utaten.com/lyric/%E9%A6%99%E5%8F%96%E6%85%8E%E5%90%BE/10%25
ここまで明確に反抗のメッセージを込めているとは思わなかった。
何に? 今回の増税に対して、だ。
正直まだよくわからんダブルミーニングっぽい部分もあるけど、だいたいにおいて当初聴き逃していた歌詞の殆どが、今回の増税を揶揄し、皮肉り、DISっている。まあそう聴こえてない人が大半ぽいので、俺のバイアスがかかってるのかもしれんけど、でもトータルで見たら明らかに「賛」ではなく「否」だと思う。
そもそも歌詞が意図的に聴き取れない(=聴き取らせない)仕様になってるから、わかりやすいプロテストソングとしては機能しないだろう。現に、増税タイミングに有名タレントが政権をアシストする楽曲を出したと批判する声も目にした(というか俺自身半分そうなんじゃないかと思ってた)し。
けど、少なくとも俺は、この時代を生きる表現者・香取慎吾が提示した『10%』という楽曲は決して見誤っていないと思うし、彼が安易なポジショニングでこの表現をしたとも思わない。むしろこの曲をいつから準備していたのかを逆算すると、彼の中にある問題意識は実は結構深いものなのではないか。
中でもいちばんキツいのは、<10% YOU DON'T KNOW 愚鈍脳 NOW>。
ここで歌われる“愚鈍脳”とは、この狂った増税を指揮した現政権のことでもあるし、そしてその判断を結果的についに受け入れてしまった(俺&歌い手自身を含む)国民のことに聞こえる。
“お前はまだ知らないふりをしている。これまでも、いまも、そしてこれからも。だろ?”
そんなメッセージを快楽に満ちたダンスビートに乗せて歌う香取慎吾。それを聴いてガッシガシに踊る俺。この曲で踊るとき、俺は引き裂かれる。彼の表現の鋭さに心底興奮しつつ、彼がこんな曲をドロップせざるをえない現実に吐き気がする。香取慎吾といえば「パーフェクト・ビジネス・アイドル」を自称するほど、プロとしてエンタテインメントを提供することにプライドと人並み外れた意地を持っている人間である。そんな彼のソロシングルでこんな生々しいアンビバレンツを味わうなんて、想像もしなかった。
「地獄をすこしでもマシな世界に変えようとしたら、いまここが地獄であることを自覚することからしかはじめられないのだ」
彼はそういうようなことを、極めて楽しく、気持ちよく、音楽を通してやってのけようとしているのかもしれない。いや別にそうじゃないかもしれない。でも『10%』を聴いて、俺はなんかそういうことを思ったよ。今年も、来年も、このビートで踊りまくってやるぜ。クソ!!
そんな『10%』が入ったアルバム『20200101』は、2020年元旦リリース(流れるような宣伝)。俺は昨日手に入れましたが、聴くのは元旦までのお楽しみに取っておくことにします。もちろん購入したのは『10%』の小西康陽REMIXが入ったGOLD盤。期待してるぞー!!
***
最後に余談。香取がかつて所属したSMAPというアイドルグループ。俺は彼らの最後のツアーを観て、こう綴ったことがある。
<要は「俺ら、いま、キツくね?」っていう現状認識なんだと思う、いまのSMAPは>
・SMAPの『Mr.S』ツアーは、なんでこんなに最高だったのかしら
https://ameblo.jp/oddcourage/entry-11980389543.html
そして↑のツアー最終日、アンコールで最後に歌われたのは、『ユーモアしちゃうよ』という曲だった。
<底抜けに明るいこの曲を聴くたびに俺は、
「で、きみはどうする?」
と、そう言われてる気がする。>
・<雨上がり、アスファルトの匂い>――『ユーモアしちゃうよ』を500回聴いて考えた
https://ameblo.jp/oddcourage/entry-12067625072.html
SMAPは(すべてがそうだったとは言わないけど)非常にシビアな現状認識をもったうえでメッセージを発し続けた表現者だったと俺は思っている。
『10%』を期にこういう視点でSMAPの楽曲たちを改めて辿ってみると、また違った聴き方ができるかもしれませんよ。その際は『007』(1995年作)と『Mr.S』(2013年作)の2枚のアルバムから聴いてみるのをおすすめします。激名盤なので!!
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