失くしてしまったときには
戻っておいでよ あなたのふるさと
風の吹く丘へ
これは、海援隊がライブのオープニングでよく演奏する「風の福岡」の歌詞だ。
海援隊の手にかかると、風の福岡は、風の吹く丘になる。
そして「風の吹く丘」は、風の福岡になるのだ。
夢を失くしてしまったときには、風の福岡に戻っておいでと、海援隊の三人は歌う。
私は福岡出身の人を羨ましく思う。そしてこの歌に嫉妬する。
家庭の事情で、子どもの頃からいろんな土地で暮らした私は、ふるさとをもたない。
高校を卒業するまでの七年間、東北で暮らしたことがある。だから、その土地がふるさとだと言えないこともない。
長い間、そこがふるさとなんだと、自分に言い聞かせてきたのだ。
だが、それをやめた。
私はふるさとをもたない。だから土地に対する執着がない。
放浪癖があると自覚しているが、今の私には、体現するのは無理だ。日々の暮らしがあり、子育てがあり、年老いた両親があり、そして仕事がある。
海援隊はまた、こうも歌う
もしもあなたが 生きているなら
苦しいたたかいの日々に
思い出して あなたのふるさと
風の福岡を
日々の暮らしは時として、たたかいとなる。たたかいの日々に私は、思い出すふるさとがない。
抱いた夢を失くしてしまった時、そして苦しいたたかいの日々に、寄り添えるふるさとがない。
今の暮らしに一段落つけたら、風の吹く丘を探しに放浪するだろう。
だが放浪は、きっと死ぬまで続くのだ。