そして昼から夕方まで、ほとんど全ての生徒さんの演奏を聴いたのです。

中には小学六年生でショパンの幻想即興曲をバリバリ弾きこなす子や、ノクターンを情緒たっぷりに弾く子もいたりして、驚きました。
この子たちは、いろんなコンテストに出ていて、上位入賞の常連です。
そこいくとウチの娘は、まあ…それなりに頑張りましたねってレベルです。
いろんな生徒さんの演奏を聴いて私が心を動かされたのは、前に挙げた上手な子どもよりも、音が途中で詰まったり外したりしながらも、一生懸命に立て直して最後まで頑張って弾く子たちの演奏でした。
一生懸命練習したのは、実際の演奏を聴けば分かります。
私が大きな拍手をすると、横にいる娘がこう言いました。
「お父さん、なんでそんなに拍手をするの?」
(注:コンテストは例外です。結果が全てであり、観客は演奏が終わろうと拍手はしません)
私はこんな風に答えました。
「いい演奏だし、とても頑張って練習したのが分かるから拍手をしたんだよ。もしかしたら、拍手で人生が変わるかもしれないよ」
本当にそう思っているのです。私はピアノがとても下手で、発表会で音抜けや外すことはしょっちゅう。それでも大きな拍手をもらったり、よかったよ!と言ってもらったりすると、失敗が吹き飛んでいったからです。
そして、また続けようという気になるのです。
その子も私と同じように思ったとしたら、頑張って練習して、ひょっとしたらプロのピアニストになれるかもしれない。そこまでいかなくても、ずっと音楽がそばにある人生を送るかもしれない。
大袈裟すぎますかね?
私の腕前は箸にも棒にもかかりませんが、今でも音楽がそばにいてくれます。
今回のピアノ発表会では、娘はソロの他に父である私と連弾をしました。
親子でピアノの前に立ったとき、会場が少しどよめいて、「おとうさんと弾くんだ」という声が客席から聞こえてきたときは、やった!と思いましたね。
いい年したオヤジと娘との連弾という、ミスマッチに驚いたのでしょう。私はこの反応を期待していたのですから。
肝心の演奏は…まあそれなりにやっぱり…あ~あ、かなり練習したんたけど。落ち込むな、これは。
けれどね、先生や聴いて下さった方から褒められると「やっちまったよ~」って感情が薄らぐのです。一生懸命に練習したっていう自負があればね。
そんなものですよ、大人になってからも。