ここに、一人の冴えないおっさんがいる
彼には息子と娘が一人ずついた
彼は昨夜、疲れた体を引きずって帰宅した
帰宅するなり彼の息子が
「お父さん!将棋やろうよ!」と、仕事で疲れた彼(父親)にプレーをせがんできた
「ちょっと待て!まずは酒くらい飲ませろ」
彼はそう言って、湯飲みに並々注いだ剣菱(日本酒)をあおった
今夜は酔いがまわるのが早い
週末で疲れているからだろう
そう思いながら今度は焼酎をあおっていると、目の前に将棋版が置かれた

こうなれば仕方がない
ヨッパライに変化した彼は、仕方なしに息子の将棋の相手をするのだった
息子は最近、メキメキと将棋の力をつけてきた
うわさで聞くに、友達の間では結構強いらしい
現に、四回のうち一回は父親に勝つ
さて、ヨッパライの思考力は酒のせいで低下している
しかし、酔った勢いがあるから思い切りのいい指し手になる
勢いに押された息子は、ヨッパライに敗退した
息子は二度目のプレーをせがむ
ヨッパライの目の前に、再び将棋版が置かれた
二回戦
ヨッパライの勢いは、ますます増していく
そして、息子に勝利した
悔しさに地団駄を踏む息子は、三度目のプレーをせがむ
ヨッパライは、今度は喜んで相手をした
そして、息子に勝利した
ヨッパライはふと思った
息子はこんなに弱いはずがないと
四回戦
今度はヨッパライのほうから息子にプレーを持ちかけた
ヨッパライは気づいた
指し方が自分にそっくりだと
そして息子は四たび、敗退した
指し方がますます自分にそっくりだ
そう思ってヨッパライが湯飲みに手を伸ばすと、まだ残っているはずの焼酎が空になっていた
なんだ!そういうことだったのか!
どうりで指し方が似てくるはずだ