仕事の絡みで学内に入ったけど、ある程度は予想していたとはいえ、あまりの変わりように、声が出なかった

ショックだった
すっかり都会的な雰囲気となり、新しい校舎?というよりは美術館のロビーのような一角で、留学生が談笑している
帰り際、写真を撮ろうとして、すぐにやめた
三十年前に、確かにここにいたはずの自分の姿を、今のキャンパスには投影できなかった
そして、当時付き合っていた彼女の姿も、投影できなかった
こんな気持ちじゃ、写真なんて撮れない
ポツンとキャンパスを見つめるオレの目の前を、学生たちが楽しそうに通り過ぎていく
彼、彼女たちには、オレはどう映ったのか
くたびれた、ただのオッサンとでも映ったか
仮に二十歳のオレの分身が、ここにタイムスリップしたとしても、今のオレはそう映ったかもしれない
そんなことを考えてキャンパスを後にしていると、たまたま擦れ違った女子学生に、昔の彼女の面影をみた
ちょっと待ってくれ!
オレを置いてどこへ行くんだ!
こっちを振り返ってくれ!
心の中で、そう叫んでいた
こっちを振り返ってくれ!
今度は、声が出そうになった
「写真を撮らせてくれ!」
けれど、声にならなかった
なぜなのか
自分や彼女の姿が、キャンパスに投影できなかった云々じゃない
不審者として通報される可能性が大いにあるからだ
全くさ、イヤな事態に、否、イヤな時代になっちまったぜ!
良かった~通報されずに
ところでゆうこ、今どこにいるんだ
そうか、もうとっくに死んでいるんだよな、オレの心の中では
あと二十年もすれば、オレも、ゆうこも老人だ
このままじゃ、オフコース「老人のつぶやき」そのものになってしまう
まあ、それもよし
好きなギターやピアノを弾いて歌って、フォークシンガーとして枯れて、そして死んでいけたら、それでいい