ホンダ、ダイハツ、トヨタ等、電装製燃料ポンプ採用メーカのリコール

低圧燃料ポンプのインペラ(樹脂製羽根車)において、成形条件が不適切なため、樹脂密度が低くなって、燃料により膨潤して変形することがあります。そのため、インペラがポンプカバーと接触して燃料ポンプが作動不良となり、最悪の場合、走行中エンストに至るおそれがあります。

とのこと

 

何時もの事ですが、リコール内容を幾ら読んでも原因が解りません。

 

11月までは、金型温度の低いことによって結晶化度が低く膨潤が起こったとしていたが、12月8日にホンダは金型ゲートの不具合でインペラの密度バラツキが発生し不具合に行ったため採用車種全車のリコールを届け出た。

 

インペラの不具合原因は、金型温度とゲート不良の2つが有ったようです。

 

 

インペラの材料は、強化材としてガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有したスーパーエンジニアリングプラスチックであるポリフェニレンスルフィド(PPS)です。

 

 

 

射出成型のアニメーション動画

Plastic Injection Molding

 

 

まず射出成型時の金型温度について

メーカのカタログ(DIC.PPCの基本的性質)では、

6.2.2.金型温度

成型時の金型温度は、常温から150℃以上もの高温迄の広い範囲で成形可能です。 

ただ重要なのは金型温度に依ってPPSの特性は最も強く影響を受けることです 。

 PPSの性能を発揮させるためには充分な結晶化度の確保の点で120℃以上の高温金型が必要です。好ましい金型温度範囲は、150〜130℃が適当です。金型温度が高い方がより高い結晶化度と平滑で光沢の有る表面を得ることができます。一方、120℃以下の金型温度の場合、成型品の結晶化が不充分で耐熱性が低い、表面状態が悪い、離型性が悪いなどのトラブルを招くことがあります。

その他寸法安定性、色調、成形収縮、機械物性などさまざまな特性を左右します。

 なお低温金型での成形の際、ガラス転移温度;Tg付近の90±10℃は特に離型性が悪くなりますので避けて下さい。

とのことです。

 

ここで、樹脂成型では、温度や時間そして圧力は成形条件なので全て管理項目です。

必ず毎日確認しています記録も残しています。

条件設定は、専門の技術者が樹脂の特性と金型の出来などを見て決定して成形してみて一番安定していて短時間で成形できる条件を設定します。

私の経験から金型温度が低くて起こったとは考えにくいです。トラブルが有れば別ですが?

そもそも管理項目なので間違っていたら記録を見ればすぐわかります。

 

金型のゲート不良について

6.4.4.ゲート

サイド、フィルム、デイスク、センター、トンネル、ピンおよびサブマリンゲートなどさまざまなゲート方式が可能ですがサイドゲートが最もポピュラーです。

フィルムゲートは、一般に成形品をフラットに仕上げるのに有効であるのに対してデイスクゲートは円形あるいはシリンダー状の成型品の円形精度を確保するのに効果があります。

サブマリンゲートやトンネルゲートは後行程でのゲートカットが不要のため合理的です。ただしPPSコンパウンドは、剛直な材料のため特にサブマリンゲートの設計には制限があります。Fig 6.5に具体的なサブマリンゲートのデザインを示します。

 

量産品なので多数個取りだと思われます。又成形型も複数あるのではないかと思います。

多数取りの場合製品には番号が振られていて不具合が特定の番号に偏っていた場合はゲートを塞いで使わなくして製造します。今回はゲートの位置や形状にミスが有ったように感じます。

尚、量産品なのでゲートは自動切断が出来るサブマリンゲートかピンゲートかと思います。

但しサブマリンゲートは、複数取りの場合のバランスの難しさがあったり、流動性の悪い樹脂やガラス入りの樹脂には向いておりません。

 

PPC自体は、流動性が有るようですが、ガラス繊維が入ると注意が必要です。

ガラス繊維入りは、製品に樹脂が均一に流れて充填されるようにしなければなりません。

そもそもガラス繊維は、製品形状の精度と安定性そして硬さを高める為に入れますのでガラス繊維均一に充填されることが重要です。

所が、ゲートの形状や樹脂のゲート口の位置によっては、樹脂の流れが均一に広がらず製品に思わぬ影響を与えます。充填後の保持圧と時間も不適切だったかもしれません。

 

これはトンネルゲート(サブマリンゲート)ですが色々なゲート動画はここ

サイドゲート_充填動画

 

 

 

 

4.2.機械的性質の材料異方性

PPS樹脂にかかわらず、ガラス繊維などの剛性の高い繊維で強化された材料は、成形加工時の繊維の配向によってその性質が支配される材料異方性を示します。 PPSの場合、結晶性樹脂のためにさらに分子の配向も加わり異方性を強くしています。

異方性の程度は、成型品の板厚さや成形条件さらにはゲート形状などさまざまな因子に支配されます。 

配向により影響を受ける特性は、強度、弾性率、伸びなどの機械的性質と、成形収縮率や線熱膨張などの寸法に関わる特性さらには熱変形温度などもあげられます。

 

写真が無いので製品の状況が解りません、直接見れればかなり解ると思うのですが・・・・。
温度が低ければ、表面が荒れて艶が有りません。

高ければ焼けが発生しガラス繊維が表面に浮いてきます。

 

それにしても最初のリコール(トヨタ)が2019年1月14日で不具合件数555件も発生しています。

それから約5年根本原因が解らずズルズルとリコールを繰返していた。

 

チョット信じられません。根本原因も解らず膨潤変形と解っていてこんなに使い続けるのが解りません。

 

私が品証時代にも燃料ポンプの不具合で対策したことが有りますが、コストダウンで材料変更したら膨潤が起こった為元の材料に戻してもらいました。この時の成形型は同じだったのでスムーズに変更が出来ました。膨潤した材料は使用禁止にしたと思います。

 

最後に設計者は全部わかっていないといけない様な論調に成りがちですが、そんなの無理です。

今回の問題は、熱に関しては射出条件設定の技術者の問題ゲートならインペラの金型設計の問題です。

特に型の場合は、型屋さんの問題です。安いからと言って型屋を変更すると痛い目に合います。良い型とはこういったもろもろを全て考慮して設計してくれる型屋さんを言います。

 

自分達で全て対応できるならどんな型屋さんでも良いが、解らないなら高くても良い型屋さんを選ぶべきです。

 

なんだかんだ言って、団塊の世代は何もない所から発展するまでを丁度経験して来ています。その世代もいなくなってから10年、射出成形ならエンジニアリングプラスチックABSが出たころで成形機も大したものが無く試行錯誤しながら成形条件を見つけていました。ガラス繊維は混合ペレットなんて無かったので何%入れたら精度が良く壊れないものが作れるか検討した物です。

今は原料も射出成型機も周辺機器もすっかり革新してしまったため団塊の世代が持っていたノウハウは引き継がれず消えたと思われます。今後も、ますます似たような不具合は発生すると思います。

 

この領域は、残念ながら経験がものを云います。

 

以上です。

 

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