5)エンジンと埋込磁石同期モータ

5速MT車の走行性能線図ですがこれと同じ駆動力をモータのみで得ようとすると赤線で示す特性のモータが必要となります。

最大駆動力は車速0-40km/hまで一定でそれより高速域では最高速180km/hまで駆動力は車速に対しほぼ反比例して低下(出力が一定)しています。 車速40km/hにおけるモータ回転数が基底回転数、180km/hにおけるモータ回転数が最高回転数、可変速比R=最高回転数/基底回転数=4.5となる。モータにとってこのRの値は重要であり、効率を保ちながらRを大きくすることは易しいことではない。

 

ネオジム永久磁石の強力な磁界により高トルクを得る永久磁石式同期モータは、性能を飛躍的に向上させました。一方で強力な磁界はロータ(回転子)回転に伴い大きな逆起電力を生むので回転数を上げるためにはモータに高い電圧を印加しなければなりません。 モータにも特性が有って全てに都合の良いモータは有りません。したがって低速時に高トルクの発生するモータは、そのままでは高速運転が出来ません。そこで高速域では弱め界磁制御によりトルクと効率を低下させて高速運転を実現しています。

 

基底回転数が4000rpmのモータの界磁制御を行った場合のモータ効率マップ。 

図から明らかなように高速で界磁弱め制御を行う場合、それを行わない場合に比べモータ効率が低下し、特に高速、高負荷における効率低下が大きくなります。永久磁石式同期モータでは低速での高トルク化と高速での高効率化は背反問題として克服しなければならない大きな技術課題です。

 

6)弱め界磁制御とは

Ÿ  モータの制御は、エネルギー効率が良く、高速でもスムーズな走りを実現するため、インバータ制御技術は、電池の直流電力を三相交流電流に変換し、電流の位相を最適に制御することで、モータのトルク出力と効率向上を実現しています。特に、PMモータ制御の特徴に「弱め界磁制御」があります。永久磁石モータでは、小型軽量で高効率である長所を持つ一方、高速回転領域ではロータ(回転子)の永久磁石の回転により、ステータ(固定子)の巻線に起電力が誘起され、この起電力とインバータ駆動電圧がバランスするところで、最高回転数が決定されます。最高回転を高めるには、この誘導起電力を弱めることが必要で、駆動電流の制御手法として「弱め界磁制御」が用いられています。

 

Ÿ  磁石のNSの境界線部分をq軸(横軸)、磁極の部分をd(直軸)と呼んでいます。q軸側の電磁石に電流を流すとトルク(回転しようとする力)が発生します。 d軸側の電磁石に電流を流してもトルクは発生しません。d軸電流は流す方向によって磁石の磁束を弱めたり強めたりするだけです。
HEVEVは、磁石の磁界を弱くして回転速度を上げる「弱め界磁」を頻繁に使用します。この時d軸側に制御電流を流します。

 

 

7)ベクトル制御
「ベクトル制御」はもともと誘導モータの効率を向上させるために考え出されたものです。
PMモータでは、ロータは永久磁石なので、界磁は磁石が作ります、よって界磁の目標値は“0”となります。従ってモータ電流の全てがトルクになるよう制御します。

 

²  ベクトル制御によるトルク制御アンプ

 

 

8)ベクトルエンジンの構成

 

最近のマイコンは、モータを回すための駆動波形の構築は、マイコン内組み込まれている。(以前はソフトウェア処理で構築、現在はハードウェアで内臓)従って、3相モータをどうやって回すのか?知らなくても、モータは精度良く回す事が出来る。

 

 

9)スイッチング周波数の切り換えとパワー素子損失

*         PWM 制御方式では,モータを高速回転させる場合,制御性を確保するため,モータ電流の正弦波周波数が高くなるのに対応して,スイッチング周波数を高く設定する必要がある.しかし,大電流が流れる低速域では,高いスイッチング周波数は必要ない.EV モータの運転では,一般に高速域での運転時間は少ないにもかかわらず,スイッチング周波数を常に高速域に合わせる必要があるため,無駄なスイッチング損失が多くなり効率が低下する.そこで,インバータの制御では,モータ回転数に応じ,スイッチング周波数を低速域・中速域・高速域の三段階に切り換える。

*         スイッチング周波数を切り換えることで,低速域の発熱・損失を図のように最小限に抑制できる.特に,発熱や損失が大きくなるに従って,パワー素子や冷却系が大型化するが,この発熱・損失が大幅に低減されることによりインバータの小型化が可能となる.

*          しかし,スイッチング周波数の切り換え時においては,トルク変動や異音が発生するという問題がある.これは,スイッチング周波数が異なることにより,電流制御システムに遅れが生じ,モータ電圧やモータ電流が変動することにより,トルク変動や異音が発生するためである.
車にとっては、異音は大問題に成ります。各社苦労しているはずです。
 

9)は、三菱重工技報 VOL.45 NO.3EVモータ用低損失インバータの開発 より抜粋

詳しくは以下のURL

http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/453/453015.pdf

 

以上です

インバータ編は終了です。次回から二次電池編に成ります。