3.電磁鋼板

1) 電磁鋼板とは

電磁鋼板とは!
磁石につく鉄の特性を活かした“機能材料”

良い電磁鋼板”とは!
電流が流れることで生まれた磁気をスッと通す、
                                       エネルギーロス(鉄損)が少ないもの

 

 

※ 地球上に存在する物質の中で、常温での強磁性体元素は「鉄」「ニッケル」「コバルト」の3つしかない。

※ 電気があるところには磁力が発生する。鉄は、構造材料でありながら強い磁性を併せ持つ重宝な素材。

※ 磁化の強さを表す原子飽和磁気モーメントは、鉄が2.2MB(ボーア磁子)、コバルト1.7、ニッケル0.6

 

 

2)電磁鋼板の磁気特性

u  磁性材料の磁気特性を左右する「磁気異方性」

«  体心立方格子と面心立方格子の違い

 

磁気モーメントの動きは、鉄やニッケルの結晶構造の違いが影響している。

 

«  鉄の結晶内で生まれる磁気モーメントの方向

 

結晶中で磁気モーメントは何もなければある特定の方向を向いている。鉄の場合だと立方体の稜線の方向〈100〉方向だ。

鉄では〈100〉方向に磁気モーメントが向くときに最もエネルギーが低い。

一方、面心立方格子のニッケルは〈111〉方向に磁気モーメントが向くときに最もエネルギーが低いため、〈111〉方向に磁気を通しやすく、〈100〉方向が最もロスが大きい

 

 

3)コアの製造

u  HV向けにモーターコアを製造するのは、世界でも5社程度

国内では三井ハイテックと黒田精工の2社に限られ、両社とも生産能力を増強・・・モータコアは、モータの回転部分で電流を通りやすくしモータの特性を上げるため0・15~0・5ミリの極薄電磁鋼板を数百枚積み重ねて作る。トヨタのプリウス向けは三井ハイテックが、ホンダのインサイトは黒田精工がそれぞれ100%納入している。

 

電磁鋼板の技術的ポイントは鉄損を少なくすること。

鉄損には、ヒステリシス損と渦電流損が有る。

ヒステリシス損は、結晶の方向性を制御して少なくする。

トランスなどに使う方向性電磁鋼板は、圧延方向に対して全ての結晶が、同じ方向に並ぶように制御する。下図①
モータなど無方向性電磁鋼板は結晶が全ての方向にランダムに並ぶように制御する。下図②③

また、磁界の向きを変えると磁化の変化を妨げるように鋼板内に渦電流が生じる性質を持つ。そのエネルギーロスが、「渦電流損」。これをなくすためには板厚面内の渦電流が流れ難くすることつまり板厚を薄くする(薄手化)ことがポイントになります。例えば、板厚を半分にすると渦電流損は4分の1になり、薄くすればするほど高い効果が得られる。

 

 

4)磁石原料と磁性

永久磁石の原料として、3d遷移元素の鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。単体が室温で強磁性を示すのは、これら3つの元素のみである。さらにランタノイドのサマリウム、ネオジムも磁石の原料として挙げられる。単体では強磁性を示さないが、4f軌道に余ったスピンが存在するため、これらを原料とすることで強力な磁石が実現できる。なお、4f軌道電子はスピンと共に軌道運動も磁性に寄与している。

 

 

磁気モーメントと希土類磁石の秘密

一般には原子の磁気モーメントといえば、(1)原子核の核磁気モーメント、(2)電子の軌道磁気モーメント、(3)電子のスピン磁気モーメントの総和のことですがスピン磁気モーメントが最も大きく、磁石の場合の磁気モーメントといえばスピン磁気モーメントを指すことが多いようです。電子が回転(スピン)すると電流の磁気作用と同じく周囲に磁場が発生します。

 

しかし多くの原子は回転が互いに逆向きの電子対(ペア)となっているために、磁場は打ち消されてしまいます。ところが鉄やコバルトの遷移金属は最外殻の内側の3d電子軌道に不対電子があり、電子の回転による磁場が発生します。ネオジム、サマリウムのような希土類金属は4f軌道に不対電子がありますが、ガドリニウム(Gd)以外は室温では常磁性で、鉄やコバルトと化合物を作ると相互作用で磁気モーメントの方向がそろい強磁性を示すようになり、磁場を発生させます。したがって、ネオジム磁石(Nd-Fe-B)やサマコバ磁石(Sm-Co)は大きな自発磁化を持つのです。また、鉄やコバルトだけでは外部磁場が取り除かれると、次ページで説明するように、エネルギーを最少にするために磁壁移動が起きて外部には磁力線がでてきません。しかし、Nd2Fe14Bのような化合物では磁壁移動を妨げる微細な結晶構造による大きな保磁力を有し、大きな磁化と異方性エネルギー、原子間の交換相互作用などの素晴らしい複合効果で、着磁すると強力な磁場を発生するのです。

 

以上です。