「それゆえに、清須家を見限り、上総介殿にお味方することにしたのじゃ」
源蔵が言う。柏木は、
「賢明なご判断にございます。三位は、うつけに付くなんぞ愚の骨頂と罵っておりましたが」
と、答えた。
と、そこへ、
「源蔵、ご苦労であったな」
と、声をかけて来る者がいた。
「殿」
と、源蔵が言う。
この男こそ、織田太郎左衛門尉寛廉であった。
この年、25歳。小田井城主をついで2年経っていた。
「柏木、更早。良く参った。ついてきなさい」
寛廉は、言ってからゆっくり歩き出した。
「二人には申し訳ないが」
と、寛廉が話し始めた。
柏木は、警戒心をあらわにし、身構えた。
自分の後ろに更早を隠した。
何としても更早だけは守ろうとしていた。
「柏木。警戒しなくていい。約束はちゃんと守る」
柏木の様子を見て、寛廉は苦笑しながら言った。
「申し訳ないというのは、戦う相手に父親である、織田三位がいる事じゃ」
「もはや父親ではありません」
柏木が答える。
「更早はどうじゃ?」
寛廉は、更早の顔をみた。更早は、目があった途端に目をそむけた。
「私は、姉上に任せております。私の願いは、織田三位からの解放」
更早は答えた。
「分かった。その願いは、私たちが叶えてやろう。だが、三位は死んでしまうかもしれん」
寛廉が更早を見た。それでも良いのか、とその瞳が語っていた。
更早は、その瞳を見返し、うなずいた。