「国土学」 | 小田春人オフィシャルブログ「先人に学ぶ 産業と教育の復活」

「国土学」

 大石久和土木学会会長提唱の「国土学」の要諦を紹介します。 少々長くなりますが、著書「国土学再考」(毎日新聞社、2009年)より引用します。

 

 「わが国の自然条件は非常に厳しく、それがそれぞれ重なり合う形で厳しさを増している。

 例えば、国土の形状、主要な部分が四つの島に分かれていること、多数の島々を抱えていること、脊梁(せきりょう)山脈が国土を縦貫していること、また河口部と山間盆地としてしか平野がなく、それぞれが非常に狭いこと、また平野の比率が非常に小さいこと、それらの平野のほとんどが軟弱地盤から成り立っていること、その国土のほとんどすべての地域で大地震が起こる可能性があること。 地域総平均の二倍の雨が降り水資源に恵まれているように見えるが、梅雨期と台風期に集中して豪雨があること、脊梁山脈が存在するがゆえに、河川が非常に短くて急流であり、この降雨特性とあいまって、土砂崩れや洪水の危険を大きくしていること、さらに国土面積の六割が積雪寒冷地帯にあり、多くの都市が豪雪地帯にあることなどである。

 さらに難儀なことは、軟弱地盤の上の平野に大都市があり、そこでは大地震の起こる危険性があること、加えて津波の被害を受けやすいこと。また、平野がほとんど河川の氾濫区域にあって、洪水の危険性が常にあることなどである。

 ところが、西欧では、このような自然条件がほとんどない。まるで、六重苦、七重苦である。

 われわれ日本人は、こうした厳しい条件の国土に働きかけることによって、国土から恵みを得てきたのである。 そのことを決して忘れてはならない。

 しかるに、わが国では、インフラ整備はもう終わったとか、公共事業はばらばぎなどの批判が、公共投資は効果がないという、ストック効果を無視した議論に結びついてしまった。国土を安全にし、人や物や情報が効率的に通じ合い、快適に暮らしていけるよう、いまこそ国土への働くかけを強め、国土からの恵みを増やそうという共通認識を持たなければならない。」

 まさに正論であり、説得力があります。

 立て続けに天災が発生してきた現実をふまえて、今こそ、「六重苦・七重苦に働きかけをして、その恵みによって国土が発展してきた」という共通認識を深めることが極めて大切です。