「ぼくの命は言葉とともにある」
1月下旬、東京で「人間力を高める」と銘打った新春特別講演会を聴講しました。
3人の講師、それぞれの講演に感動しましたが、とりわけ感銘を受けたのは、福島智(さとし)東京大学教授の「ぼくの命は言葉とともにある」です。
福島教授は、3歳で右目、9歳で左目を失明。14歳で右耳、18歳で左耳の聴力を失いました。
全盲ろうで、2008年46歳で東京大学教授になられています。勿論、世界で初めての大学教授です。
講演中両側に2人の女性介助者はいましたが、驚くことに、その日本語は明瞭に聞きとることができました。
指先の宇宙
ぼくが光と音を失ったとき、
そこには言葉がなかった。
そして世界がなかった。
ぼくは闇と静寂の中でただ1人、
言葉をなくして座っていた。
ぼくの指にきみの指がふれたとき、
そこに言葉が生まれた。
言葉は光を放ちメロディを呼び戻した。
ぼくが指先を通してきみとコミュニケートするとき、
そこに新たな宇宙が生まれ、
ぼくは再び世界を発見した。
コミュニケーションはぼくの命。
ぼくの命はいつも言葉とともにある。
指先の宇宙で紡ぎ出された言葉とともに。
講演で受けた感銘を、再び味わいたいと思い、本になった「ぼくの命は言葉とともにある」(致知出版社)を読んでみました。
講演でも印象に残った詩です。
絶望の淵から救ってくれたのは、言葉であり言葉を伝える指点字というコミュニケーションの方法です。
「自分の非力さ、無力さ、怠惰さといったものを認めて、どん底まで落ち込んだところで、『それでも生きる意味があるのか』と考える。そうすることで自分の生きる本当の意味や自分の中にある宝に気づくのではないでしょうか」
最後にこう書かれています。
「本書で述べたことの多くは、私自身の盲ろう者としての体験を通して考えたことや思ったことです。言い換えれば、指先の宇宙で紡ぎ出された言葉で、私は本書を綴りました。たとえ僅かでも、その言葉が皆さんにとって生きる力になれば幸いです」
謙虚に書かれていますが、「生きる上での力になる」こと請け合いです。